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すれ違い!怪盗美少女!

 不覚にも一瞬ときめいてしまった。それがちょっぴり悔しくてほっぺを膨らませてみる。


「むぅ」


「ルナちゃんが怒った!?」


「別に?怒ってませんが?勘違い勇者様」


 慌てる様子に気が済んだセリーナは、改めてケイルをまじまじと見てみる。最近身長の伸び方が大きくなってきたセリーナよりケイルの方がさらに体の成長が著しいのか、見上げないと目線が合わない。体の厚みも出てきていて、いかにも大人の男性に近づいている感じがした。声変わりをしたのか少し低くなった声もその印象を強めていた。


「それで、答えを聞きたいんだけど…」


「…」


 セリーナはケイルの方を向いたまま、後ろで指を組んで無言で下がり始める。追いかけようとしたケイルだったが、直後に強力な魔力反応を感知して剣に手を添えた。


「ルナちゃん…っ!」


「以前の話はお忘れですか?」


「前見た時より随分と大きい気がするなぁ」


「そうですか?」


 そこらの丘と同じぐらいの大きさはある水球を見て冷や汗をかきながらケイルが聞くと、コテンと首を傾かせてセリーナはとぼけた。

 組んでいた指を解いて右手の人差し指をひょいとケイルに向ける。すると巨大な水球はその大きさからは考えられない初速で一気にケイルに向かって飛んでいった。近くの草木や地面をえぐりながら勢い衰えることなくケイルに迫る。


 ゴオオ


「まじか!けど…俺も伊達に鍛えてきたわけじゃないんだ!」


 そう言うと、ケイルの白銀色の髪が靡きだして、体の周りに光の輪郭に見えるものが生じ始めた。鞘から抜いた剣にもそれが現れる。


「師匠には遠く及ばなくても」


 ギリッ


 力を込めて剣を握りなおして、地面を思いっきり蹴りだした。迫る水球に自分から飛び込んでいき、両手で握りしめた剣を振り下ろす。


「希神流剣術!獅子殺し!」


 ケイルの剣が触れて水球が停止する。勢いの全てをケイルが剣で受け止めたのだ。


「はあああ!」


 荒れ狂う光の刃が水球を飲み込んでいく。切り刻まれて四散した水は雨のように辺りに降り注ぎ、虹を作り出していく。


「…綺麗」


 光を反射しながらキラキラと舞う雫と虹が幻想的な光景を生み出していて、荒れ狂う風をものともせず、セリーナはその光景に見入ってしまっていた。


「これで…終わりだああ!」


 水球の残りが3分の1を切ったところで、再び剣を振り上げてとどめの一撃を放つ。


「獅子殺しいい!!」


 ドカーン


 水球は勢いよく弾け飛んで完全に消滅した。水球を消し去った技は多少衰えたもののそのまま直進していく。


「まずい!」


「え?」


 獅子殺しの行く先にはセリーナがいた。虹に見とれていたのか硬直してしまっている。このままでは直撃してしまう。水球を消滅させたことに喜ぶ間もなく、ケイルはセリーナの元に回り込む。


 ズドン


 砂埃を上げてセリーナの立っていた場所をえぐり取ると爆音と共に技は消滅した。肝心のセリーナはというと、ぎりぎりで走ってきたケイルに助けられて難を逃れていた。


「大丈夫か!ルナ!」


「………」


「ルナ!」


「みゃあっ!だだ大丈夫です!助かりました」


 ケイルにお姫様抱っこで抱きかかえられている自分がどこか他人に思えてぼーっとしていたが、必死なケイルの声掛けにセリーナは我に返って急に恥ずかしくなってきた。抵抗するが中々降ろしてもらえない。


「降ろしてください!もう大丈夫ですから!」


「駄目だ、怪我をしてるかもしれない」


「うぅ」


 珍しく一歩も譲らないケイルに押されてしまったセリーナは、その胸に抱かれたまま大人しくなった。顔が近いとか腕が意外と筋肉あるとか色々あるけど、今は何も考えないように意識する。結局アルテポレオまでそのままで帰ることになった。


「そろそろ人がいるかもしれないので降ろしてください!」


「本当に大丈夫なのか?」


「本当に大丈夫です!」


 協会に着く前に何とか降ろしてもらい、衣服の皺を伸ばしたり整える。恥ずかしさを紛らわして心を落ち着かせる。


「はぁ、本当にびっくりしました」


「…すまない。君を危険な目に合わせた」


「それは大丈夫です。元は私が仕掛けたことですから」


「…そうか」


 急にしおらしくなってしまった勇者の姿が、なんだかいじけた子どものようで可愛らしい。

 はっ!何を考えているんだ!これがいわゆるギャップ萌えなのか!それとも吊り橋効果ってやつ!?

 なんて自身の気持ちをあえて客観視して誤魔化す。


「勇者様」


「…なんだ」


「そんないじけた顔でこれから周りにいられたら困ります」


「…?」


「私が出した条件を勇者様は達成されました」


「それじゃあ……やったぁ!」


「ちょ、ちょっと!」


 喜びのあまりセリーナを抱きしめてくるくる回る。最初は赤面していたセリーナもその勢いで目が回って青くなっていく。それに気が付いたケイルが回るのを止めるが、それからも喜び続けていた。その喜びようにセリーナは驚かされていた。


「本当に良かった!」


「そんなにですか」


「あぁ、だってこれで主との約束を守れる!」


「約束…?」


「そうさ!君の安全を守るって命令を破らずに済むんだ!」


「そう、ですか…。それはよかったです」


「ほんっとうに良かった!ありがとう、ルナちゃん!」


「…はい」


 未だ喜ぶケイルを軽く押して胸元から離れる。不思議そうな顔をするケイルを見て、セリーナはぎこちないながらも笑顔を作ってケイルの手を取った。


「以前は酷いこと言ってしまって申し訳ありませんでした。そうならそうと言ってくれれば良かったのに…」


「すまない。俺が言葉足らずで、それにっ」


 それだけが理由じゃないんだ。そう言いかけたのをセリーナは遮ってしまった。


「気にしてませんから大丈夫です。これからよろしくお願いしますね!」


「あ、あぁよろしく頼む」


「いけない!薬草採り忘れちゃってる!キャンセルしないとだから私もう行きますね!」


「そ、そうなのか。気を付けて…」


 ケイルは走り去るセリーナの背中に社交辞令的な言葉をかけることしか出来なかった。どんどん彼女の背中が遠ざかって小さくなっていく。認められたことは嬉しいことのはずなのに、心にもやもやが残っていることに気が付いたケイルだったが、それを解消することは後回しにしてしまった。


「はぁ、はぁ」


 協会まではそこまでの距離ではない。なのにどうしてか息が上がって呼吸が浅くなっている。そうか、私は傷ついたんだ。彼自身が望んでいたわけじゃなかったことに。ジムさんと修行をしているのをこの1年半見続けてきた。一生懸命修行をやってきたのは全て護衛になるため。それは変わらないのに、何で傷ついているんだろう。

 いつもの冷静なセリーナなら分かるはずだが、今はどうしてか分からない。とにかく勇者が護衛になった、その事実だけでいいじゃないか。そう考えたセリーナは奥底で芽生え始めていた感情に自ら蓋をした。

修行諸々とか1年半のことは幕間で少しだけ出します。



いつもブクマと高評価ありがとうございます。


まだの方も見ていただいてありがとうございます。

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