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高貴なる同期コラボ①

今回のお話は全4回です

 『同期』


 ①同じ時期。例:「前年の同期の生産高をうわまわる」

 ②入学・卒業・入社などの年度が同じであること。例:「会社の同期」「同期会」

 ③作動の時間を一致させること。内容や情報を一致させること。シンクロナイズさせること。例:「画面と音声とを同期する」「同期を取る」


 ……というのがネットにあった国語辞書の解説。


 そしてVTuberで同期を語る場合、言わずもがなその意味するところは②である。

 同じタイミングで事務所に所属orデビューした者を同期と呼び合い、ユニットを組んだりコラボしたり。

 そんな他の同僚ライバーとはちょっと違う特別な存在……それが世間一般で言うところの同期だ。


 ただし、ことVランドという事務所においてはその同期というものに対する概念が少しだけ異なる。

 というのも――。



「え? 達也さんの同期ですか? はい、もちろんいますよ」


 そう言ってデスクの前に座りながら俺の方へと振り返ったのは、お馴染み俺と母さんのマネージャーである玉森春奈さんである。

 ルミナ先輩とのコラボから数日後、所用で事務所を訪れた俺は先日のルミナ先輩の発言の真偽を確かめるべく玉森さんのもとを訪れていた。


「あ、やっぱりいるんですね」

「まあと言っても、ウチの事務所においては正直“名目上”ってだけなんですけどね。Vランドの場合、他の箱と違って複数人が同時にデビューするケース自体がほぼ皆無ですから。なので同じ年にデビューしたライバー同士を形式的に〇期生って扱いで振り分けてるだけなんですよ」

「あ、はい。一応その辺の事情はルミナ先輩と母さんから聞きました。こう言ったらアレですけど、なかなか珍しいシステムですよね」


 ぶっちゃけ奇妙と言うか……。


「ええ、恐らくよそでこういう形はほぼないんじゃないかと。そもそもウチって仁恵さんや達也さんのようなスカウト組はもちろん、ルミナさんのようなオーディション組でさえよっぽどじゃないと合格者を出さないせいで必然的にグループで売り出すほどの頭数が揃わないというのが大きいですから」

「あーたしかにVランドのオーディションって狭き門で有名ですもんね」

「結局は社長のお眼鏡にかなうかですからね~。で、あんな社長なもんだからよっぽど変な人じゃないと気に入られないですし」

「変な人……」


 ……そういうことか。それは納得。

 てかこの事務所に変わった人間しか集まらないのって、やっぱりあの社長のせいによる自業自得なだけなのでは?

 たしか俺をスカウトするときの口説き文句だと「どういうわけかボケが飽和しちゃって困ってるのでどうか助けてください」みたいなこと言ってたけど……。


「ご安心ください。もちろん達也さんもちゃんとその変な人のうちに入ってますから。決して仲間外れなんかじゃありませんよ」

「いやなんすかそのフォロー。全然嬉しくないんですけど。てか別に今そこを心配して黙ってたわけじゃないんですけど……」

「あ、これは失敬」


 いやホントに失敬だよ。

 そもそも変な人と言えば玉森さんも充分そっち寄りだと思うんですが?


「でも、その何期生うんぬんを言い出したのってここ2年ほどですよね? どうして途中からそうしたんですか?」

「そこはぶっちゃけるとマーケティング的な観点からですね。やっぱり2期生とか3期生とかってグループ化するといろいろ売り出しやすいんですよ。世間的にも名前を覚えてもらいやすいですし、ひょんなことでバズって誰かの知名度が跳ねたときに便乗もしやすいですし。『え、○○さんってあの××さんと同期なの!?』……的な」

「なんか身も蓋もないっすね……」

「仕方ありません。VTuberも商売ですから」


 う~ん、まあそりゃそうか。

 とはいえまさかこんな形で急に世知辛い大人の世界を突きつけられるとは……。


「とはいえ、そこら辺の事情は抜きにしても単純に同期というカテゴリーはファン目線でより親しみも湧きますから。なによりライバー同士の結束も高まりますしね。仁恵さんとルミナさんの関係が良い例です」

