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第18話

 私はダグラス公との一騎打ちに辛勝した。失った者も居た。ベラが左腕を負傷し、私も右肩を負傷した。しかし、それだけで済んだのは運が良かった。私がダグラス公の首を掲げれば、連合軍は勢いを失くし、兵士達は雄叫びを上げた。連合軍はダグラス公が死んだことにより、撤退していった。私を称える声が戦場に響く。


「「「皇帝陛下万歳!!リベカ一世万歳!!」」」


 何度も何度も繰り返される称賛を浴びる。私は清々しく、朝日が昇りきるのを眺めていた。


 私の怪我は幸い後遺症になる事はないと、医者は話した。ベラ・スタッドも問題はないと言う。私達は被害を最小限に戦争を終わらせた。ダグラス公は晒し首にする事も考えたが、形式的に弔った。これには他の選帝侯も何も言えない様だった。それはそうだ。ダグラス公が勝手に進軍し、死んだだけなのだから。私の皇帝としての地位は確固たるものになっていく。何時までも登っていると思っていた階段は、頂上へと近づいている。

 帰るとヴィネが走り寄り、私を抱きしめた。これも良い演出になる、彼は良い働きをしてくれた。私が抱きしめ返し、会いたかったと言えば彼は身を震わせた。私達夫婦の仲の良さも国民の人気に繋がった。これ以上ない程に上手くいっている。その筈なのに、何かピースが足りない様な、違和感を覚える。


「何か、ありましたか、陛下。」


「カルロ。いや、私はこれ以上なく、上手くいっていると思っているのだが、何か、足りないと思うの。何が足りないのかしら。子供?それとも、愛妾か。歴代の皇帝には子供も愛妾も居たものね。」


「愛妾など、お作りにならずとも陛下の統治に文句を言う民衆は居ないでしょう。子供は……授かりものですから、焦ってはなりません。」


「そうね。そうだと思うわ。完璧に、何もかもを手にしたいと思うのは、我儘になる?」


「陛下の望みが我儘になる筈がありません。それに、私カルロを、微力ではございますが使ってください。」


「そう、そう。カルロ、ありがとう。」


 カルロは頭を下げた。私の従者を、早く見つけなくては、誰の息もかかっていない、平民でも構わない。優秀で、私に忠実であればそれで良いのだ。私は執務室を後にし、王座へと歩を進めた。廊下ですれ違う使用人は皆頭を下げる。私の求めた玉座。ゆっくりと腰掛けた。ヴィネが掛けた魔法はまだ続いている様だ。


「暗い悲しみは、仄暗い憎しみは、消え去った。その筈なのに、何故、こうも満たされないのか。過分な程、上手くいっているのに。道化師はいらない、賢者もいらない。いるのは、私を真に支える者。」


「私では不満なのか。」


 ヴィネがいつの間にか背後に居た。もう驚きはしない、いつもの事だ。彼は私の手を取る、縋る様に。


「ヴィネ。私の味方。それでも、仲間は多い方が良いでしょう。何かあったら、」


「その何かは起こらない。私がいるのだから。リベカ、今日は私と一緒に居よう。歌を歌い、静かに過ごそう。」


「ヴィネ、私にはまだやる事があるのよ。そろそろ戻らないと。」


「…君はいつもそうだ。何かに追われる様に仕事をし、人に微笑みかけ、策略を考える。君を思う、一人の男を考えた事はないのか?」


「手を離して、私は戻るから。お願いよ。」


「カルロを愛妾にするのか。」


「一体どうして、そうなるの。私は貴方以外を愛するつもりはないわ。夫は妻を、妻は夫を真摯に愛していくものでしょう。」


「ああ、その筈だ。」


「何が言いたいの。」


 ヴィネは私の手を離した。背後からあのメイド、アンナが衛兵に連れられている。拘束され、罪人の様だ。なんだ、白状してしまったのか。


「ヴィネ、彼女をどうするつもりなの。」


「彼女を君の従者にしてはどうかな。君に忠実ではないが、裏切る事も出来ない。この国が壊れてしまったら彼女は困ってしまうからな。」


「なかなか、危険な事を提案するのね。彼女が祖国を裏切らないとは限らないでしょう。現に皇帝である私を、死に至らしめようとした者。ゼロから信用しろと?」


「じゃあ、斬首刑だな。彼女を牢獄へ。」


「ヴィネ!!私のヴィネ!!貴方が本来の皇帝なのよッ!!その女は貴方を愛してなんかいない!!ねぇ!ヴィネ!!私にヴィネを取れるか賭けをしようって言ってきたのよ!!ヴィネ!目を覚ましてッ!!」


 アンナが引きずられていく。衛兵は居なくなり、此処には私と彼だけが残った。彼は私の前に跪き、首を垂れた。


「私は、君の為なら何でもするつもりだ。君が私に影を付けていた事も、賭けをしていた事も、全て許容する。だから、どうか、愛情とは何か教えてくれ。私を愛してくれ。私を信じてくれ。お願いだ。」


「……愛情は、重いわ。肉欲のない親切心が一番マシで、一番信用できない。私は貴方を信じているわよ。それが愛情でないなら、何が愛情だと言うのかしら。」


「私の世界は、君が中心に回っている。しかしどうだ。君の中では、私は、数ある中の通過点の一つに過ぎない…君の愛情はッ、皇帝としての地位にだけ向けられている!人として、私を愛してほしいのだ!皇帝の地位よりも、私を!愛してくれないか。そうでなければ、耐えられない。」


 彼は静かに涙を流す。眉一つ動かさず、ただ、私を瞳に映す。形の良い唇は、それ以上の言葉を話さず、ぐっと閉じたままだった。

こんにちは。どんどこ太郎です。

私情により、投稿間隔が開きます。

来月には投稿する予定ではありますので、お待ちいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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