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【悲報】推しのVTuberが母だった件  作者: 宮田花壇
2章

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アッー!な先輩と料理対決①

「まあツーアウトってところですね」

「……はい」


 デスクの前でマネージャーの玉森さんが言ったそのひとことに、俺は浮かない表情で頷くしかなかった。

 それもそのはず。今日俺が事務所を訪れたのはここ最近の配信内容に関する聞き取り調査のためだからだ。


「いやはや前回の親子風呂といい今回のハンバーガー屋といい、こうもキワどい内容や会話ばかりだとさすがに配信サイトからの警告などが恐くなってきますね」

「……返す言葉もございません」

「いえ、責めてるわけじゃないんです。経緯は配信をチェックしているので把握していますから、別に達也さんに非があるとは思っていません。むしろ仁恵さん含めあの先輩方を相手に達也さんはよくやってくれてると思います」

「はぁ……まあそう言っていただけるのはありがたいですけども」


 ただ本音を言うと今は労いよりも各ライバーへの倫理観の指導を行ってほしい気持ちもあるような……。


「それに言うでしょう? 野球は9回裏ツーアウトからって。ここからいかに粘れるかがむしろこちらの見せどころってもんです」

「見せどころ……」

「達也さんはご存じないですか、我が社の社訓を?」

「社訓?」

「『垢BANされなければなにやってもよくない?』……これこそVランド社長、宗像大五郎が決めたうちの基本理念です!」

「いやよくないでしょ! なんですかその理念は!?」


 おいやっぱヤベーよこの会社!(n回目)


「ちなみに壁にもちゃんと書いてありますよ。ほらあの時計のそば」

「あ、ホントだなんか掛け軸みたいな感じで飾られてる。しかも無駄にめっちゃ達筆……もしかして誰か高名な書道の先生にでも頼んだんですか?」

「いえ、社長が忘年会の〆にノリで書いてました」

「手が震えて歪んだだけってこと!?」


 チクショウただ一つの褒めポイントすらも! あの酔っ払いめ……。

 まあでも忘年会なら致し方なし! いつもお勤めご苦労様です!!


「なので達也さんもあまり落ち込まず、今後も配信に励んでください。なにかあったときもきちんと私含めスタッフたちがサポートしますから」

「玉森さん……ありがとうございます」


 う~む、なんやかんやこういうところは素直に敏腕マネージャーって感じなんだよな玉森さん。

 ちょいちょい怪しげな発言は垣間見えるけど、仕事ぶり自体は落ち着いてて頼りがいもあって。


「とりあえずサポート第一弾としては先日非公開にしたお風呂回のアーカイブを復活すべく加工してみました。どうでしょう? 画面の下に『※彼らは特殊な訓練を受けています』とテロップを入れてみたんですが」

「それになんの意味が!? やめてください! むしろ逆効果ですよ!」


 前言撤回。

 やっぱりうちの事務所にマトモな人なんていない(確信)。


「あ、そうだ達也さん。話は変わるんですけど、今日ってスタジオにジローさんが収録に来てるんですよ」

「え、ジローさん……ってあの“次郎”さんですか? 2期生の?」

「そうです、そのジローさんです。配信をご覧になったことは?」

「ありますあります! ……と言っても“ジロー‘sキッチン”の回だけですけど」

「おーそうでしたか。まあなんと言ってもアレがジローさんの代表コンテンツですからね」


 白鷺(しらさぎ)次郎――通称ジローさん。

 実家の旅館で凄腕の板前として料理長を務める一方、現在は旅館の宣伝や集客も兼ねて配信者としても活動している……と言う設定のVランド2期生である。

 定期的に開催される“ジロー‘sキッチン”という料理回はリスナーからも大人気で、配信上で作った料理の作り方をまとめたレシピ本まで出ているほど。

 ビジュアルについては長身で胸板の厚いガッシリとした体格で、髪の毛は耳周りをすっきり刈って前髪は軽く流す程度の短髪爽やか系。

 服装は板前と言うことで主に和装(割烹着)。筋肉質なので腕まくり姿がよく似合う。

 落ち着いた低音ボイスと柔らかい物腰が相まって、女性ファンのみならず男性ファンも多いナイスガイなVTuberだ。


「すごいですよね、毎回どれもこれもおいしそうで。なにかやってたんですかね?」

「たしかウチに入る前は実際に元料理人だったそうですよ。しかも結構な有名店とか」

「元料理人ですか……なるほどどうりで。たしかにあの手際の良さなら納得ですね。料理素人の俺から見てもあきらかに包丁さばきとか滑らかですし」

「ええ、私も同感です。ちなみに一応聞きますけど達也さんはまだ直接会ったことないですよね?」

「ですね。直接どころかオンラインでのコラボも一度もないです」

「なるほど……ならどうでしょう? せっかくなのでこの後一度ご挨拶に行かれてみては?」

「あー……」


 挨拶……か。

 まあそりゃ普通はそうなるよなぁ。


「どうかしましたか?」

「いや、おっしゃる通りなんですけど同じ事務所とはいえ初対面の人に挨拶とか緊張するなぁ……って」

「あーそういうことですか。達也さんって割と人見知りな方だったりします? たしか社長と会うときもケッコー緊張されてましたよね?」

「はい、まあ……。昔から学校とかでも自分から声をかけてってよりも、人から話しかけられてそっから友だちになってくタイプだったんで」


 そうなのだ。

 だからこういうシチュエーションはぶっちゃけそんなに得意じゃないし、別に嫌ってほどでもないがそこまで気乗りはしない。


「でも相手は先輩ですし、後になって向こうが俺も事務所にいたこと知ったら逆に気まずいですよね。『え、あいつすぐ近くにいたのに挨拶にもこなかったんだけど』……みたいな」

