ルミナ先輩⑤
ともあれその後の狩猟はかなり順調だった。
俺とルミナ先輩は二人で協力しつつクリーチャーの体力を削っていく。
「それにしてもルミナ先輩マジでウマいですね。動きからして俺と違い過ぎなんですけど……さっきからしれっとカウンター決めまくってる上に、太刀のゲージ管理もカンペキだし」
「そう? まあカウンターのコツは焦らないことだよ。あとはやっぱクリーチャーごとの攻撃パターンを覚えることだね」
「へ~。でもそれにしたってミス0はヤバいっすよ。俺も一時期かっこよくカウンター決める人に憧れてたんですけど、そこで挫折して片手剣の村へと帰っていったのに」
「ふふん、まあ伊達にやりこんじゃいないからね。――私……失敗しないので」
「ミチコ!?」
「これからは大門ルミナとお呼びください」
【コメント】
:かっけぇ
:さすルミ
:やっぱランクカンストはちがうなぁ
:まさかのド〇ターXで草
:クエスト終わったらここぞとばかりにメロン要求してきそう
:メロンはむしろ渡す側じゃないっけ?
:そもそもルミたんはメロンよりゲームでしょ
:花より団子……よりもさらにゲーム
:↑草
:↑お花見行くと一定数そういう子どもいるよなw
「おいやめろお前ら。せっかく人がここぞとばかりに先輩風吹かせてんだから。ハンマーで潰すぞ?」
などと笑いの絶えないコメントバトルを繰り広げつつも、再びカウンターを決めるルミナ先輩。
そのプレイングは本当に鮮やかで、見ていて惚れ惚れするレベルだった。
ただ、それに比べて――。
「えーいいなルミちゃん。ママもたっくんにすごいって言われたい」
「いやそれはいくらなんでも実力的にムリでしょ。それこそ勝ち目ゼロだよ」
「でもでも、ママも肉焼きなら絶対に失敗しない自信あるし……」
「いや張り合う土俵しょぼっ! それこのゲームにおける要素のほぼ端っこだから!」
【コメント】
:草
:まーたんw
:カウンターのルミナ 肉焼きのママミ
:↑同じゲームとは思えない並びで草
:↑タイミングが大事という点では同じだから・・
:つーかまーたんさっきからずっとフィールド走ってるだけじゃね?
:マラソンかな?
「えーママミ選手、ただいま30キロ地点を越えて先頭集団の真ん中ほど。このままのペースを維持できれば金メダルも射程圏内か」
「いや言うとる場合か」
「ちなみにたっくんも金メダル2個あるよね。触っていい?」
「ダメに決まってんだろ!」
【コメント】
:草
:まーた親子漫才しとる
:金メダル(宝玉)
:ただのセクハラ笑
:触ってどうする気なんですかねぇ
「そうそう、今作から傷口要素が復活してるからね。見つけたらどんどん狙っちゃいなー」
「あ、そういえばそうでしたね。ありがとうございます」
「え、傷口? 大丈夫たっくん? ママが舐めたげようか?」
「いや俺じゃないから。おかしいでしょ、なんで俺が傷ついてありがとうございますって感謝してんだよ。てか今のはさすがにわかってて言ったでしょ?」
「えへへ」
【コメント】
:かわいい
:確信犯で草
:いいなぁ。俺もペロペロされてぇ
「ちなみに私もいまだによくわかってないけど傷口マナーってのが一応あるらしいからオンラインでやるときは注意してね」
「へーそういうのがあるんだ。わかった、それじゃあ今度職場にマナー講師の先生が来るらしいから聞いてみるね」
「うん、たぶんその人は知らないと思うけどよろしく」
【コメント】
:まーたん「傷口マナーってなんでしょうか?」マナー講師「……?」
:ついにルミたんも投げ出し始めてて草
:まーたんのボケが止まらないw
:なにが恐いってこれが天然なのかわざとなのか判断しづらいところ
いやホントにそれなんですよ。
マジでうちの母さん、どっからどこまでが本気か全然わかんねーんだよな……。
「……あ、麻痺りました!」
「お、ナイスぅ」
俺の攻撃により麻痺して動きの止まっているクリーチャー相手に、ルミナ先輩が斬撃を叩き込む。
まとまったダメージが入ったおかげでクリーチャーが目に見えて弱る。
「いいねぇ。さすが慣れてるだけあるわ」
「いやぁそれほどでも。まあ麻痺はやっぱどのシリーズでも強いだろうなって」
「それはたしかに。え、ちなみにベイビんが最初にクリハン触ったのっていつ?」
「前作からですね。学校の友だちと狂ったようにやってました」
「うわー初めてでそれかぁ。世代を感じるなぁ」
「あらあら、ルミちゃんったらすっかりオバさんね」
「いやママみんは同世代でしょうが。なにしれっと一人だけ抜け駆けしようとしてんの」
「わーバレちゃった」
【コメント】
:草
:緊急回避失敗!
