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第22話

こんにちは。少し夜っぽい表現が入ります。

 ヴィネは自然を味方につけていた。偉大なる魔術師として、彼は再び帝国に舞い降りた。皇帝の夫であったはずの彼は、私が対策する前に自然災害を知識と魔法で解決していった。私が始めた農法も、彼が導き出したものとは比べ物にならなかった。人は私も称えていたが、彼を望む声も響いていた。彼の美貌は老若男女問わず魅了し、貧しい者には慈悲の心を見せた。


「ヴィネがあそこまでの知識を蓄えていたと知れば、私とて対策をしたというのに……」


 私はと言えば、過去の栄光で称えられていたが、今の政治は平和ボケしていると新聞で批判された。経済対策は上手いが、農業に関しては並であるとも。手筈が遅いとまで言われてしまった。このままでは私の栄光がハリボテのようではないか。今の帝国の危機と言えば、災害くらいなものだ。それはヴィネが動いている為に、私のはったりや知識が使えない様にされている。彼は下級貴族と手を組み、災害対策に応じている。世間ではまだ、ヴィネは皇帝の夫という事になっている。彼の働きは私の手柄になる筈だが、人心はヴィネに動いていた。後継者教育はベラが手配している。正直、後継者としてのリオンは、私よりも遥かに優秀だった。ヴィネの血を受け継いでいるからだろうか。

 ますます執務室で過ごす事が増えていく。私の地位が脅かされている。私の統治は突けば壊れるようなものだった。


「……カルロ。もし私が処刑されたとしても、リオンは逃がしてほしい。私とて親だ。子が死ぬところは見たくはない。」


「陛下…!そのような事を仰ってはいけません。陛下のおかげでこの国は、この帝国は平和になったのですから。民も感謝することはあれど、忘れはしないでしょう。」


「カルロ、そんな甘い事を言わないで頂戴。分かっているでしょう、民は簡単に忘れる。既に対策で負け、人気で負け、今度は経済で負けようとしている。ヴィネが商会を立ち上げたのは知っているでしょう。画期的な道具は諸外国で受け入れられ、研究が進んでいる。私が足踏みしている間に、外交を成功しているのよ。私が打ち出す政策を彼は上回ってくるの。ベラはまだ私に付いているけれど、それも何時まで続くか……ベイリー家はヴィネに付く筈、それでも私を裏切らないと言える?」


「陛下……確かに私はベイリー家にお世話になっておりました。しかし、今は陛下の従者でございます。例えその先が悲惨なものであっても、地獄までも共に行きます。先ずは経済を立て直しましょう。どんな勝負にも負け方というものはあります。」


 カルロは誰よりも忠実な従者だ。それは共にいた時間が証明している。今も先の事を考え、忠言をくれる。そうだ、私も嘆いているだけではいけない。皇帝なのだから。


「ごめんなさい、カルロ。少し焦っていた。そう、これ以上負けないようにしなくてはね。」


 少し冷えた頭で考えれば、ヴィネの奇妙さに首を傾げた。彼は発明家の様に想像力のある者ではない。知識の応用は出来ても、発想で根底を変えるなど思い付かない筈だ。彼の背後、それが動かしている?それともヴィネがそれを利用しているのか。ふと、離宮に置いていたアンナというメイドを思い出した。




 ヴィネは彼女の焦りを感じていた。リベカは攻めるのは上手いが守るのは得意ではない。激情家の彼女は今頃負け続きで苛立っているだろう。彼女の頭の中は自分で埋まっているのだと鼻歌を歌う。彼女が時折口遊んでいた子守唄。そのまま地下に行き、豪華な部屋のような牢の前に立つ。


「アンナ。君のおかげでリベカの失脚は近いよ。どうもありがとう。」


「いいの!ヴィネが喜んでくれるなら、何でも話すわ。貴方が私を頼ってくれて本当に嬉しい!」


 アンナに自身の知らない知識がある事に気づいたヴィネは、あの日彼女を殺すことをやめた。あの小屋で過ごしながら、彼女の牢を度々訪ねた。アンナは何も知らずに聞いてもいないことを彼に話した。それは遠い世界の進んだ技術だった。アンナは本で得た知識と物語の展開を話し、ヴィネはそれを利用してリベカよりも早く行動を起こした。牢の隙間からアンナの手が伸びる。今日は機嫌が良い、彼女の手を握った。


「ヴィネ、私の皇帝……今日はしてくれる?」


「……気分がいいからね。」


 牢の中に入る。リベカしか知らなかった彼は、若い女を知った。それでも、リベカ程の興奮も快感もなかった。張りのある肌、細い首筋、サラリと流れる髪、くびれた腰を見ても何もなかった。最中も彼は目を閉じ、少しカサついた肌と柔らかな髪、なだらかな腰と、屈辱に濡れた瞳を思い出している。


「あぁ…私の幸い、全て。愛しているよ。」


「ええ、ええ!私もよ!ヴィネ!私だけのヴィネ!」


 アンナは知らずに盲目的にヴィネを掻き抱き、背中に付けた傷を眺めて荒い息を吐く。可哀想な彼女を彼以外、誰も知らない。

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