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第7話

 今度は魔法士のその後が書かれている様だ。ノアが居なくなり、少しずつ家の中はおかしくなっていく。


「何故、何故言う事を聞かないんだ娘よ!申し分ない男だっただろう?婚約者にピッタリだ!」


「あの、男が?はっ、お父様も耄碌なさったのね。家柄だけで、言葉もまともに発せない男のどこが良いと?言いなりになるだけの男は要りません。思慮深く、奥ゆかしさのある男でなければ、私の夫は務まりません。」


「あーっ!ノアが居る時はこんな事にはならなかった!お前を素直に世話係にすれば良かった!」


「そう!残念でしたわね?もし、お父様はお休みになるそうよ。連れて行っておやり。」


「私を誰だと…!やめろ!離せ!下賎な者が私に触るな!」


 衰えた魔法士は、使用人に連れて行かれた。ここからは、娘の視点になる。彼女は頭を抱え、頭痛を抑えている様だった。その横にはいつの間にか男が立っていた。私の兄にそっくりな男。


「私は、貴方を夫に迎えるわ。男爵家の次男で、先祖には王妃の傍系が入っている。申し分ない。」


 彼の手を取り頬擦りをする。そんな彼女の手を取り、男は唇にキスをした。


「私は貴方様に、最期の時まで、お使えします。愛する人よ。どうか、この愛の奴隷に、慰めのキスを……」


 そこで日記のページが変わる。あの魔法士の視点に戻る。あの男は、窓の外を眺めていた。


「私は、選択を誤った。魔法士は私の代で終わる。二度と産まれることはない。ノアがこの家を継いでいれば、ブレイスフォード家は魔法士の家系として、王家の傍に居ただろう……最早、世話係に過ぎない。政治からは離され、使用人同然になるのだろう。美しい血脈も、汚染された泥の河と成り果てる。私の不幸は、ノアを、王家に差し出した時点で始まっていた。」


 窓の外からは歓声と祝福の鐘が鳴り響いていた。そこで日記は閉じた。


 私達は日記を改めて読み返した。先程の映像は流れない。これは、私の祖先の日記だ。唯一出てきた名前、ノア。


「ヴィネ。ノアという人物に心当たりは?」


「最初の世話係は、私の目に触れる事は無かったよ。名前は知っていたけれど。彼だけが、最後まで役割を果たした。」


「……貴方が作り出した子供は、今の王家の先祖。ホムンクルスが子供を作れるの?」


「私の術が間違っていなければ、生殖器は機能しているはずだ。現に子孫がいるのだから、上手くいっている。」


「そうね……」


 私の血に、男爵家の者が入っていた。血筋は申し分ないと言っていたが、本当にそうなのか。私の信じていたものが、どんどん壊れていく。ヴィネが私の周りをジタバタと彷徨いている。私が落ち込んでいるとでも思っているのか。


「ヴィネ、私は狼狽えているだけよ。落ち込んではいない。元々、ブレイスフォード家は欠陥があったのよ。兄もこうなると知って逃げたのかもしれないわね。でも、所詮貴族の男。盗賊にでも殺されて、身包みを剥がされてるでしょうよ。このクソがッ!」


 目の前のガラクタを蹴り上げる。ガラガラと音を立てて崩れていった。それでも腹の怒りは収まらない。私とて、この塔を出てどう生きていくというのか。しかし、王家や家の思い通りに生きたくない。それならば、どうするべきか。


「リベカ。恋愛小説も食べてみたら顔も出せたぞ!愛に関するものを食べれば、外に出られるかもしれない。リベカ…?」


「……貴方が居たわね。私の横に置くのにちょうど良い。」


「?」


 小首を傾げるヴィネを後目に、私はこの国を壊す事を考えた。壊して、それから、私が君臨すれば良い。隣に、この魔法士を置いて。


「ヴィネ。貴方、私に付いてくるわよね。」


「あぁ。友達だからな、裏切りは絶対にしない。」


「ええ、そう誓って。私も、貴方が裏切らない限り、傍に居るわ。」


 私の野心の先にあるのは、破滅か、それとも希望か。それさえもどうでも良い。今はただ、この醜い国を滅ぼそう。

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