:仲いいなぁ
:同期で同世代ってええな
「ルミナ先輩はいつからなんですか、クリハン?」
「私は2ndだね。小学生の頃」
「へーやっぱ友だちとかがきっかけですか?」
「いや、さっきも言ったけどルミたんは引きこもりだから。小3の頃にはすでに家と言う名の結界に封印されてたからソロばっかだったね。『はて、友だちとは??』ってカンジ」
「あ、なんかすいません」
【コメント】
:あっ……
:あっ……
:あっ……
「いやいいよ、ぜんぜん気にしてないし。てかコメントも『あっ』じゃないから。そんな反応してるけど人のこと言えないでしょ? 知ってんだぞ」
【コメント】
:くっ……!
:チッ、バレたか
:……てへっ
:お、俺は友達いたし……!!(強がり)
:1年生になったら友だちが100人できる……そんな風に思っていた時期が俺にもありました
「ほらみたことか。ま、それに今はVランドに入ったおかげで友だちできたしね。ママみんとか」
「うふふ、私もルミちゃんと仲良くなれてうれしいよ」
「フッ、なんかそう言われると照れるなぁ。……でも、そういう意味ではホント事務所に入れてよかったよ。マジで入ってなかったら今頃ぜんぜん部屋で白骨化もあり得た」
「白骨化……」
え、そこまで?
んな大げさな……。
「そういえば、それでいくとルミナ先輩ってどうやってVランドに入ったんですか? やっぱりスカウトですか?」
「んにゃ、ルミたんはオーディションかな。マジで少しは自分で稼がないとヤバいなって思って、家でもできそうなことを探してたらたまたま目に入って」
「へ~」
「いやぁ今にして思えば一世一代の決断だったね。面接とかマジで苦手だったし」
「あー緊張しますよね。俺も受験でやりましたけど、マジでドアを開ける手がちょっと震えましたもん」
「ほんとほんと。でもあのときなんとか勇気を振り絞って外に出たから今がある。そう考えるとなんかステキじゃない?」
「ですね」
「……ま、ルミたんの場合はオンラインだったから知らんけど」
「いやそこも結局家出てないんかい!! ステキとは!!?」
【コメント】
:wwwww
:www
:たっくん急にハシゴ外されてて草
:ナイスツッコみ!いいよーキレてるキレてる!
