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社長面談②

「居酒屋どころかすでに!!!!」


 扉を開けてすぐの光景に絶叫する俺。

 そこにいたのは応接用のソファでくつろぐ40代かそこらの男性。

 顔は真っ赤でワイシャツは全開、そして手にはビール瓶。

 つまりはどこからどう見ても酔っ払い。


「え、え~っと……」


 この人が社長……でいいんだよな?

 まあでも、他に誰もいないしな。でもなんでこんな昼間っから……。


「ん? お~い、どうしたんだい? 早くこっちにいらっしゃいよ~」

「あ……ああ、はい。えと……失礼します」


 困惑しながらソファの対面に座る。

 すると、腰を下ろした俺に社長らしき人は早速――。


「はは、そんなにかしこまらなくていいよ。ぜんぜん自宅気分で楽にしちゃっていいからさ。まずはビールでいいかな?」

「え? ビール? あ、いやすいません、自分未成年なんで……」

「あらら、そうなの? ああでもそっかそっか。そういえばキミ高校生だったっけ。え、何年生?」

「あ~っと……この春で2年生になりました」

「へ~、ってことは16とか17?」

「あ、はい。16です」

「お~いいねぇ若い若い。青春だねぇ」

「はぁ……」


 び、ビックリしたぁ~。

 まさかこのトシで危うく駆けつけ一杯をくらうところになるなんてそんな――。


「んじゃま、キミのその若さを祝して……ささグイッと」

「いや止まらんのかい! え、ボクの話聞いてました!? なぜなおも頑なに!?」

「まあまあいいじゃない。ほら、成人式の前祝い的なもんだよ」

「早っ! まだ全然先なんですが!? そもそも前祝いなんて文化ないし! フツーに法律違反ですからそれ!」

「え、そうなの? でも僕の地元だと中学校の卒業式なんかでよく――」

「わー! わー! ストップストップ!! と、とにかくボクは大丈夫なんでお構いなく……」

「ふ~ん殊勝だねぇ。べつに密室なんだから気にしなくてもいいのに」

「いやいやいや……」


 あぶね~。今とんでもないこと口走りかけてたよこの人……。

 つーかなにこの状況? なんで社長室で酒盛り? 俺面談に来たんだよね??

 うわっ、よく見たらビンももうめっちゃ空いてるし。

 ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……12本!? え、どんだけ!? いつから飲んでるの!?

 ……おいおいヤベェよこの人。てっきり冗談だと思ったのにガチで玉森さんの情報通りの人じゃないか……。

 でもよく見るとたしかに公式配信とかで何度か見たことある顔なような気も……ってことはガチでこの人が社長なのか。

 マジかよ。もはや社長って言うよりただの飲んだくれにしか見えないんだけど。

 ……あ、でもチー鱈とカルパスはうまそう。


「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は宗像(むなかた)大五郎(だいごろう)。このVランドの社長だ。よろしく」

「あ、杉本達也です……よろしくお願いします」

「うん、達也くんね。いい名前だ。どことなくタッ〇を思い出すよ。タッちゃんって呼んでもいいかな?」

「え? あ、はいどうぞ……」


 〇ッチ? ああ、野球の。

 そういやそれも好きって聞いてたな。


「ちなみに僕のことも“大ちゃん”でいいから。気にせず気軽に呼んでよ」

「大ちゃん……あ、でもそういえば配信とかでもたまに」

「あーそうそう。ライバーの子たちも基本的にみんなそう呼ぶね。おかげで今じゃファンの間でもやれ大ちゃん大ちゃんって感じですっかり浸透しちゃってね、あははっ」


 事実である。

 たまに企画やイベントで社長が挨拶するときがあるのだが、その際も『よっ、大ちゃん!』『大ちゃんキター!』なんてコメントで埋め尽くされる。


「へぇ……え、でもそれって裏でもその呼び方されてるんですか?」

「うん、ぜんぜん呼ばれるよ。たまーにだけど事務所の廊下ですれ違ったときも『あ、大ちゃんお疲れ様です~』ってノリだし」

「へぇ~」


 果たしてそれはそれでいいんだろうか……主に社長としての威厳とかそっちの意味で。

 ま、そんなところもある意味Vランドっぽいけど。


「さてと、それじゃあせっかく来てもらったわけだしそろそろ本題に入ろっか。……っと、その前にまずは大事なことを言わないとね」

「? 大事なこと……?」

「この間のママミくんの謝罪配信さ。本当は会社として責任をもって(しず)めるべき話を学生であるキミに助けてもらったわけだからね。社長として、まずはその点についてきちんとお礼を言わせてほしい――ありがとう」

「!? ああいやいやそんな……!」


 おもむろに居住まいを正して深々と頭を下げる社長。

 一方、まさかこんな偉い人が年下相手にここまでするとは……と、いきなりのことに俺は慌てて手を振った。


「ゆってもあの配信は自分がやりたいからやったことでもあるので……。それに今となっては正直あれが謝罪配信だったのかも……ママだのおっぱいだの(ゴニョゴニョ」

「あははっ、たしかにあれは傑作だったね。僕も途中までどうなることかと思いながら見守ってたから、あのおぱチュパ発言には度肝を抜かれたよ」

「恐縮です……」


 おぱチュパ発言……?