「そうですね、やはり挨拶は社会の基本ですから。達也さんはまだ高校生ですが、VTuberとして活動している以上はほぼ社会人と言って差し支えないですし」

「ですよねぇ……」

「まあでもジローさんに限っては挨拶に来なかったことでゴチャゴチャ言ったりとかそういうイメージは全然ないですけどね。というかVランドのライバーはみなさん基本的にフランクな人が多いのでそこら辺はそんなに心配せずともよいかと」

「たしかにみなさん新人の俺相手の初コラボでも気軽に接してくれますしね」

「ええ。まあそこは仕事モードというか、配信を盛り上げなきゃって意識が先に働くってのもあるのでしょうが」


 たしかに……俺も配信前はよく緊張するけど、いざ始まるとゲームしたりコメントを拾ったりで忙しくてそれどころじゃないもんな。

 ……もっともそれについては常に共演者(主に母さん)に振り回されてるせいも大いにあるけど。


「それでどうしますか? さっきジローさん本人にもチラッと確認しておいたんですが、16時頃に収録が終わるそうなのでそれ以降ならいつでも問題ないそうです。ちょうど今が16時ジャストなので、これから向かえばちょうどいいかと」

「あ、そうなんですね」


 そうか、そこまでお膳立て済みか。

 だとすればもはや選択肢はないな。


「わかりました。どこに行けばいいですか?」

「スタジオの控室でオッケーです。壁に名前が張ってあるので、行けばどれかすぐわかると思いますよ。あとジローさんからは『自分が部屋に戻ってない場合はそのまま室内で待っててくれても構わないから』と言伝ももらってます」

「了解です。じゃあいってきます」

「はい、いってらっしゃい」



 というわけでいざスタジオへ。

 俺はVランドの事務所に隣接された収録用のスタジオの入っている建物へと向かった。


「あ、やべ。そういえばジロー先輩がどんな人か聞くの忘れてた」


 廊下を歩きながらハッと思い出す。

 相手は曲がりなりにも5期も上の大先輩。期でいけば母さんよりも上だ。

 それにVランドという事務所の性質上、きっとまたひと癖もふた癖もあるのは間違いない。

 となると対面するにあたってある程度のキャラクターを把握しておくに越したことはないが……。


「どうしよう……いったん戻って玉森さんに聞くか? まあ別に電話でもいいんだけど。いやでも、そんなことをしている間にジローさんが収録から帰ってきちゃってたら……」


 向こうはいつでもと言ってくれたみたいだが、普通は収録が終わればあとは帰るだけだ。とすると、俺の到着が遅れれば遅れるほど帰宅時間が後ろ倒しになってしまう。

 それこそ大先輩の貴重な時間を後輩が奪うのはいかがなものか。


「……とりあえず向かうか。やっぱ待たせるのは良くないし。ま、俺が見た配信だとフツーの頼れるアニキって感じの印象だったし大丈夫だろたぶん」


 さすが社内でもベテランだけあって、ジローさんのポジションは彼自身の雰囲気も相まって今やすっかり事務所の頼れるお兄さんだ。

 その包容力から雑談でもお悩み相談的なコメントが寄せられることも多いとか。

 であれば、出たとこ勝負のノープランな訪問でもさほどおかしなことにはならないだろう。


「あ、ここだ」


 そうこうしている間に控室の前にたどり着く。

 ドアにはプリントされた『白鷺次郎』の文字が。


 俺は立ち止まって軽く「よし」と気合を入れてからドアをコンコンと叩いた。


「失礼します、7期生の花咲ベイビと申します。すいません、次郎さんに挨拶をさせていただきたく来たんですが……」


 …………。


「……あれ?」


 ドア越しに用件を伝えたが、中から返事が返って来る気配はない。


「さてはまだ収録中かな? どうしよう……いないとなるとこのまま廊下で待ってた方がいいのかな。あ、でも待てよ。そういえば玉森さんがいない場合は中で待ってていいって伝言もらったとか言ってたっけ」


 ふむ、ならばここはお言葉に甘えよう。

 というわけで俺はドアノブに手をかけ、控室の扉をガチャッと開いた。


 ――と。


「やらないか?」


 そこにいたのはソファにどっかり腰を下ろして座る――“全裸の”お兄さんだった。



お巡りさん、出番です


次回は7/18(金)の更新予定!

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