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第2話

 塔の最上階。そこに化け物がいる。決して入ってはいけないと言われている部屋をノックする。返事はない。私はドアノブを握った。鍵はかかっていない、ドアをゆっくりと開ける。天蓋付きのベッドとテーブル、ソファ、大きなクローゼット、手に持った蝋燭をテーブルに置く。それと同時に部屋が明るくなる。声は出さなかったが、背後を見た。ランプに火が灯っている。さっきまで、天蓋が落ちていたベッドは天蓋が上がり、もぬけの殻。私がベッドを覗き込むと、背中を押された。あっけなくベッドに転がる私を低い声が笑った。


「ははは!びっくりした?びっくりしたよね。あぁ、僕ってばこんなことして、何になるのかな。君も僕のこと、嫌っただろ?いいんだ。僕が好かれることなんて、ないのだから。」


「嫌うにしても、名前を知らなきゃ呪うことも出来ないわ。」


 自分でも吃驚する程の、地を這うような声が響く。顔を上げると、隻眼の男がこちらを見ていた。極限まで目を開き、髪はさらさらと揺れる。それよりも、彼の瞳を、鼻を、弧を描く唇を、陶器のような肌を、私は観察した。ああ、叔母の書いていた化け物、美しい男とは、この者のことだ。

 私が目を逸らさずにいると、突然狂ったように叫び出した。頭を掻き毟り、壁に手をつき、へたり込んだ。叫んでいると思えば、ヘドロのようなものが彼の口から溢れた。体が勝手に動いた。彼の背中を擦り、慣れた手つきで掃除用具を持って彼のヘドロを片付けた。彼に水を渡し、彼に優しい言葉をかけた。


「大丈夫。貴方は何も悪くない。」


「……本当?僕を愛してくれるのかい?君の名前を教えておくれ。」


「リベカ。」


 勝手に口が動く、彼の名前を知ろうと思ったのに、逆に私の名前を知られてしまった。これは、昔使われていたという魔法だろうか。彼の思い通りになりたくない。私は自分の頬を叩いた。鈍い音が響く。彼も大きな目を開いている。


「貴方の名前も教えてちょうだい。そうじゃないと私はここから飛び降りるわよ。」


「…君って。凄いな、僕の洗脳を解いた人は初めて。いいよ、教えてあげるよ。」


「勿体ぶっていないで教えてもらえる?」


「僕は、ヴィネ。初代国王の弟で、不老不死の呪いをかけられている。」


「……そこまで教えなくて結構。私が消されるわ。」


「僕から言ったから、殺されることはないよ。ねぇ、リベカ。僕を愛してくれない?」


 私は彼を上から下まで見た後、よく見れば私のタイプではないと気づいた。私は騎士のような紳士的で、筋肉隆々の人が好きだ。彼の問いかけに首を振った。すると彼は露骨に項垂れた。よくある物語のように、愛がなければ人間に戻れないなんてことがあるのだろうか。


「ねぇ、私が貴方を愛したら、貴方は何をしてくれるの?」


「願いを三つ、叶えてあげるよ。しかし、この塔を出ることは願い事でも叶えられない。」


「ケチね。でもいいわ。どうせ、私は死んだことになるのだから。叔母がそうだったもの。」


「あぁ、エミリーのことだね?彼女も僕を愛そうとしていたけど、気持ち悪かったから袖を振ったんだ。そしたら、僕を襲う計画を立てていたから、殺した。」


 私は叔母を殺したのは王家の騎士だと思っていた。しかし、この男が殺したとは。自殺とされていたのも、この男がやったことを隠す為だったのだろう。この男が飽きれば、私も殺されるのだろう。つまらない。一族はこんな奴の世話をしていたなんて、面白みに欠ける。私はベッド脇にあった置時計で彼の頭を殴った。何度も、何度も。彼が動かなくなるまで。血が私の顔に飛んだ。ベッドのシーツで拭う。私はそこから立ち去り、部屋へ戻って眠りについた。

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