「たしかに」


 あの二人ほんとに仲良かったもんな。

 てか玉森さん、母さんは仁恵さん呼びなのにルミナ先輩はそのままなんだな。

 これはアレか? 自分の担当かどうかの差ってことか? 俺のことも達也さんだし。


「とまあそんなわけで、その子は今年の元旦デビュー。なのでギリギリではありますが、達也さんと同じくVランド7期生になるわけです。ちなみにどなたかご存じですか?」

「あ、はい。“(すめらぎ)アラン”くん、ですよね」


 皇アラン。

 見た目は10代後半の少年でありながら、自称『千年の時を超えし覇王』。

 なんでも異世界にある『アランキングダム』の皇帝らしく、衣装は豪華な軍服風の装束を纏っており、頭には常に小さな王冠も被っている。

 他にも黄金のように輝く金髪と燃えるような赤い瞳が特徴的で、とても美しい見た目をしている。

 そしてなにより自らを“(ちん)”と呼びつつ、ファンのことは“臣民”、時には“下々の者”などと称してあからさまな主従関係を築くなど、その皇帝らしい上から目線でどこか不遜なキャラクターが逆にファンのマゾ心をくすぐり、デビューしてから瞬く間に人気が爆発した異色のライバーである。


 ただ一方で、彼の人気の秘訣はそれだけではない……のだが、今はいったんその話は置いておいて――。


「ええ、そのとおりです。彼が達也さんの同期にあたります。それで、今日はなんでまた急にそのことを? 陛下がどうかしましたか?」

「ああいえ、大した話じゃないんです。名目上とはいえ同期は同期なので、一応挨拶ぐらいはしといた方がいいかな~ってふと思いまして」

「あ、なるほど。たしかに同じライバーと言えども連絡先とかは知らないですもんね」

「はい。それとこの前のコラボで母さんとルミナ先輩のやり取りとか見てたら、正直ちょっと羨ましいな~……なんて気持ちもあったりなかったり」

「あ~わかりますわかります。お二人とも傍から見てもかなりの仲良しですからね。なるほどなるほど、それでもってこれを機にちょっとお近づきにでもなっておこうかな~と達也さん的には思ったわけですね?」

「ええまあ……」

「ふふっ、わかりました。そういうことでしたら私から向こうに確認を取って、そこから後ほど連絡先をお送りしますね」

「え、いいんですか?」

「はい、もちろんです。さっきのハナシじゃないですけど、会社としても売り出してく上でライバー同士仲が良いに越したことはないですから。それに実のところ、私自身も達也さんの活動がもう少し落ち着いたらいずれどこかでご紹介しようかなと考えてはいたので」

「あ、そうだったんですね」

「はい。だからむしろ達也さんから言い出してくれてよかったです。こう言っちゃなんですけど、ライバーによっては対人コミュが苦手で『なるべくリアルで人と会いたくないです』って人もいたりするので」

「あー……」


 完全な印象論だけどわからなくもないかも。

 まあでも、これでとりあえず連絡を取ることは可能になったぞ。

 となると残りはどんな風に挨拶するかだけど……さてどうしよう?

 いきなり通話は迷惑だろうからまずはメッセージを送るとして、あんまり堅苦しいのもなんだかなぁ。でも、かといってはじめましてでいきなり砕けすぎても失礼な奴だと思われかねないし……。

 ……う~ん、地味に迷うな。こういうときっていっそ先輩相手とかだったらとにかくへりくだっていくのが正解だろうから逆に楽なんだが。


 ――と、そんな風に俺が悩んでいたところで。


「あ、そうだ。せっかくだからいっそコラボの打診でもしちゃいますか?」

「え……」


 玉森さんがふと閃いたように声を上げる。


「こ、コラボですか? いきなり……?」

「ええ。親睦を深めたいならそれが一番じゃないですか? さっき言ったとおり運営側(こちら)としてもお二人の仲が深まるのは大歓迎ですし、ご要望いただければ連絡先の交換ついでにセッティングしますよ?」

「…………」


 え、どうしよう……まさかそこまでの急展開は予想してなかったんだが。

 でもたしかに仲良くなるなら配信者同士、いっしょに配信するのが一番な気もするような……。


「……わかりました。じゃあお手数なんですけど玉森さん、お願いしちゃってもいいですか?」

「承知しました。では日程などが決まったらすぐにご連絡差し上げますので、少々お待ちください」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」




 でもって後日。

 約束どおり玉森さんは皇くんのマネージャーさんに連絡を取ってくれたようで、流れるようにお互いのマネージャー経由でコラボの日取りまでが決定。


 そして迎えた当日の夜――。


「フハハ、朕こそがVランド7期生にして“千年の時を超えし覇王”こと皇アランである! 者ども、朕の威光にひれ伏すがよい!」

「あ、どうもこんバブ~。同じくVランド7期生の花咲ベイビです」


次回は6/6(金)更新

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