放逐!お嬢様!
「戻ったぞ、ばれちまう前に馬を出せ!」
「はいや!」
パカラッパカラッ
「随分遅かったじゃねぇか、ええ?ご貴族様の庭の草でも弄ってきたのか?」
男の仲間と思われる人物が、揶揄うように男に問いかける。
「目的のブツが中々見つからなかっただけだっての。それにほら、これを見ろよ」
ヒョイ
「こんばんは!おじちゃんもおなかまたん?」
「おいおい、なんだよこのガキは!まさかブツと間違えたなんてふざけたこと言わねぇよな!」
仲間と思しき男が、セリーナを連れてきた男に掴みかかる勢いで問い詰める。おっかないなぁ。
「馬鹿野郎、ブツならもうあっちに手渡して今頃は依頼主の所だろうよ」
「ったく紛らわしい真似しやがって。じゃあこいつはなんだ、お前にそんな趣味あったか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇぞ、こいつはもしかしたらご貴族様の隠し子かもしれねぇんだ。情報にある子どもに該当しねぇ」
「隠し子だぁ?んなもんいたにしても、今攫っても人質には使えねぇだろうが」
「あ、確かにそうだ。じゃあこいつどうすんだ?」
「適当なところで捨てちまおう。今頃屋敷は大騒ぎだろうさ、戻すことは出来やしねぇさ」
え、私って庶子なの?さっきから摘まみ上げられてるから大人しく聞いていれば、好き勝手言ってくれるじゃない。そういえば物語の設定で、セリーナには幼少期にトラウマがあるとか聞いていたけど、もしかしてこれのことなのか。確かに子どもからしたら恐怖以外の何物でもないよな、うんうん。
ん?ちょっと待てよ。
てか、今捨てるとか言わなかったか?捨てられたら私は生きていける見込みがないぞ。
「あたち、いないいないたれるのいやいやよ」(お願いします。命だけはお助けください)
思わず心の声が漏れつつ、必殺のうるうる瞳でお願いをする。
「わりぃな。ほら、話してると舌噛むぞ。それ!」
あちゃー、通じなかったか。草むらに向かって放り投げられながら、冷静にそう考える。
ドサッ
「ぐへっ」
馬から投げられたんだ。相当な速度だったはずだが、運よく草むらでも特に柔らかい箇所だったのか、ほぼ無傷で済んだ。辺りを見回すが、月明かりが木々の間から差し込むだけで、かなり暗い。
これはまずい状況になったな。小説通りなら、最低でも3日後くらいには助けが来るはずだ。3歳半の赤ん坊。それも殆ど外に出た経験がない女の子。それが生き残れるのは運が良くてもそれくらいだろう。
「こんなこわいところでひとり、あたちいきていけないわ…」
どこかも分からない森の中、乙女1人精いっぱい生き延びて見せます。…
2年後
「ひゃっほーい!あーああー!」
あ、いました、あそこあそこ。猿の群れの中に、1匹だけ他と見た目が違う個体がいます。そうです。私です。
蔓がないところまで行くと、そのまま下を並走していた猪の背中へと飛び乗る。
「ブヒィー!」
「いいぞー!それいけー!」
平原をひた走る猪の群れの先頭で、ボス猪の背中にまたがって意気揚々としている。何故こんなことになっているのか。今日に限って言えば、ここら一帯を縄張りにしている熊にリベンジしに行くために、皆の力を借りているのだ。
しばらく走っていると、前に巨大な黒い影が見えてくる。自分の背丈の5倍近くはあろうかという巨大な熊なのだが、来るのが分かっていたのか、どっしりと座りながら鋭い眼光でこちらを見ていた。
「みんな、ここまでで大丈夫だよ。ありがとう」
「ブヒィ…」
「心配しなくても平気なのに」
ボス猪の頭を優しくなでていると、自分も撫でてほしいのか、序列があまり身に付いていないウリ坊がすり寄ってくる。大人のイノシシは少し羨ましそうにこちらを見ているだけだ。
「あははは、くすぐったいって!…はぁ、ありがとねみんな。それじゃあ行ってくる」
猪たちに背を向けて、熊と相対する。
「これまではこっぴどくやられちゃってたけど、今回はそうはいかないんだから!」
「…」
「それじゃあ、こっちから行かせてもらうわ!とりゃあ!」
「グオオオオ!」
2体の生物の互いのプライドをかけた戦いが、今まさに火蓋を切られる!
なんでこうなったかって?それは不法投棄直後まで話をさかのぼって説明するね。
ブクマと高評価よろしくお願いします。