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IF 一足早く追いかけた怪盗美少女

アルセーヌが家を出て行ってしまってから勇者に慰められて、一日置かずに追いかけていた場合に起きていた”IFストーリー”です。


バッドエンドですので閲覧注意です。

「気は進まないけど、もしかしたらいるかもしれないし…」


 ここ数日まともに食事も摂らず家に引きこもっていたのだが、本来であれば、今日は集落に戻って”研究”に関しての手伝いをすることになっている。まあ、当の研究者本人が家出してしまっているから、集落に戻る意味があるのかは甚だ疑問が残るのだけれど。


 ギィィ


 気は進まないが、これも弟子としての修行の一環だと自身を納得させ、荷物を軽く纏めて拠点を後にする。扉を静かに閉める時に見えたリビングは、これまでのアルセーヌとの思い出が詰まっているようで、僅かにしか生活していないのに妙な気分だと感じながらも家を後にした。青々とした緑に囲まれた少女の小さな背中は、それらに飲まれていき、すっかり見えなくなっていく。誰にも挨拶することなく、その日を最後に、彼女はアルテポレオから忽然と姿を消した。







水球(ウォーターボール)




 バシャン




「服を乾かしてから行こう。クシュン」


 水球による魔力操作の練習を兼ねながら向かっていたのだが、結局到着したのは日が沈んで人々が眠りにつく頃であった。



「だいぶ遅くなっちゃったな」


 集落でも比較的上の方にある家を目指して歩みを進める。家が見えてきた距離まで近づくと、僅かに明かりが付いているのが見えた。


「師匠…?」


 こっちの家に帰っていたのかと考えながら、家へ向かう。暗くて良く見えなかったが、近づくにつれてその異様さを徐々に感じるようになってきた。あれは…


「燃えてる?」


 身体操作により強化した足で全速力で駆け寄る。


「うそ、」


 家は轟轟と音を立てて物凄い勢いで燃えている。火が付いてそれほど時間が経っていないのか、まだ燃えていない箇所もある。しかし、火の手は徐々に広がっていき、今まさに家を侵食していっていた。アルセーヌとの思い出を傷付けられていく感覚に襲われたセリーナは、早々に水魔法による消火を開始した。


 ジュゥジュゥ


 家を水の勢いで破壊しないように、細心の注意を払いながら消火活動を続けて、セリーナが魔法制御に慣れてきた頃には、僅かに煙っていた煙も、星々を遮っていたのが薄れるのを待つだけであった。

 足元を見ると、セリーナが使用した魔法によって水浸しだ。一呼吸置いてから、これほどの火災が起きているのに、集落の人が1人も出てこないという状況に、集落にも何かが起きたのかもしれないとセリーナ考え、人々が暮らす方へと降りていった。勉強づくめであったから知り合いはいない。けれど誰かセリーナ達の家を含めて何が起きているのかを知っている人がいるはずだ。


「誰か!誰かいませんかー!」


 静まり返った集落では空しく響くだけであった。おかしいと分かっているものの、もう一度だけ呼び掛けてみる。


「誰かー!」


 ドサッ…ゴロゴロ…ゴロ


「…え?」


 集落にいくつかある中で最も大きい家から、何か人間大の物体が投げ捨てられると共に、そこから分離するようにして両手に収まる程のサイズの塊が転がり落ちた。暗くて良く見えないが、それが妙に液体に塗れて、そうでない箇所も湿っていることは分かる。正体を確認するために凝視して手を伸ばしかけるが、目の前の家から複数人の人物の声が聞こえてきて止めた。


「あーあー、最後のだったのに、気が散って力加減を間違えたじゃありませんかぁ」


 修道服のようなものを着た人物たちは、光魔法なのか、頭上付近に光源を生成していた。それによって可視化された物体の正体と、付近の惨状にセリーナは絶句した。


「…っ」


 最初に投げ捨てられたのは、纏わりついている布切れから察するに、人間だ。それも女性であったのだろう。髪は頭皮ごと剥がされていて、その他の部位の損傷も激しく、四肢はバラバラに折られ畳まれ、砕き捩じり切られている。胸部も大きく切り取られた赤色の円跡があるだけで、人間であるのも辛うじて判断できる程度だ。


「あっ…」


 では、それから転がり落ちて目の前にあるのは何だろうか。布に包まれていることから、身体の一部とは考えにくい。1つの可能性がセリーナの頭を過ぎるが、目を背けたくなる。こんな時に限って奇妙な好奇心というか、見てはいけないものが気になる感情が湧きたつのは、人間の悪い部分だ。転がってきた物体に手を伸ばして、布に覆われていない地面側になっている方向を、セリーナは恐る恐る確認した。


「う゛っ……う゛ぇぇぇ」


 思わず嘔吐しそうになるのを必死に堪える。嗚咽が止まらないが、現実はセリーナを逃がしてくれない。


「赤……ちゃん?」


 顔面は削がれてしまっていて眼球もなくなっており、文字通り肉塊であるものを見て、腰が抜けてしまう。その物音に気が付いたのか、ギロリとこちらに顔を向けてきた修道服の人物たちと目が合った。


「もしかして…我々の邪魔をしたのは貴女ですかぁ?」


「ひっ…!」


 後ずさりしながら、何かしないとと魔法を放つために右手を伸ばす。しかし、それが発動することは叶わなかった。


 ザシュッ…ボトボトボト


「あっ……あぁぁぁぁ!」


 手が、私の手が!


