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第5話

 この塔には何も情報がない。この男が世間知らずなのも、初代国王から情報を遮断されていた可能性が高い。不老不死、そんな呪いがあるなら、寧ろ自分にかける方が良いと考えそうなものだ。何故初代国王は自分ではなく、弟に呪いをかけたのだろう。この男の過去に何か情報があるかもしれない。


「ねぇ、兄とは仲は良かった?」


「自分は良いと思っていた。でも、兄は。今思えば、彼は私のことが嫌いだったのかもしれない。」


「何かそう思う理由でもあるの?」


「……兄は、私の周りを褒めることはあったが、私を褒めたことはなかった。いつも鏡の前にいると、顔を歪ませた。」


 それから、彼は過去を話し始めた。私の推察を交えながら整理する。聞く限り、彼の兄、初代国王はどうやら彼と自分を比べていたようだった。ヴィネは父に、兄は母に似ていた。母親は特別美人ではないが、笑顔が素敵な人だったという。そんな母に似ていた彼は、国王になることに固執していた。中身は野心家な父に似ていた。彼はヴィネの婚約者のみならず、側近や友人を奪い、ヴィネは孤立していった。勉強と剣術、魔法、この三つはヴィネに勝つことは叶わず、それがますます彼の劣等感を刺激した。ヴィネは父の外見の良さを、母の美しい笑顔を受け継いでいたのも、彼の心の闇を刺激した。

 ある日、とうとう彼はヴィネの婚約者を寝取ることに成功する。それでも、孤立していたヴィネは彼女と共に居たがった。それを跳ね除け、彼はそのまま結婚する。王妃となった彼女をヴィネは遠くから眺めていたという。

 それから、ヴィネは彼女に似た人間を錬金術で作り出そうとした。しかし、成人女性を作るには体の半身を失う必要があった。それでもと、彼女を作り出そうとしたが、肝心の彼女の遺伝子情報が手に入らなかった。不完全な錬金術は赤ん坊を生み出し、ヴィネは片目を失った。ヴィネはこれから赤ん坊の父親になるのだと思っていたが、兄は許さなかった。それは倫理的なものではなく、ヴィネに味方が出来ることを恐れての行動だった。そして、ヴィネを永遠に、孤独にする為、不老不死の呪いを魔法士に命令したのだ。


「あの赤子がどこに行ったのか、それとも殺されてしまったのか。私には分からない。それでも、兄に愛されていると思いたかった。母は早くに亡くなってしまったし、父は国政で私に構うことはなかった。兄だけだったのだ。罵倒でも怒号でも、話しかけてくれたのは。」


「貴方もなかなか難しい人生を歩んでいたのね…って、ちょっと待って。そんな兄の言葉をずっと信じて、真実の愛とか言っていたの?何考えてんのよ?その魔法士だって?死んでいるだろうし、そうだわ、呪いは術者が死んだら解けるはずよ。それなら魔法がかけられている可能性が高いわ。昔読んだ魔術書に書いてあった。貴方、不老不死なんじゃなくて、この塔に何か仕掛けがあって、死ねないんじゃない?」


 彼は小鳥のように首を傾げた。その後、目を見開き頷いた。


「そうかもしれない!君って物知りだな。私の知らないことを良く知っている。」


「魔法は貴方の方が世代でしょう。何で知らないのよ。」


「私の魔法は独学だ。誰も教えてくれなかったから。」


 この男の兄が、徹底的に情報を遮断していたことが確定した。しかしまあ、こうも純粋に人間が育つものなのかと感心する。この男を利用して、この塔から脱出できないだろうか。塔の謎を解いていけば、きっと私も自由になれるし、あの家に仕返しが出来る。


「ねぇ、私達、協力しない?手を合わせてここから逃げ出すの。それでこの国に唾を吐いてやりましょうよ。貴方もここで一人なんて面白くないでしょ?」


「……じゃあ、君は私の友達?」


 これは協力関係、利害が一致した者同士の結託だ。友人とは、情報を交換し、時に面倒なお茶会で無駄話をし、群れる為のものだ。そんな簡単なものでは、いや、この男は友人というものが居なかったから憧れがあるのかもしれない。友人として側に居てやろう。


「それでいいよ。これから私達は友達よ。裏切ったら死よりも恐ろしい目に合わせるからね。」


「わかった!」


 これが、王妃の美しいと言われていた笑顔だろうか。少し、絆されてしまうような、力が抜けるような笑顔だ。この世間知らずの男を使って、私はこの塔を脱出する。

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