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第1話

「この塔の化け物は、いつも涙に暮れ、嘆き、自分を蔑み、永遠を恐れている。私達のお役目は、その化け物の目に触れず、世話をすること。可愛いリベカ。この仕事をお前に任せる日が来てしまうなんて。恨むなら、逃げた兄、アイザックを恨みなさい。さようなら、リベカ。」


「待って!お母様!置いて行かないで!!」


 母は馬車に乗り、窓からずっと私を見ていた。その目には涙と憐れみを残した。塔に一人残された私は頬を濡らし、兄を罵倒し、両親の不幸を願った。愛した家族は一瞬にして悪魔に変わった。


 お城の外れにある古い塔、そこには恐ろしい化け物が住んでいる。そんな噂は学院時代からあった。親友のナタリーは面白おかしく話していたけれど、私は本当にいることを知っていた。

 それは、化け物を世話するのが、私達ブレイスフォード伯爵家の仕事だったから。家族の誰かが世話をすれば、一家は王家から大金を貰えた。一家が死んでも余りある程の大金、そのおかげで、政治に疎いブレイスフォード家は生き残ってきた。しかし、それだけの大金は一家の一人が犠牲になって貰えるものだった。父の代では、叔母のエミリーが犠牲となっていた。彼女は仕事で精神を病み、先日、塔から飛び降りた。遺体の確認を父と母が嫌がり、私と兄が確認した。兄は叔母を見るなり、部屋を飛び出して行った。遺体は首の骨がくの字に折れ、頭の上部が無くなっていた。手は反転し、足は道化師が履く靴のように曲がっていた。その時、私はこれが兄の最後なのだと思った。

 次代の世話係は決まっていた。この世話係は男女交代で行われていた。兄が叔母を継ぎ、私が伯爵家を継ぐ。そう決まっていた。だが、この事件が切っ掛けで、兄は発作を起こすようになった。突然、大声を上げたり、頬を叩いたり、椅子から飛び上がったりしていた。彼の意思と反しての行動は、兄をより不安にさせた。そしてとうとう、兄は監視を振り払い、逃亡したのである。

 問題は兄以外に働ける男が居ないことだった。私と妹が一人、生まれたばかりの弟が一人しかいなかった。生後半年も経たない赤子が世話係など出来るはずもなく、妹も最近学院に入ったばかりだった。白羽の矢が立ったのは私だった。私は抵抗虚しく、馬車に乗せられ、母と共にこの塔に来た。今まで警護してくれていたヘンリーは目を伏せながら、私を拘束した。そしてこの雷雨の中、私は一人、塔の前に取り残された。


 私は寒さに震えながら、塔の中に入った。不思議と暖かかった。塔の中にまだ、叔母の着ていた服が残っており、私はそれに必死に着替えた。メイドがやってくれていた時のように、ボタンを何度も掛け間違えたが、何とか着替えることが出来た。ヒールのある靴からペタンとした、メイド達が履いていた靴に履き替えた。屈辱的だった。

 私は当主になる為に、大学に行き、政治と経済、社会学を学び、領地民の声に耳を傾け、政策を父に代わって行ってきた。私が学んだことを駆使してブレイスフォード家は、王家の依頼金だけでなく、領地から収益を上げることが出来たのだ。妹が学院に通えるのは私のお陰だと言うのに。唯々、家族が憎くてたまらない。この優秀な私が、世話係として、ここで一生を終えるなどと、許せなかった。私の怒りに呼応するかのように、雷雨は酷くなる。声にならない叫びを上げた。

 ふと、雷の光で本棚が映し出される。私は先程までの怒りが嘘のように、その本棚へと足を運んだ。そこで、叔母の血塗られたメモを発見した。私はこれが本当の遺書だと何故か確信を持っていた。おかしい。王家の騎士から渡された遺書があったはずなのに。


“王家の化け物は、人間だった。美しい人だった。私は彼に近づこうとした。しかし、彼は私を拒絶し、私を醜いと蔑んだ。許せない。私が、今までどんな思いで世話をしてやったのか。恩を仇で返して。明日、私は彼を襲う。そうすれ…”


「これは、どういうこと?化け物は美しい人間…?それなら何故、閉じ込められているの?」


 私は背後を確認した。彼の姿を見たから、叔母は殺されてしまったのではないか。美しい男。私は自身の好奇心を止められなくなってしまった。叔母と同じ末路を辿ってしまうかもしれない。それでも良かった。私の代わりに誰かが犠牲になるなら面白いと思った。

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