 身体強化を施す隙も無い。切り口を必死に抑えながら、気配を感じる斜め後ろに視線を寄越すと、既に抜かれた剣からポタポタと血を滴らせた修道服の1人が、意志を全く感じさせない、冷酷ですらない無の表情でこちらを見ていた。1人でこれだ。複数人相手では為す術はない。


「もしや、この小娘ではなかろうか」


「もしかしたりしますかねぇ…こちらに連れて来なさい。ボーナスタイムの時間です」


「三日三晩は楽しませてくれよ?」


 乱暴に髪を掴まれたセリーナは、そのまま己の手首から先を切り刻んだ男に引きずられながら、先程出てきた屋敷に連れていかれる。


「いやっ…いや!」


 ズリズリ


「助けて!師匠!!…アルセーヌ!…誰かぁぁaa」


 バタン





 三日後


「くそっ遅くなっちまった」


「ルナちゃあああん!」


 救援軍は()()()()()()()()による馬車の足止めを受けたりした影響で、到着が遅れてしまった。集落の入り口で必死にレセを始めとした面々が叫ぶが、反応はない。


 辺りを見渡すが、人っ子一人いない。各家屋の確認を手分けして始めた一行であったが、ジム・メガイラ・レセ・ケイル・王子一行は、一番可能性が高いと踏んだあの家屋の確認を担当することになった。


 ギィィ


「ルナちゃ……う゛」


「これは酷い臭いだ。メガイラは応援を呼べ。ここかもしれない」


 頷いてメガイラは家屋から出ていく。マルスはハンカチで鼻を摘みながら辺りを見回しており、何が起きたのかを大体察したようだ。


 奥に続く扉が1つ。異様な雰囲気を醸す扉を前に、ドアノブに手をかけたケイルは震えを止めることが出来なかった。


「はっはっはっ」


 さっ


「一緒に開けましょう」


 落ち着かせるように言ってきたレセの重ねてきた手も、震えていることに気が付いたケイルは、覚悟を決めてドアノブを捻り開けた。


 ガチャ


「……」


 モワッ


 湿り気のある籠った死臭が漂ってきて、鼻を刺激した。中がどうなっているかは容易に想像がつく。


「う…」


 ドサ


 ケイルは目を逸らしかけたが、レセが一点を見つめたまま膝から崩れ落ちたのに気が付いて、その先に視線を移す。


 耳の奥で脈動が感じられて、その瞬間がやけにスローモーションになった。後ろから来たジムが己の視界を塞ぐまでの刹那に見えた光景。


「あ…」


 あの麗しかった少女が脳裏で微笑む。先日の一件で許しを得たばかりだった。共にいた期間は非常に短い。なのにその一瞬一瞬を切り取るように、笑顔の彼女が現れては、目の前の現実を塗りつぶしていく。


「はっ…ははっ…ルナ…」


 ケイルを支えて連れ出したジムに、メガイラが報告をしにやってきた。


「ジム、アルセーヌの家は燃やされていて、それで……何があったんです」


「…撤退準備だ。彼女をあのままには出来んからな」


「…了解した」


 ケイルをマルスらに預けると、レセとセリーナの元へとジムは戻る。


「レセ…」


「嫌っ嘘よ!起きて!ルナちゃん!ねぇ!」


 部屋の最奥でセリーナが座らされていた椅子の前で、遺体を抱きかかえて半狂乱になりながら、揺さぶり起こそうとしているレセの姿があった。閉じたままの瞼は()()()()()、首は脱力してしまっている。椅子に残っていた四肢を必死にくっつけようとしながら叫ぶレセに、ジムはかける言葉がなかった。

 ジムはルナの姿にレセが幼くして亡くなった自身の妹を重ねていたことを知っていた。生きていたら丁度ルナと同年代だっただろう。その妹を投影していたルナを亡くしたのだ。それもこんな無惨な姿で。


「帰ろう。レセ」


「放っといてよ!私はルナちゃんを」


「女の子をそんな姿にしておくつもりか」


「……う゛ぅ…うぁぁあああ」


「…」


 ジムはただ無言で抱きしめることしか出来ない自分自身の無力さに、ルナをこんな目に合わせた犯人にこれまで感じたことのないような怒りに襲われていた。レセはただ放心状態でルナの名前をぶつぶつ呟いて、冷たくなった頬を撫でるだけで、ジムの表情を見ることはなかった。


 救援軍はその目標を達成することなく、帰路につく。その誰もが暗く思い詰めた表情をしていた。






 アルテポレオで葬式を終えてからは各々街を離れていった。レセは精神的ショックから、植物人間状態の様になってしまい、ジムは”緋鬼”として帝国所属の冒険者として復帰、最後に復讐の鬼と化したケイルは、命を軽んじる戦い方によって力を付けていった。

 結果としては、王国のケイルと帝国のジムを筆頭として”教会”の打破には至ったものの、ついに降臨した存在の前に打倒されてしまうのであった。





 END

実はまだ前日まで集落を拠点に、アルセーヌの捜索をしていました。(名目上ですが)


他にもこのような分岐がいくつもありますが、大きい物以外は投稿予定がありません。本編は危ない綱渡りを成功させた結果であると認識していただけると嬉しいです。


拷問描写は流石にアウトだと思うのですが、いずれ気が向いたら投稿するかもです。


次回から第三章開始です。


ブクマと高評価よろしくお願いします。

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