発見!第二の転生者!
時は少し遡り、セリーナの受け渡し後のこと。
「あの…私ずっとこのままですか」
「安全が確保されるまで私がお守りします」
「それはありがたいんですけど、ちょっと恥ずかしいといいますか」
「?」
受け渡されてからその鎧姿の紳士に抱きかかえられているのだ。それもお姫様抱っこ。年齢も30過ぎぐらいで、前世の記憶が残っているセリーナには完全にドストライクだ。気恥ずかしさから顔を逸らしていたセリーナだったが、返事が返ってこなかったので茹蛸のように赤くなった顔を両手で隠しながら、指の隙間からチラ見した。
「……ッッ!!」
良い、良いです。
結局紳士の鍛え上げられた逞しい腕の中に納まり、うっとりとした目で見つめ続けていた。
「敵殲滅が確認されました。皆さんは周囲の警戒を怠らずに帰還してください」
今回の作戦に参加していた職員が後方まで歩きながら大声で伝えてきた。
「なーんだ大したことなかったな!」
「帰ったら酒飲もうぜ!」
冒険者は陽気に語らいながら撤収を始めた。セリーナも頃合いを見て地面にやさしく降ろされた。
「あっ…」
「もう大丈夫です。迎えが来るまではここで待っていましょう」
名残惜しさがありながらもその紳士の隣に寄り添う形でジムとレセを待つことにした。
待つ間護衛の足元にぴったりとくっついているセリーナの姿を穴が開くほど見てくる金髪の少年の姿が目に入り、何か用があるのかと声をかけた。
「…どうかしましたか?」
「セ、セリーナ・アンテイア…?」
「!?」
「お前がなんでここに…」
左手を口にあてて、震える右手でこちらを指差しながら確かにセリーナと言った。アルセーヌ以外に久しく言われていなかった名前に脳が停止した。
「お知り合いなのですか?」
「ありえない。だって悪役令嬢が出てくるのは学園ステージのはずだ!」
あらら、この金髪なんかすごいメタいこと言ってないか?と感じたセリーナは、森での生活で培った野生の感を遺憾なく発揮して、状況が不味い方向に向かっているという事を察した。
かくなる上は
「セリーナ?私はルナですよ。人違いじゃないですか?」
セリーナは他人の空似作戦を選択した。
「そんなはずはない!僕がどれだけゲームやりこんだと思ってるんだ!間違えるはずないだろ!」
あーあ、確定してしまった。異世界に来ての第一転生者発見。いや、自分を含めたら2人目の転生者か。
「主様?」
先程からスルーされていた護衛が興奮状態のマルスを落ち着かせるように声をかけた。
「あぁ、すまない。気にするな。少し取り乱してしまったみたいだ」
そうは言ったものの、今度は良く分からない独り言を始めてしまった。
「記憶がないのか?それともバグ?いや、バタフライエフェクトの線もありえるが…」
完全に疑われてしまっている。というより転生者云々はまだいいが、自身がセリーナであることがばれてしまったら、今度こそ命を奪われてしまうかもしれないという不安が押し寄せてきていた。大怪盗になる夢が潰えるのはごめんだ。
「ルナちゃーん!」
「レセさん!」
微妙な空気が流れていたら戦いを終えたジムさんとメガイラ、レセさんやケイルら前線部隊がこちらにやってきた。
「良かった~」
「あぁ、ルナが無事に助かって安心した」
「ギリギリだったがな」
セリーナはレセに抱きかかえられて、胸の隙間からジムとその隣にいる見知らぬ軍服の人物を見た。ジム達といるということは味方なのだろう。
「貴女は誰ですか?」
「私は君を助けに来た者だ」
「助けに?」
「そうだ。詳しい話は街に戻ってからにしよう」
話を早めに切り上げて、メガイラ率いる軍服と共にジム達もアルテポレオに向けて歩き始めた。すると
「待て、セリーナ!まだ話は終わってない!」
マルスが大声でセリーナのことを引き留めた。セリーナという名前に心当たりがない冒険者組はスルーしたが、反応を示したのはセリーナと軍服の部隊の2者であった。
「セリーナだと?確かにそう言ったか少年」
メガイラがマルスに詰め寄るが、護衛とケイルがそれを遮った。なおもメガイラは間から見える金髪の少年に問い詰めた。
「何故青薔薇のことを知っている。貴様何者だ」
「主に向かって無礼な!」
背後に控えていた軍服と護衛がそれぞれ前に飛び出し一触即発の空気が流れたが、護衛の前にマルスが出てきたことで場は一変した。
「いいでしょう。もう隠したところで意味はないので…ですが名を訪ねるのであれば先に名乗るのが礼儀じゃないですか?」
「…私の名はメガイラだ。して、改めて問おう。貴様の名前は何だ」
空にかかる雲は一層厚くなり、一同の間を強風が吹き抜けていく。しばしの沈黙の後、少年マルスはその正体を明かした。
「僕の名前はマルス。勇者ケイルの主にしてピテール王国の第三王子だ」
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