決断!おてんば美少女!
セリーナを介して話を聞くと、やはり追っ手に狙われてこの森に逃げ込んだようだ。肝心な追われた理由についてだが、依頼に失敗したことに起因するらしい。それ以上詳しくは教えてくれなかった。
結果として、数カ月傷が癒えるまでの間は集落にいることを許される形で話はまとまった。
「本当にありがとうなぁ、お嬢ちゃん。しばらく世話になるがよろしく頼む」
「うん、よろしくね!おじさん!」
「はっはっは、そうだ名前を教えてなかったのう。ワシの名前はアルセーヌじゃ」
「アルセーヌおじさん!私の名前はセリーナ、セリーナ・アンテイア!」
あまずい。本当に考えなしだ。ここで本名を言う必要はないのに、つい言ってしまった。最近”セリーナ”の思考に引っ張られて”花”が薄れていっている気がする。
「ほう、セリーナ・アンテイアとな………。アンテイア?まさか、”青薔薇”か!」
ほら、こうなった。本当にこのお口は悪い子悪い子!
「青薔薇?セリーナはセリーナだよ?」
「覚えてないのも無理はないわい。なんせ数年前のことでお嬢ちゃんはまだこの小ささじゃ。幼子には難しいことじゃよ」
「おじさんの話難しいよぉ、それよりお外のお話いっぱい聞きたい!」
「まあまあ、お嬢ちゃんの昔の話をおじさんは聞いてみたいかもなぁ」
「いやー!お話聞くのー!」
バタバタ
「分かった分かった、あれはワシがまだ…」
しめしめ、駄々こね作戦大成功。それにしてもすっかり忘れていた。ボス達に連れていかれた時までは気にしていたんだけど、目の前に広がる楽園に心奪われてしまっていた。公爵家の人達心配しているだろうな…家族には会ったことないけど。
「それでなぁ、その時ワシが颯爽と現れて!って聞いとるのかお嬢ちゃん?」
「あ、うん!聞いてた!凄いねー。もっと聞かせて!」
セリーナの口車に乗せられたアルセーヌは、得意げに武勇伝を何時間も話し続けるのだった。
それからというもの、約3カ月の間セリーナとアルセーヌは寝食を共にした。傷が癒えて動けるようになり始めてからは、モリビトの生活に興味があると食料調達に付いて行ったり、集落の中を動き回るようになっていた。その横にはいつも小さな少女が付いて回っていて、傍から見ると完全におじいちゃんと孫であった。
(それにしても、一見普通のお嬢ちゃんに見えるのがやっぱり信じられんのう…)
アルセーヌが体を動かせるようになってすぐの頃、セリーナは森のお友達を紹介するために森中を連れまわしたことがあった。猪はじめとしてどの動物にも驚いていたのだが、一番アルセーヌが腰を抜かしたのはやはりあの熊であった。
「な、なんじゃこの巨大な熊は!いわゆる森の主とか言われるやつじゃないかのう!?」
「熊さーん、遊びに来たよ!今日も力試ししよ~!」
「グオォ…グオオオオ!」(はぁ…)
「はああ!」
喧嘩を吹っ掛けられた熊はあからさまにため息をついて、セリーナを迎え撃った。
互角に見える攻防がしばらく続いた末、横たわった黒い巨体に座る少女という光景をアルセーヌは目の当たりにした。ニコっと笑顔を浮かべてVサインをこちらにしてきたことで、ようやくその幼い子どもが熊に勝利したことを理解した。
「また遊ぼうねー!」
「グォ…」
半ば放心状態のアルセーヌを引っ張ってセリーナは集落へと戻るのだった。その日以降、アルセーヌは絶対にこの娘を怒らせないと誓った。
「ねぇねぇおじさん、そう言えば聞きたいことがあるんだ」
「おじさんに分かることだったら答えるぞい」
「おじさんの傷が治ったら、お家に帰るの?」
「そのつもりじゃよ」
「それならさ、その時に私も連れて行って!」
「…理由を聞いてもいいかのう?」
アルセーヌが心理の読み取れない瞳でこちらを見つめてくる。まるですべてを見透かされているかの様な錯覚を覚えて心拍数が上がる。
「信じられないかもだけど、私実は赤ちゃんの時に攫われて捨てられた記憶があるの。心配してるだろうから、一度顔だけでも見せとかないとって思って…」
「そうか、やはりそうであったのか」
「うん…」
「して…お主は何者じゃ?」
「…!」
「物心つかない頃に攫われてから、今まで意思疎通を言語で行わなかったはずなのに口が達者じゃのう。ワシ以前に人が訪れた痕跡も見つからんかった。それに身体能力についてもじゃ。身体強化に魔法を使っておったのう。魔法を使えるだけでも限られた数しかおらぬのに、その威力、そして無詠唱。尋常ではあるまい。森の精霊の類かと勝手に予想しておったわ」
なななななんだこのおじさん!鋭すぎやしませんか!確かに言葉は前世も関係するけど…。
どうしよう、この人には本当のことを言うべきなのかな…
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