野生化!お嬢様?
時は遡って、強盗集団に茂みに投げ飛ばされた直後のこと。
「とにかくかくれないと」
夜の森は木々が生い茂っていて、かなり暗い。夜行性の動物たちが目覚めたのか、その暗闇から獣の鳴き声がしてきていて、正直ちびりそうだ。怯えながらも草むらに身を潜めて夜が明けるのを待った。流石に怖いから起きていようとしたけど、そこは3歳児。気が付いたら日が昇っていて、木洩れ日に照らされて目を覚ました。
「ん~」
(起きたの~)
(おはよ!)
お、流石はイマジナリーというべきか。妖精たちはこの状況なんてまるで気にしていないかのように、いつも通り私の頭上をひらひらと飛び回っている。
「これからどうちまちょう」
(どうするの~?)
(どうしよっかね!)
前世の知識も振り絞りながら、3歳児の頭で精いっぱい考える。最近は前世の記憶より肉体年齢に引っ張られているのか、どうしても言動が幼稚になってしまう。考え方もしかり。
「んー…」
(んーなの…)
(んーだよ!)
「とうだ!おみぢゅをたがとう!」(そうだ!お水を探そう!)
(お水探すの~)
(お水を探そう!)
そうと決まれば即行動と、早速意気揚々と歩き出す。だが、そこは3歳児というべきか、具体的にどうやったら水が見つかるのかを知らずにどんどん先へと進んでいく。どんどん先へと進んで、結局自分がどこから来たのか分からなくなってしまった。
「ここどこ、おうちかえりたい」
普段外での運動なんて全くしてこなかった温室育ちの箱入り娘。気丈に振る舞ってはいたものの、体力も消耗してきて精神的にも限界が来てしまった。
「うわああああああんおなかちゅいたよおおおおお」
セリーナちゃん3歳、森の中でマジ泣きを始めてしまいました。それを客観視する大人な自分もいて、非情に複雑な気持ちになる。いやさ、しょうがないよ。3歳だし、いきなりこんなことになっちゃってるし。
甲高い泣き声は、静かな森に遠くまで響き渡っていた。どれくらいの時間が経ったのだろうか、未だ泣くセリーナの周りの木々が揺れだした。それに気が付いたセリーナも泣きやんで、不思議そうに首をかしげながら上を向いた。
「だれ?」
「…」
返事は返ってこない。木の上に何となくシルエットが複数見えるけど、陽の光が眩しくてよくは見えない。すると、その内の1つが地面に降りてこちらに近づいてくる。その正体は猿、、というよりは前世で見たゴリラやチンパンジーに近い存在であった。筋骨隆々とした肉体に、セリーナを見つめるその瞳には、知性が感じられた。こちらに来た1頭はこちらをじっと見てから、その逞しい腕にセリーナを抱きかかえて仲間の元に戻るのであった。
「こんどはわたちおたるたんにたらわれちゃったの?」(今度は私お猿さんに攫われちゃったの?)
これ以降猿の群れの中で共に生活をして、様々なことを学びながら、自然の中で逞しく生きていくことになった。生活していく中で、猪もウリ坊を助けたことがあって、それ以降友達になっている。そんなことがありつつ、2年間の月日で、新しい家族と友人が出来て楽しく生活をしていたのだ。その内、気が付いたらイマジナリーも見えなくなっていった。本当に心の防衛反応が作り出した幻覚だったのかもしれない。
まあ、要は貴族として過ごした約3年間に匹敵する時間を私は自然の中で過ごしてきたってこと。つまり、私は最早公爵家令嬢のセリーナ・アンテイアではない。そう、私はこの森で育った野生児セリーナよ!
「あーああー!」
最初の頃は蔦から蔦に飛び移るなんて芸当は出来なかったけど、彼らに体の使い方や強化の仕方を教わってから出来るようになった。
森には食料が溢れていて、食べたい時に食べて寝たい時に寝られる。貴族の頃はおろか、前世でも叶わなかった夢の生活が今目の前にある!この生活に満足しているセリーナは、3日後に来るだろうと予想していた迎えのことや、小説のことなど何もかもすっかり忘れていて、自然での生活を堪能していたのだった。
この悪役令嬢の野生化という事態(事件?)は、その後の物語の根底部分を揺るがして、小説から大きく逸れる原因となるのであった。そして、森で縄張りを持つ熊との決闘をしに行くご令嬢という意味不明な図式の現在へと繋がっていく。
ご都合主義っていいですよね
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