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社長面談①

 で、それから数週間後。

 俺はデビュー前の面談のため、都内にあるVランドの事務所を訪れていた。


「ここか……」


 スマホを片手に駅から歩くこと数分かそこら。

 俺は辿り着いたオフィスビルを見上げながらゴクリと唾を飲んだ。


「う~ん、こんなことならやっぱ母さんにもついてきてもらえばよかったかも……」


 まさか自分がVTuberの事務所を訪れる日が来るなんて……。

 正直なところ、今の俺はけっこうどころじゃなく緊張している。


「つってもまあ、その母さんを拒否って留守番にしたのも俺なんだけど……」


 ちなみに理由は単に恥ずかしかったから。

 ほら、三者面談とか家庭訪問とかでよくあるアレだ。

 なんとなく外向けの自分を家族の前で見せるのが恥ずかしいという思春期特有の感情的な?

 もっとも、今となっては若干後悔の方が大きいんですが……。


「ふぅ……ま、さすがにここまで来てドタキャンってわけにもな」


 ともあれいざ入場。

 俺はひとこと自分を奮い立たせるために呟くと、自動ドアをくぐってビルの中へ。

 すると、まずエントランスで出迎えてくれたのは玉森さんだった。


「こんにちは、達也さん」

「あ、どうも玉森さん……今日はお世話になります」

「いえいえ、こちらこそわざわざご足労いただきありがとうございます。道には迷いませんでしたか?」

「あ、はい。送ってもらった地図があったんでなんとか……。てかすいません、母さんの件。なんか俺のワガママでどうしても一人がいいですとか無理言っちゃって……」


 未成年相手ということもあり、本来ならこういうときは保護者同伴が会社としての前提だろう。

 その方がなにかと安心だろうし。


「ああ、それについては全然お気になさらず。もちろん正式に契約となれば親御さんの承諾が必要となりますが、今日はあくまで顔合わせみたいなものですから。むしろこっちよりも家庭内の説得の方が大変だったんじゃないですか?」

「え……ああまぁ、たしかにめちゃくちゃ残念がってはいましたね。本人的にはついてくる気満々だったみたいなんで」

「あーやっぱり」

「? やっぱり?」

「実は昨日の夜に仁恵さんから泣きながら電話があったんです」

「え、母さん?」


 なんでまた?

 しかも泣きながら?


「はい。『え~ん、この子が私の息子ですってスタッフさんたちに自慢して回りたかったのに~』と」

「…………」


 うわぁ……。


「それはなんというかもう……マジですいません」

「で、それもありましてこう言っちゃアレですが、仁恵さんが来ちゃうとむしろ現場が混乱しそうだなと思いまして。むしろ私的には達也さんが先に交渉してくれて助かりました。私からでは聞き入れてもらえたかどうか……」

「……たしかに」


 てかあぶなっ。

 一歩間違ってたら今頃俺めっちゃ恥ずかしいことになってたじゃん。

 やっぱ連れてこなくて正解だった……。


「あ、そうだ。ところで今日の面談って、たしか社長が直々にしてくれるんですよね?」

「ええ、そうですよ」

「あのぉ……社長ってどんな方なんですか? というか玉森さんも同席してくれたりは……?」

「すみません、私はこのあと別件がありましてあいにく。ですので本日は社長と達也さんの一対一です」

「あ、そうなんですね……」


 マジかぁ……。


「ふふ、緊張していますか?」

「そりゃもちろん……。そもそも最初にメールで『面談相手は社長です』って字面を拝んだ時点でもう心臓がギュウってなりましたよ……」


 たとえイロモノ集団だろうと、相手は仮にも大手事務所のトップ。

 そんな人と面談なんて一介の高校生には荷が重すぎますって。


「まあたしかにそうですよね。お気持ちはよくわかります。ですが内部の人間としてあえて言わせていただきますと、そこまで緊張する必要はないと思いますよ。たぶんすぐに分かると思いますが、うちの社長は本当に気さくな人ですので」

「気さく……」

「はい。なんなら気さくすぎて困るくらいです」

「はぁ……」


 ……ならいいんだけど。

 でも、気さくな人って言っても世の中いろいろいるしな。

 それに本人の性格がどれだけ明るくても、やっぱり肩書という圧はデカいわけで……。


「ちなみにですけど、その辺りのエピソードとかってあったりします? なんか話のタネになるかもですし……」

「エピソード……。そうですね。私も初めてお目にかかったのはこんな感じの採用面接のときだったんですが、そのときにはもうあっという間に打ち解けてましたね。というのも社長は野球が趣味なんですけど、私も親の影響で割とプロ野球とか観てたので」

「へ~」


 野球かぁ……俺も割と好きな方だし、その情報は結構ありがたいな。

 なるほど、もし困ったら話を振ってみるのもありかも――。


「で、そこからどんどん意気投合して、気がつけばいつの間にか二人で居酒屋にいました」

「居酒屋っ!?」


 そんなに!?

 ちょっと打ち解け過ぎでは!?


「でもってなぜか二人そろってへべれけになりながら、最終的にはビール瓶と瓶のフタでペットボトル野球的なことをしてました」

「どういう状況!? つーか店の中って危ないし迷惑すぎません!?」

「大丈夫です。他のお客さんもいっしょになって参加してましたので」

「そうなの!?」


 なんだその客たち! ノリ良すぎだろ!


「……い、いやでも、そんなんやってたら普通はお店側に注意されるんじゃ」

「そこもご心配なく。主審=店主、塁審=バイトさんのオールスター体制でしたので」

「お店すらも!? どんな居酒屋ですかそれ!? てかそこまでするならもう店閉めてみんなで河川敷にでも行けばいいのでは!?」

「ふふ、その意気です。やっといつもの調子が出てきましたね」

「え」


 あ、ああ……なんだ冗談か。

 ビックリしたぁ……。


 ……まあそりゃそうだよな。

 どこの世界に採用面接で居酒屋にダイレクトインした挙句、酔った勢いとはいえその面接相手と店内で野球やる社長がいるってんだ。

 まったく、玉森さんも人が悪い……まあおかげでかなり緊張はほぐれたけども。


 とまあ、そんなやり取りをしている間にも俺たちはいつしか扉の前へ。


「ここが社長室です。それでは私はこれで。社長は中にいますので、このままどうぞお入りください」

「あ、はい……」


 ついにこのときが来たか……はてさて、実際はどんな人なのやら。

 まあ話を聞いてる限り、さすがに気さくな人柄であるってこと自体は間違いないんだろうけど……。


 コンコン……ガチャッ。


「どうも失礼しま――」

「うぃ~……ヒック///」


 ……は?


「お、やっと来たねぇ……待ってたぞ~、期待の新星君! ささ、まずはこっちに来て一杯やろうじゃないか!///」


 …………。




「居酒屋どころかすでに!!!!」

次回は4/15火曜に更新予定

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