拾い物!おてんば美少女!
「グオオオオ!!」
距離にしておよそ10m離れていた熊が、その巨体からは考えられない速度でセリーナに迫ってくる。
「よっと」
「ガッ…!?」
それをジャンプして難なく避けると同時に、熊の後頭部に踵落としを決める。少しは効いたのか声が漏れるが、すぐに振り返って腕を振りかざしてくる。
ブォン
「ふっ」
鋭い爪が眼前に迫るが、今度は懐に潜り込んでそれを回避した。そして右足を後ろへやってから、ジャンプをして熊の股間めがけて思いっきり足を振りぬく。セリーナの足が熊に直撃すると、その勢いで少し黒い巨体が浮いた。
「グ、グオォ…」
「よっしゃー!」
いくら幼子の蹴りとはいえ、急所を突いた一撃に悶絶した熊は、その巨体を痙攣させながら泡を吹いて倒れた。こうして、熊を倒して友達になったセリーナは森の動物たちとその後も仲良く生活を続けていた。
そんなある日、転機となる出来事が訪れる。
いつも通り友達と森の中を散策していると、どこからか血特有の臭いが漂ってきた。臭いを辿って進むと、白いシャツを真っ赤に染めた男性が木に寄りかかって倒れていた。紳士服も所々破けている。
「お~い、生きてますか~?」
「う…」
「猪さんたち、この人怪我してるから私のお家まで運んであげて」
「ブヒィ」
「え?人間臭いから嫌だって?そんなこと言ったら私だって人間よ」
「ブヒ…」
私が引かないと分かったのか、猪さんたちは諦めた様子で男を背負ってゆっくり歩き始めた。それにしても、自分以外の人間を見たのはいつぶりだろうか。最近の人間社会がどうなってるのかとか色々聞いてみたいし、とにかく治療しないと。
こうして家に帰って男性の容態を確認して、適切な治療を施すのだった。男性の負っていた傷は、主に背中にあり矢傷と火傷だ。
「逃げてきたのかな…」
背中の傷が酷いから暫くはうつ伏せにしとかないとだけど、とりあえず”ボス”に説明しに行かないと。
森の中心部にある大樹の周りに私達は暮らしていて、ボスはその大樹の目の前に居を構えている。集落で最も大きい家にいるボスに事情を伝えると、面倒だけはしっかり見るように言われて許された。
「ここは一体…嬢ちゃんが手当てしてくれたのかい?」
家に戻ると、目覚めたのか男性がこちらに視線をよこしていた。年は50代ぐらいかな。髪は真っ白だけど、意外とハンサムかも。若い頃はモテたんだろうなぁ。
「あの~、嬢ちゃん?」
「あ、はい!私が手当てしたの!」
「そうか、ありがとうな…。それで、ここはどこの村なのか教えてもらえるかい?森の近くに人が住んでいるなんて聞いたことがなかったもんでな」
「?人間は私だけだよ?」
「…は?」
「…え?」
「ま、まあいい。ありがとうな教えてくれて。出来れば親御さんか大人の人を呼んでもらえるかい?ワシはこの通りだから呼びに行けんのじゃよ」
頭をなでる手は優しく、久しぶりに人間の温もりを感じたかもしれない。悪い人じゃなさそうだし、ボスを呼んでこよう。
セリーナはスキップをしながら軽快な足取りで再びボスの家に向かうのだった。
「な、なんじゃこやつは!」
「だから、私しか人間はいないって言ったでしょ」
「…」
ボスがおじさんをじっと見つめる。
「まさか本当だったとは…。もしかして、伝承に伝わる”モリビト”の集落に迷い込んだのか」
「…」
まだじっと見つめ続ける。
「おじさん、何で森の中で倒れてたのだって」
「お嬢ちゃん、この者が申している言葉が分かるのか!?」
「おじさんも分かるでしょ?ほら、こうやって気持ちを通わせる感じでやるんだよ!」
「ほ、ほらと言われてもなぁ…。出来れば何て言っているのか通訳をしてくれ」
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