生殺与奪の権を握る重み
低体温症。
初期症状は身体の震えや動きの鈍化、皮膚の感覚の麻痺などが挙げられます。
しかし更に症状が進むと震えすら止まり、歩けなくなったり意識を失ったりして命の危険が生じる、地味だけど恐ろしい症状の兆候が見られています。
早く対処しないと……
脳内で血液が急速に駆け巡るゴーっという音を幻聴しながら私は以前に見た漫画の知識を思い返します。
川に落ちてから生存訓練を行う冒険者たち。
一番怖いものはなにか?
意外、それは濡れた衣服!
濡れた衣服は、先程も述べた通り拘束具になるだけでなく急激に体温を奪う魔性の衣。
迅速に対応する必要があります。
汚泥にまみれた服は不衛生で気持ち悪い感触。
けど――そんなことに構ってられません。
私はお爺さんの着ているジャンバーと上着を剥ぎ取ります
肌着だけになったお爺さん。
周囲を見渡し何か掛けるものは無いか探していると、見兼ねたギャラリーの方々が予備のウインドブレーカーを貸してくれました。
お礼を言いながら応急措置的にそれらで体を包みます。
徐々に治まっていく振戦。
あとは救急隊が来るまでマッサージで温めれば……
と、その時――
「○○さん、大丈夫かい!?」
一緒に助けてくれた方の一人が、お爺さんの顔を見ながら叫ぶのでした。