表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

第16話

 夜。私はメイドに肌を磨かれ、髪に薔薇のオイルを付けた。いつもの様に櫛で髪を梳き、シームレスな寝間着を着る。広いベッドで彼を待つ。久々の夜伽だが、何かがおかしい。私は上着を羽織り、ピーターを呼んだ。


「…陛下、どうされましたか。」


「嫌に、離宮が静かで。ヴィネは何処に居る。」


「殿下は今頃湯浴みの最中かと。」


「案内して。」


「こちらに。」


 ピーターの後を歩く。するとあのメイドが目に入った。彼女が何か仕出かしたのだろうか。思わず、吹き出してしまった。ピーターとメイドは私が笑っているのを不思議そうに見ている。なるほど、上手くやった方ではないか。案内された部屋から複数の息遣いが聞こえてくる。私を此処で襲う魂胆だったのだ。

 私は大声でカルロを呼んだ。カルロは元々影の才能があった者だ。すぐに現れ、彼等は驚きの声を上げる。


「ピーターを取り押さえなさい。そこのメイドもね。」


 カルロはピーターを慣れた手付きで取り押さえ、縄で縛る。逃げるメイドの足を引っ掛けてやれば、盛大に転んだ。私はゆっくりと近付き、彼女の顎を掴んだ。


「…慈悲というものは、有難く受け取り、それ以上の愚行は避けるべきだ。しかし、貴方は、二度までも、私の厚意に背き、泥を塗った。これは、追放処理をするしかない。」


「わ、私は、そこの男に騙されて…!」


「話が違うぞ!アンナ!」


「可哀想にね。ピーター、貴方は反逆罪で絞首刑になるでしょう。裁判で存分に言い訳をしなさい。」


「そんな…!どうかお慈悲を!陛下!陛下ッ!!」


 ピーターが篭絡されるとは、あのメイドは働く場所が違えば昇進出来ただろう。面白い、目の前の彼女を使うのは良い考えだ。遊びというものは、本気の者が居るから面白い。


「貴方は、ヴィネを愛しているのね。よろしい、それなら機会をあげましょう。ヴィネが離宮に居る間は彼に近づくことを許します。その間に、彼を誘惑してみなさい。そのまま彼が貴方を選ぶなら、私は貴方に暇を出し、ヴィネと離婚します。彼が私を選ぶなら、今日の事で絞首刑、もしくは斬首刑よ。貴方は、愛の為に、命を賭けられる?」


「…アンタの地位を賭けなさいよ。」


「私は民衆から選ばれたのよ。なりたくてなれるものではない。皇帝はそんな単純なものではない。私が賭けるのはヴィネだけよ。私の慈悲を受け取らないのならば、貴方は反逆罪でピーターと同じ目になりますよ。」


「わかったわ。飲むわよ、そうするしかないんでしょ。」


 私は彼女から手を離した。これから、この離宮を使うのが楽しくなりそうだ。しかし、これでヴィネと寝る理由がなくなってしまった。ヴィネの機嫌を損ねない断り方を考えていた。





 一度王宮に戻れば、ベラ・スタッドが慌てた様子で報告してきた。それは、連合軍がこちらに攻めてきているとの事だった。皇帝の地位と領土が欲しいらしい。地位は渡せないが、領土の一部を渡し、穏便に済ませることも出来る。さて、どうしたものか。ヴィネを使って奇跡を起こしたように見せて、帝国民の人気を取るのも良し。私の軍師としての才能を見せる為に、前線に立ち、総指揮を執るのも良いだろう。


「私が前線で指揮を執ります。その間、政務はヴィネに頼みましょう。ベラ、ついてきてくれるわね。」


「陛下の御心のままに。」


 スタッド家の軍事力はこの国で一番だと言える。その分、裏切りを警戒しなくてはならないが、扱えるうちは良い味方だ。私はカルロを呼び、ヴィネに政務を一任することを伝えた。ベイリー家の外交力で解決できないという事は、連合軍は地位向上と、領土の独立を考えているのだろうか。この状況で帝国から抜ける方が危ういと思うが、後ろ盾があるのか。例えば、公国。ダグラス公が裏に居るのなら話は単純だ。しかし、私に好感を持たない者は他にもいるだろう。ダグラス公を筆頭に、下に居るもの、或いは背後に居る者を特定しなければ。

 私が前線に出ると聞いたヴィネが執務室のドアを勢いよく開けた。彼は酷く焦った様子で、額に汗まで浮かべている。


「君が前線に出る必要はないだろう。何故、私に行かせない?」


「私が行くことで士気が上がるでしょう。前線の指揮を執れば、帝国民の信頼も得られる。」


「これ以上、無理する必要はないだろう。今は国務に専念すべきだ。」


「…背後にいる者が、帝国に、民に、手を出せない様に、私が行くの。暗殺の可能性もあるけれど、危険を冒してでも、前線に行く価値はあるわ。皇帝自ら出向くことが、どれ程の価値があるのか、分かるでしょう?私を止める事は出来ないわよ、ヴィネ。」


「……皇帝としての君は、もう充分威厳を持ち、家臣からも国民からも信頼がある。これ以上、何を求めると言うのだ。」


「皇帝は常に、強くあらねばならない。その為に行くのよ。」


 ヴィネは目を開き、視線を下に向けた。私を止める事は出来ないと悟ったのだろう。拳を握り、爪が肌に食い込んでいる。私はヴィネにカルロと共に政務に専念せよと命令をした。彼はただ、頷いた。彼が反乱を起こす可能性を考え、カルロと影に彼を見張る様、密命を出した。

 何も信用出来ない。ヴィネには愛はあるが、それによって暴走する事を視野に入れなくてはならない。ベラは野心がある、帝国の皇帝になる事を考えていない訳ではないだろう。カルロはベイリー家の推薦、優秀で忠義もあるが、ベイリー家への恩義を忘れていない。新しい側近が必要だ。私が選んだ、私にだけ忠実な者を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