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第17話

 前線は思ったよりも疲弊していた。弱点を見抜かれており、そこを突かれている様だ。他にも、賊軍と違い、彼らは妙に統率が執れている。地形を利用し、こちらが一時有利に動いたが、また平行線に戻ってしまった。何か、打開策を考えなければ、私の地位と領土が揺らぐ。

 ダグラス公の作戦ならば、彼の性格上、こちらが気を抜けない様に攻めてくる。その通りに動いている。現に兵士達は、何時敵軍が来るのか分からず、気の抜けない状況が続いている。ならば、総攻撃をこちら側から仕掛け、大将戦を行う他ない。私は槍の心得はあるが、剣術に関してはベラ・スタッドの方が強い。彼女に頼みたいが、私が出る事に意味がある。

 久々に戦場に立つ、皆が私の言葉を待っている。皇帝の、女神の加護のある者の導きを信じているのだ。


「皆、先ずはありがとう。ここまで前線が突破されずに保っているのは、一重に皆さんのお力があっての事。私は若輩者ながら、ここである宣言をしようと思います。」


 私は長いマントを脱ぎ捨て、鎧を露わにする。兵士達から感嘆の声が上がる。彼等はまさか、私が前線に出ようとしているとは思わなかったのだろう。


「今!連合軍の後ろには、裏切り者がいる。女神の教えに背き、弱者を挫き、絶望に貶めようとする者が居る。私は、それを止めたい。それには皆の力が必要です!私と共に戦ってください、共に正義を振るい、人々の解放の手助けを、してください。全軍、総攻撃の日が来た!女神の栄光が皆に降りかからんことを!」


 歓声が上がる。皆の士気を上げられた様だ。及第点といったところか。私は歓声の中、馬に乗る。後ろにはベラを連れ、皆を導いた。ダグラス公、私を敵に回したことを後悔させてやろう。





 ヴィネは政務の為に、離宮から王宮に戻った。彼女の執務室、いつも見上げていた部屋に彼女はいない。彼女は今、最も危険な前線にて指揮を執っている。自分を連れていくのが一番簡単だと言うのに、彼女は自分の地位を確固たるものにすべく、前に出る。もし彼女が戦場で怪我をしたら、死んで、しまったら。ヴィネはそれを考えるだけで、身が震える程の恐怖と憤怒に襲われた。

 カルロが機械的に書類を渡してくる。リベカには笑顔さえも見せるこの男の存在もまた、ヴィネの心を乱した。彼女の命令に忠実で、彼女を優しく見つめる男。それが傍に居ることが耐えられなかった。あの塔の中であれば、簡単に殺すことが出来たのに、今は怪我をさせるだけで罪に問われる。この男がいるから、ピーターを置いた。従者の中で一番害がない男に見えた。実際は彼女に危害を加えようと動いた。他の者を置かなくては、一番良いのは彼女に興味がない女性。それでいて、忠実に命令を執行する者。彼はそれを探さなくてはならなかった。


「カルロ。君はリベカをどう思っている?」


「皇帝陛下の事、でしょうか。」


「他に誰がいる。」


「陛下の事は、尊敬しております。政治手腕も、臣下として誇らしく…」


「君は、彼女が好きだろう。彼女を手に入れたくて、共に居たくてしょうがないのだろう?はは、私と一緒だ。」


「…その様な事は。」


「いや、私には分かる。君が彼女をどう想い、どうしたいと思っているのか。彼女を膝に乗せて、抱きしめ合う想像をしたことがあるだろう。ベッドに呼ばれる夢を見たか?それとも、その先でも見たか?」


「お止めください!!いくら殿下でもお言葉が過ぎます!」


「そうか、自分はもっと高尚な想いで彼女を見ていると。素晴らしい事だな。プラトニックが至高の愛だと言う者もいるが、果たしてそれは本当なのか。彼女が瞳いっぱいに映るあの瞬間を、少し湿った肌が吸い付く様に、触れるのを、愛しく思うのは愛情ではないのか?近づこうとする程、深みに嵌まる様に、動けなくなる。彼女は私の心を離してくれないのだ。」


「……離していただけないのではなく、しがみ付いているのではないですか。殿下。」


「言うじゃないか。そうだとも、私は彼女に縋り、離れられないのだ。彼女が居ないだけでこんなにも不安定で、憂い、哀しみ、いっそ怒りまで湧いて出る。」


「…………。」


 彼女のハンカチを取り出す。頬に当てれば、彼女の匂いがする。彼女が凱旋したら、政務を行った事を褒めてもらおう。膝に頭を乗せて、彼女の為に歌を歌おう。彼女は讃美歌が嫌いだ、流行りの曲を覚えなくては。彼女の戦場での話を聞こう。そして、彼女を抱きしめて、キスをしよう。カルロに見える様に、彼女に手を出そうなどと思えなくなる程に。


「彼女は百合の様な清らかさはない。菫の様な儚さはない。しかし、薔薇よりも高貴で、美しい。ならば彼女を何に例えるか、野薔薇ではありふれている、それよりも豪胆だ。彼女はきっと、この世の花では例えられないな。女神の傍に咲くと言われる花がお似合いだ。彼女は女神そのものなのだから。」


「…あのお方は人でございます。花にも、女神にもなり得ません。殿下、どうか、陛下を、人として愛して差し上げてください。」


「彼女の指先が触れる場所、視線の先、全てが自分であったなら。これが人としての愛情ではないのか。」


「それは、執着と支配、そして、恋情でございます。決して愛情とは言えません。」


「執着と支配、恋情……。隣に立てど満たされぬのは、それのせいか。」


 カルロは何も言わなかった。沈黙が何よりの答えであった。愛情を学んだはずの自分、完璧な男になったはずだった。それは勘違いだったのか。彼女に聞きたい。彼女はいつも正しい答えをくれる。この胸の痛みも教えてくれるだろう。

こんにちは。どんどこ太郎です。

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ではまた。

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