第11話
私はヴィネを王配にすることを宣言し、結婚式を挙げた。寵臣達は私達の結婚を表向きは祝福した。そうこれからは全てを信じることは出来なくなる。この隣に立った男でさえも。私達の初夜には寵臣と神官が寝室に入り、メイド達は私達の服を脱がす。服をまとわずにベッドに入り、天蓋が降ろされる。後には、使用人のみ残った。
「一糸まとわずに、君と向き合うことになるとは思わなかった。でも、怖くないよ。だって、君が相手なのだから。寧ろ、嬉しく思う。愛しているよ、リベカ。」
「……私は、嬉しくないわ。」
この男がどうすればいいのか知っていたことに、私は感心した。流石は王族だ。世話係もいたのだろう。夜は深く、私達の影は静かに重なった。私はシーツを強く掴み、屈辱に耐えた。
私の政治手腕に寵臣は喜びを露わにした。前王室の者達は政治を殆どせず、狩猟に出掛け、女遊びに耽っていた。その割には、政治に文句を言い、大したこともせず、重税を課す。全く違う私は、人柄も良く、意見を聞き、決断力もある。申し分ない国王と映った。そうだ、私の評価はこうでなくては。これで、私が子を産めば、基盤が出来る。産まれなくても、狂ってしまった兄を有名な家系と結婚させ、子を産ませればよい。万事上手くいくだろう。
ヴィネには王家の影を指揮させ、諜報活動に出した。正直、任せるには不安要素も多いが、彼以外に適任が居ない。摂政に置いた、ヴィンセント家のマーカスは、私を良く思っていないように見える。反乱の危険も考え、敢えて側に置いた。ヴィネにも監視は任せてある。
「ヴィネ、かの男はどう?反乱の予期はあった?」
「武器を調達する等の分かりやすい行動は起こしていない。仲間探しに苦労している様だ。ところで、リベカ。私達は夫婦になったのだ、こうも共寝が少なければ、不仲だと噂が流れてしまうよ。」
「……貴方が私に手を出さないと約束出来るなら、構わないけれど?」
「ただ眠るだけなら友人と変わらない。何故、私を拒む?あの日、上手くいったと思ったのは私だけなのか?」
「貴方はあの行為を、愛ある行為だと思っているみたいだけど、私にとっては屈辱でしかないわ。」
あの日の私は、満たされていた、満たされてしまった。この男こそ、自分の僕だと錯覚した。それではいけない。誰も信用してはいけない。子供を作るだけの行為だと割り切れない自分に苛立つ。怒りは誰にも見せてはいけない。私は慈悲深く、賢明で、威厳ある王なのだ。不安定な部分を見せれば、付け込まれる。強くあらねばならない。
ヴィネが後ろから私を腕に抱く。慌てて抜け出そうにも、純粋な力では勝てない。諦めて受け止めれば、体が密着する。
「今の君は、怒ることも出来ない。二人きりならば、私を殴ることだって出来るよ。だから、夜を拒まないでくれ。私と共に居て欲しい。」
「今の貴方は、殴れば痕が残るわ。私が暴力的だと使用人に噂される。……約束してちょうだい。手は出さないと、私の許可無しに触れることは止めると。それならば、一緒に寝るわ。」
「……わかった。君の仰せのままに。」
この男は、約束は破らない。それは信用出来る。裏切るなと言えば、傍に居るのだろうか。
後日、とんでもない事件が起こる。摂政でもあるヴィンセント家当主のマーカスが、死体で発見された。私はヴィネの仕業だとすぐに気づいた。これでは私に都合が悪い人物を、殺していると噂されるかもしれない。ベラ・スタッドが教えてくれなければ、情報が遅くなるところだった。秘書であるカルロからも今朝方知らされた。叫び出したいのを我慢して、私はカルロに声をかけた。
「王配を呼んでもらえる?」
怒りが出ないように必死に声を絞る。
「かしこまりました。」
カルロが去った後、大きく息を吐いた。ここで苛立ちを出してはいけない。私は清らかで優しい王なのだから。しかし、私の体は正直で、待っている間も指が一定のリズムで机を叩いていた。カルロに連れられ、ヴィネが現れる。カルロに席を外すように伝え、彼が去った後、我慢できずにヴィネの頬を叩いた。
「何故、私に言わなかったの?」
「…君が喜ぶと思ったのだ。あの男は武器を調達し始めていたし、なにより、君の王配になろうとしていた。私を殺そうと考えていたのだ。」
「その証拠は、ちゃんと取ってあるのよね?」
「あるよ。」
「それを提示すれば、彼が失脚することは分かっていたでしょう。武器の調達に王配の暗殺、充分に追放できるわ。それなのに、消してしまったら証拠と相まって、私が殺したように見えるでしょう…!よく考えて行動して、何故、貴方に影を任しているのか、頭を使って。ここはもう、あの塔の中ではないのだから。」
「…………。」
ヴィネは頷いた。彼が勝手に行動したのは、初めて会った時以来だ。彼も外に出て、知識や感情が戻ってきて、私の思い通りに動かなくなってきている。ヴィネが私の傍にくる。顔に触れれば、私の手を取った。手を振り払う。彼は目を見開き、瞳を揺らした。
「すまなかった。」
「謝れば済むと思わないで、今回は事が大きいわ。手回しをしなくてはならない。貴方にも動いてもらうから、自分の不始末は自分で片付けなさい。」
「分かった。」
ヴィネの頭を撫でてやれば、落ち着いたようだ。何故、次から次へと問題が起こるのか。摂政に関してはまた考えて、誰が適任か考えるしかない。何も気にすることはない。私がどうにかすれば良いのだ。
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