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変装下手!怪盗美少女!

「はい、あーん」


「あーん」


 モグモグ


「美味しい!」


「まだいっぱいあるからね~」


 セリーナの朝は早い。以前は夜明けと共に自分で起きていたのだが、今はレセに起こされてから顔を拭くってもらい、歯も炭をつけて布でこする。それから居間に行ってもご飯をこうやって一口ずつ入れてもらっている。これはセリーナじゃなくてレセの朝が早いのかもしれない。

 食事等の朝支度を終えたら手を繋いで冒険者協会に向かう。そして緊急時対応の夜勤担当だった職員と交代してレセは受付に入った。


 ドーン


 ドカーン


「はあああ!」


「おらああ!」


 ズドーン


 裏の訓練場から響く振動が協会まで伝わって建物を揺らしていた。天井から少し埃が落ちてくるが、セリーナは気にすることなく依頼を選ぶ。


「ルナちゃんおはよう!」


「おはようございます、勇者様にジムさん」


「おう、おはよう。調子はどうだ」


「元気です!お二方程ではないと思いますが…」


 ついさっきまで聞こえていた爆音は気のせいだったのか、いつの間にかケイルとジムが協会にいた。セリーナの前にやってきた2人は既にボロボロで服も破けていて、後ろの職員たちは呆れた顔で見ていた。


「朝の準備運動が終わったからこれから朝食を食べる所だ。どうだ、一緒に食べるか?」


「えぇ…私これから依頼を」


「いいじゃん!ほらほら!」


 朝ご飯を食べてきたにも関わらず、半ば強引に連れていかれるセリーナ。ただ笑顔で見送るレセや冒険者一同。

 あの騒動から1年半が経ったが、セリーナ達は変わらずアルテポレオでの日常を送っていた。


「もうお腹いっぱい…」


「よしケイル、これから強化状態での組手をやるから準備して来い」


「訓練場また壊れるので外でやってくださいね!」


 満腹で倒れるセリーナをよそに、2人は体が冷えないうちにと早々に修行に行ってしまった。街の外で戦い続ける光景はアルテポレオの名物になっていて、昼から飲んだくれる冒険者の賭けの対象にもなっていた。


「けぷ」


 一方で中々回復しないセリーナは相変わらず倒れていた。レセの影響で美白に一層気遣うようになって、修行の影響もあり引き締まってしなやかさに磨きのかかった身体は、大人をも誘惑する危険な色気を醸し出していた。

 後の話になるが、このよく食べる生活の成果もあってか、セリーナは出るとこは出たメリハリのある身体を手に入れて傾国の美人になる。


「い、行ってきます」


「「行ってらっしゃい!」」


 まだ苦しさは残るものの、何とか立ち上がっていつもの森へと向かう。あれからケイルは一切護衛について口にすることはなかった。セリーナからすると意外ではあったけれど、特に気にするわけでもなく、自分の修行に集中するようになっていた。


「ここらへんでいいかな…」


 1年半の間の成果は上々だった。まずアルセーヌ特製洞窟の試練は制覇出来た。といっても1年3カ月ほどかかり3カ月オーバー。魔法も抑え込みに成功して、セリーナ自身の体感では2級魔法士レベルまでは抑え込められるようになっていた。

 それなら今やっている修行は何なのか。それは怪盗の花形である変装の修行であった。


「ほっ!駄目かぁ」


 容姿や声は完璧にジムになっていた。だが違和感が拭えない。これがセリーナの今の課題だった。その理由は変装のレベルにセリーナ自体が付いていけておらずオーラを消せていなかったからであった。


「むぅ、なんであんなもの渡したのよ師匠~!!」


 セリーナの変装が完璧だったのには理由があって、アルセーヌが渡したあの一冊の本に起因していた。









「なるほどなるほど」


 ペラ


「ふむふむ」


 洞窟の試練を制覇した次の日、セリーナはあの本を木の太い枝の上に寝そべって読んでいた。それまで読まなかったのには特に理由はないけれど、課せられた課題は終えてからにしたいと何となく思っていて読まずにいた。書いている内容は正直言って意味不明。文章自体が現代のクラデス語ではなく、古代クラデス語やそれ以外のよく分からない言語で構成されており、童話が書いてあると思ったら突然人の悪口に変わったりと支離滅裂であった。


「むむむ」


 それなのに不思議な事に自然と読み進められる。読めば読むほど頭の中に何かが刻まれている感覚に襲われていた。しかし怖くは感じなかったセリーナはどんどんページをめくっていった。


「ほうほう…これで最後かな」


 ペラ


 最後のページには一体何が書いてあるんだろう。そう考えながらページをめくると、そこにはでかでかとした文字で一言書いてあった。


 ”ここまで律義に読んだ大馬鹿者め!そんな君にこそグッドラックだ!”


「は?」


 イラっとしたのも束の間、その本が呪具で物を格納するときのように光粒状に拡散して、()()()()()()()に溶け込んでいった。


「え?ええええ!!」


 最初はパニックになって気が付かなかったが、ひとしきり騒いで落ち着くと、セリーナは自分の中で起きている変化に気が付いた。


「変装が…出来るようになってる?」












 そんなことがありつつ現在、変装による違和感を無くすために四苦八苦していたのだ。変装は魔法と同じ感覚で発動出来て、それを解けば変装のためのアイテムは消滅してしまう点を除いて、セリーナには魔法との違いが正直分からなかった。


「そもそも魔法って何なんだろ」


 この世界にいつからあるんだろうか。当たり前に使っているけど、前世の世界にはなかった……はずだし。

 セリーナはその可愛い眉をひそめて腕を組んで唸って考えこむ。


「んんん…」


 興味があることに対して考えることが嫌いではないセリーナは、思案に耽っていた。


 カサッ…


 いつまで考えていたのだろう。近くの草陰から物音と気配を感じたセリーナは、考えるのを止めて音のする方向に高速で水球を飛ばした。


「危ないじゃないか…」


「いつから見ていたんですか?勇者様」


「今来たところなんだけどなぁ」


「前科者は信じられませんよ。覗き見勇者様」


「ぐはっ」


 音の正体は勇者ケイルだった。それにしてもセリーナは驚かされた。ケイルの身体をじっくりと見つめて、ふふっと笑う。

 今しがた勇者がセリーナの水球を切ったように見えた。いや、実際に切ったのだ。ケイルの身体は全く濡れておらず、横の草木が刈り取られていた。それほどの速度で放ったにも関わらず、ケイルは見切った上で切り伏せて見せたのだ。


「ルナちゃん。今日は君に話があって来たんだ」


「…なんでしょうか」


「今度こそ俺に君を守らせてほしい」


 セリーナの目に映る勇者に、かつて小説で夢見た勇者の面影が僅かに見えた。




いつもブクマと高評価ありがとうございます。


まだの方も見ていただいてありがとうございます。

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