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デビュー配信①

「えー……というわけで、そういうことです」


 そう開口一番に言い放ったのは玉森さんだった。

 場所は我が家のリビング。テーブルには俺と玉森さんに加えて母さんの3人。

 そして目の前には麦茶とかりんとう。


「あの、そういうことと言われましても……え、どういうことですか?」

「達也さんのデビューが決まりました。おめでとうございます」

「わぁ~たっくんおめでとう!」

「いやいやそういうことではなく。母さんもパチパチじゃないから」

「ママ」

「あ、ごめん……ママもパチパチじゃないから。デビューについてはもうネットニュースとかで見たんで知ってますし。てかなんなら直接玉森さんからも連絡もらいましたし。そうじゃなくて、俺が聞いてるのはキャラの方ですよ」

「キャラ? ああ、かわいいですよね。すっごく」


 スマホで開いた例の立ち絵を見ながら玉森さんが頷く。

 相変わらずの愛くるしい見た目の赤ちゃん。たしかにかわいい。

 ……が、もちろん注目すべきはそこじゃない。


「いえだからそうじゃなくてですね……あの、俺一応社長からはいったんプロジェクトに持ち帰ってデザインを考え直してみるって聞いてたんですけど」

「え、そうなんですか?」

「そうなんですかって……え、まさか何も聞いてないんですか?」

「ええまあ。少なくとも私の知る限りではそのような話は一切ありませんでしたけど」

「えぇ……。おかしいな、そんなはずは……だって俺が立ち絵を見せてもらったときにさすがに赤ちゃんは恥ずかしいのでもう一度検討し直してほしいんですけどって頼んだら、『う~ん、まあ本人がそこまで言うなら仕方ないか~』みたいな感じだったのに」

「へぇ~そんなことが。でも変ですね。あのあと私も社長室に行って『達也さんの反応はどうでしたか?』って聞いてみたんですけど、そのときは『うん、すっごく喜んでた』とおっしゃってましたよ」

「えぇ!?」


 なんだそれ! まったくの事実無根なんだが!?


「あーでも、もしかしたらアレですかね。あのときの社長、だいぶ酔っぱらってましたから。もしかしたらそのせいで達也さんとのやり取りの記憶がどこかに行ってしまったという可能性も……」

「ああ、そういえばたしかにあの後もけっこう飲んでましたね。雑談しながらビール3本に最終的にはなんかデカい焼酎の瓶まで持ち出してましたし……え、でもそんなことあります? 仮にも一企業のトップがそんな大事なやり取りの記憶を酒で飛ばすって……」

「全然ありますね。むしろその辺のエピソードを挙げだしたら枚挙に暇がないくらいです。少なくとも私はラノベ一本分くらい書けます」

「そんなに!?」

「そうねぇ。大ちゃん社長、酔うとすぐ思考がふにゃふにゃになっちゃうものね。前に私も忘年会かなにかの飲み会でごいっしょしたとき、フライドポテトを見つめながら『なんだこのウマい食い物は……いったいどこの料理だ?』って真剣に首を捻ってたもの」

「えぇ……」


 なにそのエピソード、こわっ。もうそれお酒辞めた方がいいだろ絶対。

 くそっ、でもそういうことかよ……あぁ、なんで俺はあのとき社長の手から酒を取り上げなかったんだ!

 こんなことなら手刀で叩き落としてでもあの瓶を奪って止めるべきだった……!


「まあまあ、いいじゃないたっくん。ママはこの絵すごく好きよ。なんだかたっくんと初めて会ったときを思い出しちゃった」

「いや、ママはよくても俺はよくないんだけど……。てか、今更だけどなんで普通にママも混じってんの? 仕事は?」

「今日はお休み。上司の人に頼んで急きょ有休にしてもらったの」

「え、そうなの?」


 ちなみにここで一つ補足だが、母さんはVTuber以外にも普通に仕事をしている。

 たしか俺の知る限りだと、どっかそこそこ大きい企業で経理とかの事務仕事をしているとかなんとか。


「けどこんなこと聞くのもアレだけど、ママってよそで働く必要あるの? ゆってもVランドって業界じゃ大手なんじゃ……そうなるとそっちの収入だけでもやっていけそうな気もしなくもないんだけど」

「う~ん、そうねぇ。まあその辺は話すと長くなるんだけど、箱に入ってると配信の広告収益とかスパチャとかって全部会社と分け合うことになるから」


 あーたしかにそういえば俺もその話はされたな。

 まだデビューもしてないので先だけど、いずれチャンネルが収益化したあかつきにはこういう割合で収益は分担となります~……って。


「それとたっくんなら知ってるかもしれないけど、配信者にとって一番ウマみが大きい収入源ってなにかわかる?」

「え~っと……よく聞くのは企業案件とかだけど」

「そうそう。でね、Vランドの場合はその案件が他の事務所に比べて知名度の割に極端に少ないの」

「え、そうなの? それはなんでまた……」

「そこはほら……ねぇ? ハルちゃん?」

「はい」

「?」

「まあひと言で言うなら……だってVランドですから」

「あー……」


 それはそれはかわいそうに……と思う反面、世の中の企業の方々はちゃんと配信の内容をチェックしているんだなと感心する。

 なるほどなぁ。だから母さんはまだ普通の仕事をしてるってわけか。

 それにしてもこれから所属する企業に言うこっちゃないかもしれないが、Vランドはもう少し会社としての方向性を見直した方がいいと思う。

 ……社長の酒癖も含めて。


「え、それで話は戻るけどなんで休んだの? 珍しいじゃん。普段は俺が休めばって言っても『他の人に負担がかかっちゃうから』とか言ってあんまり取りたがらないのに」

「え~だってほら、いよいよ明日はたっくんにとって()()()()()()()()()()()()だもの。ぜひ間近で見守りたいじゃない」

「ああ、なるほど……」


 記念すべき日――そう、それはつまり俺こと“花咲ベイビ”のデビュー配信の日。


「でもそれでわざわざ?」

「もちろん! 今日はこれからお赤飯炊いて! それからたっくんの大好物もいっぱい作るんだから!」

「えぇ……いやいいよそんな。お赤飯って」

「だーめ。これは絶対なの。ちなみに緊張して寝不足にならないように、今夜はいっしょのベッドで添い寝しながら子守歌も歌ってあげるからね」

「どんだけ!? それはやりすぎだろっ!」

「ふふっ、愛されてますね達也さん」

「いやいやそんな微笑ましいものを見るような目で言われましても……まあ気持ちはたしかにありがたいっちゃありがたいですけど」


 でもそこまでされるとか逆に恥ずかしいですって。

 だいたい子守歌って……俺をいったい何歳だと思ってんだよ。

 そんなもう小さい子どもってわけでもあるまいに――あ、いや子どもだったわ。それどころかこのままいけば俺は明日からガッツリ赤子生活に突入するんだった。

 うぅ……思い出したら頭痛くなってきた。


次回は4/25(金)の予定です!

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