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よもやで、まさかの!

「どうなっても知らねーぞ」

そんなヤマトの言葉の「どうなっても」の意味がまさか、こういうことだったとはね…


いや、本当に予想外で想定外。

ずーっと月の中で、しかもその中の限られた区画内でしか生活したことないわたしには、本当に「不測の事態」というやつだった。


いや、参ったまいった。

本当に一体、どういう時空や時限のカラクリでこういうことが可能なわけ? 

マジで意味不。

全くわけがわかりませんな!


わたしはなんとか、ヤマトの生まれた星に辿り着けました。




わたしは「竹」の中で眠らされていた。


月にいた頃の記憶も「輝夜姫」であったことも、

全て忘れ、ただの赤子になって、何故か竹の中で

命を繋いでいた。


そして、わたしは竹の中からわたしを見つけてくれた、老いた男女の「娘」として育てられるのだ。


成長と共に蘇る、記憶。


白亜の宮殿、白の惑星。そこがわたしの故郷。

月の姫。

「輝夜姫」それが…わたし。


竹の中から生まれた不気味な赤ん坊を、二人の老人はとても大切に育ててくれた。

そして、わたしの成長速度にとても驚いているようだった。


辿り着いた青の惑星は、何もかもが月とは違っていた。

色彩が、とても豊かなのだ。

昇る陽光は黄金の輝き。

やがて、空は青く広がり…

その中で、木々の緑が様々な色の花々が世界を彩っていた。

どこからともなく、聴こえる様々な動物たちの鳴き声は、まるで何かの唄のようで、わたしの目に映る世界は全てが新鮮で…

とても美しかった。


人少ない山里。

「こんなところで退屈ではないか」

と、わたしのことを気にかけている様子だった。

そんな心配は全く不要なのに。

退屈なんてしたことない。

全てが新鮮で、そして優しいこの世界がわたしは大好きなんだから。



記憶と共に力の使い方なんかの、感覚も復活してきて、わたしは時々、この育て親の住む小さな家のそばの竹林に度々、小判を実らせた。


「竹林の中でお前という宝物を得れただけでも、私たちは幸せなのに、こんなに恵まれて…」

老夫婦は、皺だらけの顔をゆるめて、小判を大切そうに風呂敷にくるんだ。

そして、ほんの少しだけ心細そうな寂し気な視線をわたしに向けた。


「いつだったか、お前が美味だったと言っていた海のものを街に降りて買いに行きましょうか。

そう、明日にでも。これだけの小判があれば、たんと、山のように買えるから」


婆さまは、目尻をさげて、なんとも言えない優しい声でわたしにとても嬉しいことを言ってくれた。


ああ、いつだっただろう。

ここに来て暫く経ってから初めて食べた「海のもの」。

街の商人が時々、この山に入ってきて、それを売りに来ていた。

山の中では手に入りにくい、希少なもののようで、わたしは初めてそれを食べたとき、あまりの美味さに驚愕したのだ。

でも、本当に希少なものらしく、わたしがそれを食べたのは一度きりだった。


「明日が楽しみ!」


わたしが、声を弾ませると親代わりをしてくれている二人はニコニコと笑ってくれた。

いつも、二人はわたしのことをとても眩しいものを見るような瞳で…そしてその瞳の中にはとてもあたたかな色が滲んでいて…複雑で優しい眼差し。

そんな眼差しでわたしを見ていた。


「今夜は早く寝なさい」

と、言われ、わたしは自分にあてがわれた小さな局(元は物置きだったみたいで質素な部屋)へ、早々に戻ったけど、ちっとも眠れる気はしなかった。


木造の簡素な局。

やや、高い位置にある格子の窓。

小さな窓から、月の灯りが差し込む。


月の光に照らされると、そわそわと落ち着かない気持ちになる。

いつか、見つかってしまうのではないかと…

あの明るい光に照らされて、わたしは月の者の誰かに見つかって、きっと無理やり連れ戻されてしまう…


(嫌だなぁ…)


ぼんやりと、月を眺めながら思わずため息。

月はわたしの故郷だ。

でも、すっかりとここの生活に馴染んでしまったわたしは、もう月の生活に戻りたくないと考えるようになってしまっていた。


けれども「輝夜姫」は、月の守護の為に「生」を受けた存在だ。

そして、輝夜姫は、生涯月から出てはいけないのだ。生まれ落ちた瞬間から「月」という惑星と、運命を共にする。

それが「輝夜姫」の背負う業で、月から出ることなど、絶対不可能で、ゆるされないことのはずだ。


なのに…わたしは、月を出ている。なぜなのか…?

思考を巡らせ、記憶を辿るけど、どうしても思い出せない。


ここに来たのは、わたしの意思なの?

それとも、何か、他者の力で…?


グルグル、堂々巡り…


月を眺めていると、イライラしてきて、

わたしは月に背を向けて袿を布団代わりに、頭から被ってそのまま、床に転がった。


思い出せないことを考えても仕方ない。


まだ月の光は差しこんできていた。

わたしはそれから身を隠すように、袿の中で小さく小さく背を丸めた。


月なんて…

その守護なんてもう知らない。

わたしは戻らないし、帰らない。

ずーっとここで暮らすんだからっ!





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