「ふふ、いやいいんだ。おかげでウチが救われたのも事実だしさ。でだ、こちらとしてはぜひその恩に報いたいと思ってね。実のところ今日はキミにプレゼントを用意させてもらったんだ」

「え、プレゼント?」

「うん。記念すべきタッちゃんのVTuberとしての立ち絵だよ」

「えぇっ!?」


 立ち絵!? もう!?


「そんな、まだボクが返事してから一週間くらいしか経ってないような……え、立ち絵ってそんなすぐできるものでしたっけ? あんまり詳しくないので知らないんですけど、普通はもっと時間がかかるものかと……」

「そうだね。だから今回は特別だよ」

「特別……」

「うん、やっぱ鉄は熱いうちにって言うからさ。せっかくデビューするなら盛り上がってる今のうちがいいよねってことで、キミのオッケーがあってから急きょデザイナーやらディレクターやら人材をかき集めてね。いわゆるプロジェクトチーム的な?」

「プロジェクト……そこまで」

「まあね。それもこれも、それだけキミに感謝と期待をしてるってことだよ」

「な、なるほど……」


 期待……か。

 そう言われるとなんだか身が引き締まっちゃうな。


「でもってそっから僕もチームに入って、この部屋に缶詰めになりながらみんなであーでもないこーでもないってアイディアを出し合ってね。そんでやっとこさ名前やらコンセプトやらもろもろ仕上がったのが昨日の深夜……で、それもあって流れのままにここで朝まで軽いご苦労さん会をしてたってわけさ」

「あ、だからこんな惨状に……。よかった、てっきりいっつもここで飲んでるのかと思ってちょっと焦っちゃいましたよ」

「…………」

「?」

「はは、まさかまさか。そんなことあるわけないじゃないか」


 あれ? なんだ今の間?

 え、もしや……?


「まあまあ、そんなことは置いておいて早速お披露目といこうじゃないか。キミだって見たいだろう?」

「それはまあ……」


 たしかに気になるは気になる。なんせこれから俺の分身になる存在だ。

 いったいどんな立ち絵に仕上がったんだろう?


「ちなみにいきなり期待なんて言われてドキッとしちゃったかもしれないけど、別に脅かしたりプレッシャーをかけたりする気はないんだ。むしろキミには変に緊張したりせず、あくまで自然体で配信して欲しいと思ってるよ」

「自然体……ですか?」

「うん、言い換えれば等身大って言うのかな。そっちの方がキミにとってもやりやすいだろうし、絶対配信もおもしろくなるだろうしね。ってことで、今回用意した立ち絵もそういうコンセプトのもとに作ってあるからそのつもりで」

「へぇ~」


 等身大かぁ……なるほどなぁ。

 うん、でもその方がありがたいな。VTuberの中にはゴリゴリの設定重視でキャラを演じてる人もいるけど、なんの経験もない俺にそれができるかって言うとキビしいし。

 しかし、そうなるとますますどんなキャラなんだろう?

 単に普通の高校生? あるいはまーたんがお茶屋さんの店長って設定だから、そこにやってきた新人アルバイトとか?


「はい、ではお待ちかね。とくとご覧あれ」


 取り出したタブレットを操作して社長がテーブルに置く。

 すると、そこに映っていたのは……。


「おおぉ……」

「どうだい? すごいだろう?」

「……はい、すごいです。想像以上って言うか……その、髪の毛はまーたんと同じ栗色で綿毛かってくらいフワフワしてて柔らかそうだし。目にしてもホントくりっくりで、まるで真珠みたいに輝いてて……」


 でも、なんと言ってもやっぱり注目すべきはこのスタイルだ。

 ずんぐりむっくりのわがままボディっていうか、頭のてっぺんから手足に至るまで全身がふっくら&ころんとした絶妙なバランス。

 それこそもし目の前にいたら、絶対に思わず抱っこしたくなるような愛らしさが――。


「……って」


 俺は立ち上がって叫んだ。



「これ“赤ちゃん”やないかーーい!!!!」



 等身大とか以前にビジュアルのほうが2頭身になっちゃってるんですけどぉ!!?


チー鱈好きです……(でも地味に高いのでそんなに買えない泣)


次回は4/18(金)更新予定!

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