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第12話

 夜、ヴィネはリベカの背中を見ていた。髪を梳かす彼女の姿は何よりも美しく見えた。伴侶になった今、彼女に一番近いのは自分だと思っていた彼だが、より遠くなったのだと感じていた。体を重ね、共に眠り、愛を囁いても、彼女は政治に夢中で、自分を呼ぶ時は報告を聞くだけ。自分の価値は、情報と魔法だけだと言われたようだった。これならば、塔に居た時の方がずっと幸せだった。彼女の膝の上で歌を歌い、頭を撫でてもらう。あの時が一番心安らぐ時間だった。


「リベカ。私の頭を撫でてくれないか。」


「……今、行くわ。」


 ベッドまで来た彼女がヴィネの頭をそっと撫でる。顔にかかった髪を指で払う。リベカを想うヴィネは、彼女と居る時はまるで、薄氷の上を歩くような気持ちと、包まれて隙間無く愛されている様な錯覚を覚えた。実際の彼女は自分よりも、権力を愛している。その為に自分と結婚したのだと、彼も理解していた。それでも、愛を求めずにはいられなかった。他のどの男性よりも、女性よりも、自分が彼女を愛しているのだから、彼女も自分を選ぶべきだと、彼は思った。


「君に選ばれる者は、一体どんな善行を重ねたのだろう。それとも、どんなものを君に渡したのか。それとも、有能性を示したのか。」


「ヴィネ、わがままが過ぎると人は破滅するわよ。多少なりとも、私は貴方に好意はあるわ。愛情なんて、大したものではない。愛は執着を誘い、自由を奪い、永遠を誓わせようとし、破滅を呼ぶ。そんなものを重要視するのは、よしなさい。」


 そう言いながら、彼女はヴィネの髪を優しく指で梳いた。彼が顔を上げると、微笑み、額にキスを落とした。まるで子供をあやす様に。


「もう寝ましょう。明日もやる事が山の様にある。貴方にもやってもらう事があるから、頼んだわよ。」


「……わかった。」


 そうして、今日も彼は彼女の背中を眺めるのだ。こんなにも近く、遠い存在があるのだと、彼は自身の状況を嘆いた。





 摂政はベラ・スタッドに頼むことにした。家柄も能力も申し分ない。本当はもっと私から遠い人物を選ぶことで、平等性を見せたかったが、摂政になっても文句を言われない者となると彼女しか居なかった。私の言うことを聞き、時に助言をくれる彼女は有能だが、私の様に野心家な所がある。王位を狙う者が後を絶たない。ヴィネに会いたい。


「駄目よ。誰も信用できないのだから。彼も、何時私を裏切るか分からない。」


 誰も居ない執務室で呟く。部屋に響き、吸収されていく。席を立ち、窓の外を見ると、ヴィネが居た。侍従のメイドが転び、それを支えていた。メイドは顔を赤らめ、何度も頭を下げている。後宮のメイドで、あんなにも未熟な者が居たなんて。待て、あのメイドは見たことがない。何時からメイドの入れ替えがあったのだろうか。それをヴィネも報告してこなかった。軽率な行動は慎めと言ったばかりなのに、何故言う事を聞けないのか。

 カルロが書類を持って執務室に入る。私は彼に密命を出すことにした。


「カルロ。あのメイドを推薦した者を探しなさい。」


「かしこまりました。特定次第、すぐにご報告いたします。」


 カルロは有能だが、他の者にも命令する必要がある。カルロはベイリー家の推薦だ。もう一人、ヴィネが選んだ秘書のピーターがいる。彼にも頼まなければ。

 私は常に監視されているも同然だ。早く皇帝になろう。そうすれば、誰も私に命令は出来ない。この国だけでなく、大きな帝国を統べる為には、選帝侯に推薦され、帝国の王にならなくてはいけない。王になり、教皇から帝冠を貰えば、皇帝となる。庶民からの人気と、政治手腕からすれば、私が推薦されるのも時間の問題だ。私が選ばれるまで、待てば良いだけ。それまでに、不安要素を取り除き、後世に残るような偉業を成し遂げる。既に最初の奇跡は、有名な画家に描かれている。それの贋作まで出回るくらいだ。私の人気は右肩上がり、庶民も下級貴族も、上級貴族も私を称える。その中に、私を陥れる者が居れば粛清すればいい。大丈夫、私なら出来る。


「天は高く!空は曇り、雷雨を呼ぶ!我が血脈は汚らわしい悪魔を受け入れた!自身の過ちに気づかず、足元をすくわれる王がいる!女神は唾を吐き、啓蒙を授ける!処女と童貞の間に産まれる子は誰の子か!」


 兄の声が廊下に響いている。侍従の止める声と足音が聞こえてくる。私は廊下に出た。


「見よ!偉大なる女神が、今!まさに!我々の国を脅かんとす!女神に化けた悪魔の子は、静かに世界を滅びへと誘う!」


「お兄様、その様に千鳥足で廊下を歩くのは、お止めください。他の者も困っております。大きな声も迷惑になります。どうか部屋に戻ってくださいまし。」


「静かな湖には、小魚が相応しい。瓦解し、海になってしまえば、小魚は食い殺され、大魚は湖を我が物顔で泳いでいく。」


「さぁ、お兄様、部屋へ案内いたします。ベッドでお休みになれば、多少は気持ちも落ち着きます。行きましょう。」


「夜は何処にある?朝は何処に行った?夕日だけが僕の目を焼く。」


 兄を侍従と一緒に支えながら、部屋へ送る。狂った者は時に、芯を突いた言葉を話すと言うが、はたして彼の言う悪魔とは誰の事なのか。ヴィネの事か、それとも、先祖の男爵家の者だろうか。

こんにちは。来週には第13話を更新いたします。よろしくお願いいたします。

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