証拠隠滅!怪盗美少女!
「やっぱりここには来てないか…」
裏山まで走ったセリーナは、そこからさらに2つ山を越えた所にある地下の拠点を訪れていた。この場所の存在こそが月に1回の頻度でわざわざ帰っていた理由でもあった。
湿度や環境が一定に保たれている地下拠点には、数多くの石版や歴史書が保管されていた。訪れたのが1カ月前であったこともあってか、地面に足が付く度に僅かに塵埃が舞う。後ろを振り返ると可愛い足跡が残っていた。痕跡が残るのは後々面倒なことになりそうだし、ここは壊しておく必要がありそうだ。
今は非常事態だし師匠も許してくれるだろうと思いながら、近くにあった歴史書の1つに右手で触れた。
シュン
すると歴史書は光粒状に拡散してから、吸い込まれるようにセリーナの中指にはまっている指輪の中に格納された。
「次はこの石版」
次から次へと格納しながら、セリーナは初めてここを訪れた時のことを思い出していた。
「セリーナよ。今からお主に見せるものについてじゃが、見る前に絶対に守らねばならないルールについて教えておくからのう」
その1.ここで見たものについての一切を他言してはならない。
その2.ここで得た知識と自己を乖離しなさい。悪用厳禁。
その3.その存在に近づくことは勿論、決して触れてはいけない。
特に最後は絶対に守りなさいと口酸っぱく言われた記憶があった。1と2は自分や周りを守るためのものだけれど、3についてだけは違うと言っていた。
表に出ているものは全て格納したセリーナは汗を拭った。格納するだけとは言ってもその量は莫大で、学校図書館と同程度にはあったので、全て触れ終えるまでに8時間以上かかってしまった。
「ふぅ…ちょっと休憩しよう」
魔力で身体強化をしているとはいえ、翌日に響きそうな予感がした。まだ7歳と少しなのにこういうところだけは前世に引っ張られる。
一息ついてから本丸に取り掛かることを決めた。地下拠点の一角、保管室から離れたその場所は半地下になっていて風通しの良い場所だった。そこで休憩していたのだが、その際にセリーナが腰掛けていた置き石をずらす。すると、一見地下水が染み出して出来た水溜りが現れた。その実水中を覗き込むと、中は細かい道が幾重にも枝分かれしている水中洞窟だった。
「あいにく着替えは持ってないんだよぉ。とほほ(泣)」
そう言うと身に着けていた布を滑らせて、その色白で傷1つない無垢な肌を露わにした。服は石版や歴史書同様に指輪の中に格納する。
「ふぅー…すっ」
ジャポン
躊躇なく飛び込むと、進む穴を間違えないように注意しながら泳ぎ始めた。時間にして1分程であろうか。
「ぷはっ」
ピチャピチャ
先にある空洞にたどり着くと、そのまま直線で続く洞窟の奥へと進んでいく。
ボッ
ボッ
本来暗い洞窟の足元には古い魔法灯が設置されていて、セリーナが進むのに合わせて灯って通路の壁に描かれている壁画を照らし出した。この壁画自体も非常に貴重なものではあるが、所詮は人類が紡いできた歴史程度しか描かれていない。この世界の理には触れてすらいない。つまりは最奥にあるものは触れているわけであるが。
「着いた。これはまた…何度見ても凄い」
表にある歴史書の類は大方は古代遺跡の宝についての内容であるが、それはカモフラージュだ。本丸はここにある壁画にまつわる情報だった。全体の1割にも満たない史料ではあるものの、決して少ないわけではない。世界中から集めてもそれしか残っていないのだ。
最奥の壁いっぱい、縦20m横はその倍の40mほど描かれた壁画を、一切傷付けずに格納しなければならない。
「側面は壁床天井に沿うように」
ザン
「よし!あとは奥1mに水刃を出現させるイメージで…ふん!」
ドン!ミシミシ…ゴゴゴゴ
「あ!危ない!」
奥に発生させた水刃の勢いがありすぎたのか太すぎたのか、綺麗に切り取られた壁画はそのまま壁画の面を下にして倒れてきた。咄嗟に倒れてくる場所に移動したセリーナは、上から落ちてくる壁画に向かって右手を伸ばす。
パン
手が触れた。瞬間
キーン
周りの時が止まった錯覚。
浮遊している。
私は今どこにいるの?
あれは…私がいた世界。いや違う。
あんなものはなかったこれは…未来?でもおかしい。これは
「はっ」
気が付くと洞窟で倒れていた。まだ身体が濡れているから、それほど時間は経っていないとセリーナは予測した。右手にはまっている指輪に手を伸ばして撫でる。どうにか上手く格納出来たみたいだ。
「疲れたから早く帰ろっと」
最奥の間からスキップで出たセリーナは思い出したように振り返る。
「そうだった!ここ塞がないとじゃん!」
洞窟を埋め立てて拠点も跡形もなく証拠を無くしたセリーナは、アルテポレオへの帰路についたのだった。
Q、何故格納出来るのに最初からしなかったのか
A、もってきても危険すぎて研究できる場所がなかったから
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