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第13話

 あのメイドを推薦したのは、死んだヴィンセント家元当主のマーカスだった。ヴィネの不貞行為をでっち上げれば、離婚すると思ったのだろう。私の隣に立てるとでも思っていたのだろうか。全く、汚らわしい男だ。やはり、摂政にベラ・スタッドを任命したのは間違いなかった。暗殺の不安はあるが、そんなものは些末な事だ。

 ヴィネの近くにいた、あのメイドは後宮から離宮へ移動させた。それを聞いた彼は顔を綻ばせた。何がそんなに嬉しいのか知らないが、もしかしたらメイドに言い寄られて面倒だったのかもしれない。メイドは嫌がったようだが、王命だと知れば黙って後宮へと移った。あのメイドは王命で移されたと噂を立てられるだろう。陰湿ないじめに合うかもしれないが、私の知った事ではない。王配に近づくのが間違いなのだから。


 私はとうとう、選帝侯の一人に推薦され、選挙を通して帝国の王になった。後は教皇に帝冠を頂けば、偉大なるリベカ一世の誕生だ。ベラ・スタッドは、私に家名の入った剣で忠誠を誓った。家系の皆が私に忠誠を誓ったも同然だ。彼女が言うには、私の傍で使えている内、本当に忠義を持つ様になったと。実際は選帝侯に早くも選ばれ、帝国の王になった私には勝てないと思ったのだろう。

 私は帝国を周り、様々な貴族や大公に会い、仲を深めていった。勿論、私の領地にも凱旋した。皆温かく迎えてくれた。私の故郷、美しい街並み、美しい緑、愛していたものが確かに此処にあった。此処を兄が継いでいるが、実際は兄の侍従であったヨハン・カーターが領地を管理している。狂ってしまった兄を見て、彼は涙した。そして、それを献身的に世話する私を見て、忠義の限りを尽くすと膝をついた。私はそれを良しとした。


「私の帝国、私の国、私の故郷。ヴィネ、美しいとは思わない?私は帝国の皇帝になる。貴方はその伴侶、充分過ぎるくらい上手くいっているわね。」


「私は、君が私を求めてくれれば、それでいい。リベカ、アンナの事なのだが、何故、離宮に移動させた?辞めさせれば良かったのに。」


「アンナ?あぁ、あのメイドの事ね。優しく寛大な王は、メイドの一抹の恋を許してあげたの。離宮は私と貴方が来る所、私達の姿を見れば、諦めると思ったのよ。」


「そうか。私を想っての事ではないのだな。わかった。」


 ヴィネが私の執務室から出ていく。私はそれを許してはいけないと感じたが、止めなかった。私は目の前の書類に目を通した。ピーターが慌てた様子で部屋に入ってくる。


「陛下!教皇様が、お越しになられました!」


「何ですって?先触れもなく、来られるとは。よっぽどの理由があるのか、それとも……私を認めていないということかしら。ピーター、教皇がお越しになった理由を聞いてきなさい。多少は無礼をしても、教皇は強く出られない。既に向こうが礼を欠いたのだから。」


「はっ。」


 ピーターが出ていく。私は教皇に会う準備をしなくてはならない。ベルを鳴らし、メイドを呼び、すぐに礼装の準備をする様に伝えた。

 暫くするとピーターが戻ってきた。理由を尋ねれば、私に今すぐにでも帝冠したいとの事だった。これは、選帝侯の中に私が皇帝になると困る者がいるのだろう。各地を周った時、ヴィネを王にと動いていた者が居たとカルロが話していた。その者の派閥的に、選帝侯の一人、ダグラス大公が浮かび上がる。礼装を身に纏い、教皇の前に出る。寵臣の言葉を待つ。


「「「皇帝陛下と、あなたの後継者に、法の下、女神の下、忠誠を尽くすと誓います。」」」


 ベラ・スタッドを初めとした寵臣が唱える。続いて、教皇が唱える。


「女神よ、皇帝を救いたまえ。」


 戴冠宝器を一つずつ、王冠、王笏、宝珠、剣、指輪を付ける。これによって、私は皇帝となった。寵臣が跪く。皆私の言葉を待っている。手が震えそうだ。遂に、悲願を果たした。これからが、私の本当の人生の始まりだ。素晴らしい、門出を祝わなくては。


「私の様な、若輩者が。一伯爵家の者であった私が、この様に帝国を導くとは誰も思ってはいなかったでしょう。これから、私は、この帝国の為、民の為にこの身を捧げます。帝国に栄光あれ!」


 寵臣や侍従の歓声、急ぎ行われた帝冠式。正直、不満は多い。しかし、これで、私は皇帝だ。選帝侯も私には逆らえない。教皇は満足げな表情をしている。私も微笑みを携え、ヴィネを呼んだ。


「我が夫、共に、この帝国の親となりましょう。」


「ええ。私の皇帝陛下。この帝国を導く支えとなりましょう。」


 完璧だ。国民に、帝国民に皇帝誕生を伝えなくては。すぐにピーターとカルロが帝国中に伝える為に、動き出す。

 教皇は命を狙われているとのことだった。影を常に付け、彼を守ることにした。ここで、死なれても困る。せめて帰ってから死んでほしい。





「う、そ。何で?皇帝になるのはヴィネのはずじゃ……。」


「アンナ!何サボっているんだい!」


「すみません!」


「ったく。色目しか使えないのかね、この子は。」


 私が皇妃になったら、真っ先に首を跳ねてやる。でも、何で、ヴィネじゃなくてリベカが皇帝になっているの?こんなの、小説に載っていない。書かれていない事が起こっている。ベラ・スタッドが反乱を起こして、リベカを殺害して、ヴィネを皇帝にする筈じゃないの。何がズレてしまったの?そういえば、ヴィネはいつもリベカの執務室が見える場所を散歩していた。何故?塔を出る為に彼女を利用するだけじゃなかったの?まさか、愛しているの?私だけのヴィネの筈なのに。

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