ルミナ先輩④
「はいはいうっさいうっさい。お、そんなこと言ってるウチにほら来たよ。クリーチャーちゃんのお出ましだ」
「おおぉ……!」
「わぁ……!」
広大な砂漠地帯を進んだ先……そこに佇む大きな白い飛竜。
その圧倒的なまでの迫力についそろって感嘆の声を上げてしまう俺と母さん。
「よーし。それじゃあせっかくだからまずは早速実力を披露してもらおっか。ね、ママみん?」
「うん、任せてルミちゃん」
「え」
マジで? 母さん一人でやるの?
おもむろに前へと歩み出たハンター(母さん)の姿に、思わず真横にいる現実の母さんへと振り返る俺。
すると、そんな俺の視線に気づいた母さんはコクリと頷きながら言った。
「見ていてねたっくん……ママが何をやるのかを」
「おお……」
なんかどっかで聞いたことのある台詞……!
ともあれ果敢にも走り出した母さん。
それに対しクリーチャーもこちらの存在に気づき、威嚇の声を上げながら勢いよく迫ってくる。
「まだよママミ。まだダメ……」
うおおマジか母さん、ホントに一人で突っ込む気か。
てか弓なのにそんな前に出ていいのか? もしやルミナ先輩から俺の知らない何か秘策でも授かったとか……?
ゴクリと唾を飲む俺。
その間にもみるみる縮まっていく両者の距離。
「……今よ!」
カッと目を見開いた母さんがコントローラーを操作する。
そして――。
「えい!」
スチャッ(携帯焚き火台を取り出す音)
「ん?」
~~♪ ~~♪(陽気な音楽とともに焼き上がる生肉)
トンットンットンットンットンッ(小気味よく切り分けられる肉たち)
ヤァー!(そして高々と肉を掲げるハンター)
「ゴァアアアアアアアアア!!!」
ドォオオオオオンッ!!!!
<力尽きました。あと2回力尽きるとクエスト失敗です>
ガラガラガラガラ……バタンッ。
「…………」
「…………」
「…………」
…………一応、なにが起こったかだけを軽く説明しておこう。
迫りくるクリーチャーに対して母さんが取った行動。
それはフィールド上にいる草食動物のような生物を倒して得た生肉を焼くという行為。焼いた肉は食べると体力を回復することができる。
が、そんな隙だらけの行動をクリーチャーが見逃すはずもなく、肉を焼く母さんに渾身の一撃をお見舞い。
一瞬で体力の尽きた母さんはあっけなくベースキャンプに運ばれてきたという次第。
「……ふぅ。どうだった、たっくん?」
「なにが!!!!!?」
【コメント】
:草
:草
:草
:どう……とは?www
:ただクリーチャーの前でお肉焼いただけで草
:どうもこうもねぇ!!ww
:いったい何がしたかったんだwwwww
「……う~ん、やっぱりダメだったか」
「ルミナ先輩!? やっぱりとは!?」
「いやぁそれがルミたんと二人でやってたときもそうなんだけど、ママみんって根が優しいじゃん? どうもクリーチャーに攻撃するって行為自体が苦手っぽくてね。だからチュートリアルでもああやって挑んでは肉焼いて乙るのループだったんだよ、アハハ」
【コメント】
:草
:そういうことかwww
:いやアハハてw
:ぜんぜん笑ってる場合じゃなくて草
:でもちょっとまーたんらしいw
「えぇ、なんすかそのエピソード……え、でもそれじゃあどうやってマルチでプレイできるまでストーリー進めたんですか?」
「ルミたんがママみんのアカウントで代行してあげた」
「ああ……」
「ごめんね~。ママ、昔から映画とかで動物が傷つけられるのも全然で……」
「いやそれは知ってるけど……」
たしかに昔から母さんはそうだった。
たまに昔の時代を描いた洋画とかで家畜を叩いたりするシーンがあったりするが、ああいうのを見ると「え~やめて~!」とか言って手で顔を覆ってしまうタイプだった。
あとは人間であっても血が飛んだり傷ついたりする暴力的な描写はダメで、スプラッター映画なんて以ての外なのだ。
「しかしだからってなんでまた肉を……? 全然行動の意味がわからんのだけど……」
「う~んなんと言うか、もしかしたらいっしょにご飯を食べればクリーチャーさんとの親睦も深まってワンチャンクリア扱いになるかな?って」
「そんな薄い可能性に賭けちゃったの!? ムリに決まってるだろ! なにそれどんなシステム!?」
「でもでも、やっぱり傷つけるのはかわいそうだし……それにお肉の味付けだってクリーチャーさんの好みに合わせて濃い目にしたのに」
「そういう問題じゃないし! そもそもそんな機能ないだろ! なんだ味付けって!」
「まあそこはママの気持ちとして……ね?」
「だからどういうこと!!?」
【コメント】
:wwwwwww
:wwww
:意味不明すぎて草
:さすがまーたん。やさしい
:そっか、なら仕方ないね
「いやいや、てか今更だけど攻撃もできないくせにあの最初のほうのウキウキ具合はなんだったんだよ!? 普通に楽しみ~とか言ってなかった!?」
「そこはほら、ママとしてはたっくんと一緒にゲームができるってだけで割と満足なところもあったから」
「えぇ……。そう言われると息子としてはもうなんも言いづらいんだけど……」
「ま、そーゆーことだからさ。てなわけでベイビん、残念ながら今日はコンビプレイってことでよろしく。まあママみんの分はルミたんが責任をもってガンバるよ」
「あ、はい……」
「がんばえ~」
いやまあルミナ先輩だったら母さんの穴を補って余りあるから別に戦力的には問題ないけど……。
なにげに今作の肉焼き演出がシリーズ通して一番好きです。
次回は5/30(金)更新予定です。