:先輩だろうと行くときはちゃんと行くたっくんさすがやでぇ
「いやさ、ホントは対面の予定だったんだけど直前でやっぱ勇気でなくてさ。そんで妹に替え玉で行ってきてくれって頼んだんだよ」
「妹さんに替え玉!?」
「ただまあいくら姉妹とはいえ顔立ちが全くいっしょってわけじゃないからヨユーでバレてね」
「まあでしょうね……」
「んで、その場で妹から即ビデオ通話かかって来てさ。そのまま急きょオンライン面接になるっていうね」
「えぇ……」
いや怒涛すぎだろ。
そんな流れ聞いたことないんですけど。
「しかもルミちゃん、そのときも起き上がるのが嫌でベッドに寝ころびながら面接受けたのよね?」
「そうそう、ちょうどシーツが白くてさ。ワンチャンこれ壁っぽくね?って思って」
「いやムリでしょ! どんだけ強気なんすか!?」
「ほら、オンラインで話すときって結局背景に映るのって上半身だけじゃん? だから寝てても見栄え的には証明写真感覚でいけるかな~って」
「いやかな~って言われましても……え、それ大丈夫だったんですか?」
「まさかまさか。そっちも余裕でバレたね。面接相手に社長も混じってたんだけど、しきりに『え、なんか壁近くない?』とか『顔グイ~ってなってるけど大丈夫?』とかって聞かれてさ」
「顔グイ~って……え、それ重力でってことですか?」
「そ」
いやいやいや……てかさっきから普通に笑ってますけど、果たしてこれは笑い話でいいんだろうか?
「あとちょっと飲み物飲んでみてもらっていいですか?って言われてたまたまベッド脇にあったペットボトルの水飲んで盛大に吹くっていう」
「え~……もうハチャメチャじゃないっすか」
「ただそのくだりがウケて採用されたらしいから世の中ってわかんないよね」
「そうなの!!!?」
【コメント】
:マジかよw
:wwwww
:面接替え玉までは知ってたけどそれは初耳なんだがww
:採用理由が意味不明すぎるw
:いかにもVランドらしいエピソードで草
:わかんないのは世の中じゃなくてキミんとこの事務所です
……いや~ホント相変わらずすごい事務所だわ。
まあでも、あの社長なら決して冗談じゃなさそうなとこがなんとも……。
とまあ、そんなやり取りをしている間にも――。
「おっ、そろそろ弱ってきたね。それじゃあいよいよトドメといこっか」
「あ、はい。了解です」
ルミナ先輩と俺、二人そろって攻撃を畳み掛ける。
そしてほどなくして地面にバタリと倒れ伏すクリーチャー。これにて討伐完了。
【コメント】
:ナイスぅぅぅ!!
:オッケーイ!
:いいねぇ
:さすがルミたん!
:たっくんの動きもよかった!
:88888888888
無事にクエストをクリアしたことで賛辞の言葉で満たされるコメント欄。
そんな気持ちのいい称賛の声を浴びながら、この日の配信は終了した。
「いやぁ、今日は本当にありがとうございました。すいません、なんか終始おんぶにだっこで。やっぱりすごいですねルミナ先輩」
「いやいや、やってる最中にも言ったけどベイビんもフツーにウマかったよ? やっぱ旧作やってるだけあるね。これならすぐ上位も終わるでしょ。そしたらまたイベクエとかいろいろコラボしよーよ」
「私は? 私はどうだった?」
「うん、まーたんは本当にお肉を焼くのが上手だね」
「え~ホントぉ? ありがと~」
いや母さん、たぶんそこ喜ぶところじゃないよ。
……まあでも二人ともなんか笑い合ってるしいっか。
それにしても平和な空気だ。これが同期の絆ってやつなのかな?
冒頭は母さんのがルミナ先輩を甘やかしてる雰囲気だったけど最終的には真逆な感じになってるし、きっとこの持ちつ持たれつのバランスがいいんだろうな。
「……なんかいいですね、同期って。俺もできればほしかったなぁ」
そう、なにぶん俺のデビューは経緯が経緯だったこともあり超突発的。
昨今は大手ともなれば4、5人くらいを同時デビューさせてユニット売りも当たり前になっている中、俺はたった一人で世に放たれたため同期がいないのだ。
――が、そんなついポロッとこぼれた俺の呟きにルミナ先輩が反応する。
「え、同期? いるじゃん、ベイビんにも」
「へ?」
次回はまた新キャラ登場
更新予定は6/3(火)です