やらない善よりやる偽善だ
最初に気付いたのは周囲に響く喧噪でした。
公園の中央にある灌漑用の溜め池。
白鳥も来るぐらい大きなそこで高齢の御婦人達が何やら声をあげています。
悲鳴のようなそれは焦燥に満ちていました。
森に程近い崖っぷち付近で下を覗きながら騒いでいる。
泥が蓄積し、もはや沼と化した溜め池。
そこへ視線を向けると――
何かが水面から突き出ているのが見えました。
犬か動物が誤って落ちてしまったのかな?
救出するにしても急がなくてはなりません。
走るスピードを上げた私は現場に急行。
到着するなりその光景に驚かされます。
(嘘だろう……こんなことがあるなんて……)
所々氷の張った沼から顔を覗かせているのは高齢の男性。
無表情で左半身を泥へと沈め――
唯一自由になると思わしき右手を掲げています。
たとえは悪いですがドラクエの溶岩魔人のような姿。
辛うじて口元は水面上に出ている状況。
目が動いて白い息が出ているのを見るに生きてはいます。
しかし残された時間はあまりないでしょう。
私が驚いている間にも少しずつ沈んでいくのですから。
「消防や警察へ電話は!?」
「今してるの。でもすぐ来ないって!」
あたふたしている三人のご婦人に声を掛けると、一人の方がスマホを手に応じてくれました。
緊急通報で尽力をされ、後に共に表彰される方になります。
通報済みということで少しは安堵。
餅は餅屋、プロフェッショナルに敵うものはいません。
でも一刻も猶予がない――到着までもたないかもしれない。
私は意を決すると救助に取り掛かるのでした。