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人違い!ポンコツ勇者!

 セリーナが遺物を回収している頃、アルテポレオではより厄介なことが起きていた。


「ここにいるのか。ケイル、本当だろうな」


「はい、主の探している方は()()かと」


「ん?彼女?………。まあいいか。入るとしよう」


 セリーナが集落に帰った翌日、勇者ケイルは彼の主と護衛数人と共に協会を訪れていた。


「頼もう!」


「なんだまた来たのかクソガキ。作業終わったらまた鍛えてやるからそこでジュースでも飲んで待っとけ」


「わーい!…じゃなーい!今日は俺の主を連れてきてやったぞ!」


「そうかそうか。もうちょっと待ってろ」


 元気よく訪ねてきた少年に構うこともせず、黙々と作業を続けるジム。完全に扱いを理解したのだろう。


「ちぇっ主、あっちで待ってましょ」


 職員に手渡されたミックスジュースを飲んで和んでいると、作業が終わったのか目頭をぐりぐりと押しながらジムが勇者一行の所にやってきた。


「んで、主ってのはこの御仁か?相当な手慣れとみた」


 ジムの正面に立つ鎧を身に着けた護衛に向かって言う。すると、その護衛を押しのけて白銀髪の少年よりも一回り小さい少年が顔を表した。


「僕が彼の主のマルスです」


 金髪の少年はジムに丁寧にお辞儀をしながら名を名乗った。勇者に負けず劣らずの中世的な美形と髪質で、頭の動きに合わせてサラサラとボブカットの髪が靡いた。


「これは悪いことした。俺の名前はジムだ。よろしく頼む」


 それに対してジムも名乗って握手を交わした。友好そうな雰囲気を感じたケイルはたじろいだ。


「俺の時と扱いが全然違う!?」


「礼儀を弁えないガキと違うのは当たり前だろ」


「ぐはっ!」


「それで、如何様で今日はここに来たんだ」


「実は人探しをしてまして…」


「あぁ、このガキが言っていたやつか」


 ノックアウトしている勇者を横目に会話を続ける。馴染みの光景であるからか、誰も気にしていなかった。


「はい。その探していた人物を見つけたと彼が言っていたのでここに」


「なるほど。で、その人物ってのは誰のことだ?」


「ルナちゃんだよ!ルナちゃん!」


 ついさっきまで床に這いつくばっていたはずの勇者が話に意気揚々と話しに割り込んだ。生娘に興味を示すお偉いさんという図が頭の中で描かれたジムは警戒心を持つが、一方のマルスも怪訝そうな顔で勇者のことを見ていた。


「あの嬢ちゃんを探していたと?」


「やっぱり女性なんですね…どういうことだ?ケイル」


「え?だってほら、なんか強くなれる”スキル”ってやつを特別な人からもらえるって仰ってたので」


「僕が探しているのはアルセーヌだ。特別そうな人なら誰でもいいわけじゃないんだよ」


 困惑を顔に浮かべて諭すようにケイルに言って聞かすのを見て、ジムは大体察した。


「まあなんだ。わざわざこいつを派遣している辺り、探し人がここいらにいるって目星はついているんだろ」


「…はい。その通りです」


「ならこの街の宿を紹介するからそこに滞在するといい」


「お気遣い感謝します」


 こうしてアルテポレオに新たな滞在人が増えたのであった。そして翌日、さらなる来訪者がやってくる。








 カツンカツンカツン


 石畳を踏み鳴らす音が周囲に鳴り響く。その音を聞いて街の人々が振り返るが、彼らは意に介さない。何の騒ぎかと後ろを追ってきた住人を率いての大行進は冒険者協会まで続いた。

 協会前の広場まで来ると、最前列で歩いていた1人を除いて横並び一列で待機姿勢をと。その1人が一定のリズムで足音を刻んで協会に足を踏み入れた。


 カツン


 その普段見ることのない軍服姿にマントという異様ないでたちに、冒険者からの視線も自然と集中する。受付に向かう人物から発せられる圧によって列をなしていた冒険者も離れることで、冒険者と軍服の人物との間に空間が生まれた。

 受付の目の前に来た軍服の人物に、受付の男性は平静を装い言葉をかける。


「ようこそ冒険者協会へ。本日はどのような御用でしょうか」


「ここの責任者…ジムはどこにいる。話がある」


「少々お待ちください。今お呼びします」


 ほどなくして軽く額に汗をかいて肩に大剣をかついだジムと、全身から熱気を発してぐっしょりと濡れ、剣を杖代わりにした勇者ケイルが協会裏側に併設されている訓練場から現れた。


「誰かと思えばメガイラだったか。要件は何だ」


 職員から受け取ったタオルで太陽光を乱反射する頭の雫を拭き取りながら、軍服の人物に歩み寄る。ジムの旧知の人物らしいということで、協会内に走っていた緊張は一気にほぐれて各々普段の生活に戻っていった。


「2人だけで話がしたい」


「…それなら奥で話そう。クソガキ!今日はこれでしまいだ。また後日にしてくれ」


「今度こそ一太刀入れられそうだったのに!覚えてやがれ!」


 ケイルはメガイラを一瞥してからキッとジムを睨み付けて協会を後にした。剣を杖にして去る後ろ姿は悔しさを滲ませながらも、どこか嬉しさを感じさせるものだった。


「相変わらず子どもが好きなんですね…」


「なんか言ったか?」


「何でもない、気にするな。それよりも早く用を済ませたい。案内を頼む」


 メガイラの呟きはジムに聞こえることはなく、ケイルを見送った2人は協会の奥にある応接間に消えていった。

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