再起!怪盗美少女!
「なんかどうでもよくなっちゃったな。」
勇者が去った家で独りぼっち(正確には妖精はいるが)のセリーナは、さっきまで沈んでいた気持ちが消化はされないものの、少しだけ軽くなっていることに気が付いていた。
「んん~!」
両掌を組み、大きく伸びをする。久しぶりに動いたからか、節々からバキバキと可憐な少女らしからぬ音が聞こえてくる。
「よし、まずはご飯を食べよう」
ギトギトする髪の毛も気になるけれども、それよりも食べ物を口にすることを優先した。立ち上がってから分かったのだが、3日近く水すら口にしていなかったので、セリーナの身体は極限状態に陥っていた。ふらつくのを堪えて井戸水を汲みに行く。
「ふんっ!はぁ…」
思い返せばセリーナが最後に井戸で水を汲んだのはいつだろうか。力仕事はしなくていいと水浴びの際も基本的に先に汲んでくれていた。
「私がしっかりしないと」
桶に半分程入った水がロープを引っ張るたびに揺れてこぼれそうになるので、慎重に上げる。そして、なんとか汲み終えた水を飲み干してから家の中に戻ってキッチンを漁る。異様に硬いパンを何個か見つけて、口に含んでみる。しかし、やはり石のように固いので口の中でふやかしながら少しずつ食べすすめる。パンを咥えながら他にも何かないかと探してみると、蓋をされた大きな陶器を見つけた。開けてみると、そこには大量の水が保管されていた。
「私、本当に何も…」
ぽたぽたと零れる雫がパンに落ちてふやかしていく。しばらくしてから、はっとして顔を拭う。
「落ち込んでいられない。この世界で自由に生きていくって決めたんだから」
そう言って残りのパンを口の中に押し込む。ほんのりと口の中で広がる塩味を感じながら再び井戸に行って身体を拭った。まだ寝るのには早いので、そこからは布団のシーツ代わりの布を変えたり、部屋の中を掃除したりして過ごした。
翌朝
「いってきます」
今日からは心機一転頑張ろうという気合を入れて出発した。
「おはようございます!」
「ルナちゃんじゃないか!おはようさん。ほら、これ持っていきな」
「ありがとうございます!」
いつものように商店街の人々に挨拶をして協会を目指す。朝ご飯を食べていなかったので、貰ったリンゴに似た果実を齧る。可食部位を食べ終える頃にはゴシック様式の協会前に着いていた。深呼吸をしてから足を踏み入れた。
「おはようございます!」
「「おはよう!」」
「久しぶりだなぁルナちゃん。もう大丈夫なのか?」
「はい!もう大丈夫です!」
ジムさんに声をかけられて元気に答える。数日ぶりということもあってその間のことを聞いていると、協会側の奥から凄い音が聞こえてきた。
ドカーン
「ルナちゃあああああん!」
「レセさん?うわあ!」
音の正体はキュン姉であった。すごい勢いで抱き着かれてその豊満な胸に顔を沈み込む。
「むぅ、苦しいよう」
「ほんっとうに心配したんだから!あのクソガキにはしっかり言っておいたから安心していいからね!」
「ありがとうございます」
キュン姉がきつく言った結果が訪問に繋がったのではとセリーナは考えた。実際は自発的なものであったのだが。
この日は本来であれば集落に戻っている日だが、アルセーヌがいなくなった今わざわざその習慣に縛られることもないだろうと、数日動かなかったリハビリも兼ねてトレーニングに勤しむことにしたのだ。いつものように薬草採取の依頼を受けて、元気よく森へと出発した。
この判断がセリーナの運命を大きく左右することになる。
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