第19話
こんにちは。第19話です。よろしくお願いします。
「もう、誤魔化しも効かないのね。貴方は気づいてしまった。私が、貴方を本当の意味では愛していないこと。可哀想なヴィネ。私の様な者を愛したが為に、こんなことになってしまった。」
「ああ……君からそんな言葉は聞きたくなかった。私を愛していると、その言葉が欲しかった。今からでも、愛してくれはしないのか。このまま、君を想うだけで終わるのは酷だとは思わないのか。」
彼の悲痛な声に心が動かない訳ではない。この心に皇帝の私への愛情程のものがないだけなのだ。私は権力と地位と名誉を愛している。これに勝るものはこの世に一つもない。それでも、人間の中で一番に愛しているのは彼だと断言できる。これではいけないのだと、ヴィネは私を見上げる。
「愛している者に、それは、愛ではないと言われるのは、辛いものね。ヴィネ、私の心をこんなにも乱すのは貴方しかいないのよ?それではいけないの、こんなにも悲しいのは、偽りだと言うの。」
「…君のその一抹の愛情に、心が何度も揺れ、求め、裏切られてきた。私はもう、一緒に居られない。愛している、それでも、これ以上、気まぐれな愛に踊る事は出来ない。」
ヴィネが本当の意味で私から離れようとしている。これ程の愛があって尚、足りないのか。それでは、きっと私が彼を止めることは出来ない。離れようとした手を強く繋いだ。彼の手はするりと抜けていった。
皇帝としての私は、休みは殆どない。彼はいつの間にか後宮から居なくなっていた。いつもの発作だと思っていた私がいた。彼は本当に去ってしまった。それでも仕事は難なく進み、国民からの人気は絶えず、臣下の信頼も厚い。私は満足していた。彼はいらなかった、それが証明されてしまった事の方が、彼が居ない事よりも胸が痛んだ。
ヴィネの事は、影に探す様に伝えている。何処にいるのか、まだ詳しい事は分からないが、この国からはまだ出ていない様だった。彼が居ないベッドは広く、少し寒かった。それでも、彼が居る時の様な緊張感がない分、よく眠れた。私は彼を愛していたのだろうか、彼が言う様に、本当の意味では愛していなかったのか。愛の定義など、詩人が考える事だ。私の領分ではない。それでも、私を愛していた者が居ないのは、手足を冷たくした。
「カルロ、私は、ヴィネを愛していなかったのかしら。それとも、彼の事を考えているのだから、愛していた、それか、愛しているのかしら。」
「誰かが居なくなって寂しいというのは、人としての当たり前の感情でございます。それが、愛に繋がるのかは、人それぞれ、違うと思います。」
「そうね、ヴィネを、私、愛していたかった。それももう、出来ないのね。彼が手を離したのだから。」
「陛下……」
カルロの憐れむ様な声を聞きながら、雪の降る庭を眺めていた。