修行!怪盗美少女!~お勉強編~
「ぐえぇ…」
「こら!次はこの王国貴族のアンダーソン伯爵家の歴史書をやった後に、王国式テーブルマナーをやるんじゃ!こんなことでへばってるんじゃない!」
セリーナが無数の書物が積まれた机の上で伸びている。その様子に喝を入れているのがアルセーヌである。修行が始まって早1年と少し、その内容はセリーナの想像していた怪盗の修行よりも違うベクトルで苦しいものであった。
「師匠~ちょっと気分転換で外の空気吸ってきていい?」
「5分だけじゃからな。それで戻らんかったら」
「はいはい、勉強1時間追加ねー。分かってる分かってる」
適当に聞き流しながら勉強部屋から出て外へと向かう。
「ん~!疲れたぁ」
深く息を吸い込むと新鮮な空気が肺から入って、血液を伝って全身に回る。自然に囲まれた景観を見ながら気が付けばこれまでの1年間のことを思い出していた。
師弟関係が結ばれた直後の事
「それで、修行って次はどんなお宝を狙うの?古代の財宝?それとも超巨大な宝石?」
「お主にはまず」
「う、うん」
ゴクリ
「勉強をやってもらおうかの」
「え」
「文句でもあるのかのう?」
「あの、そういうことじゃ」
「あ、言い忘れておったが修業期間はワシの言うことは絶対じゃ。守れなかったら厳しい罰があるからの、くれぐれも注意するんじゃ」
「えー!だ、だって怪盗の修行だよ!?もっとこう盗まなくても体を動かすとかじゃないの?」
「まずは勉強じゃ。それが完璧になるまでは外での運動も自由時間だけにするからのう」
アルセーヌの言葉に衝撃を受けたセリーナは、膝から崩れ落ちた。
そこからセリーナにとって地獄ともいえる日々が始まった。勉強といっても、共通言語であるクラデス語や算数、歴史や帝王学といった座学と、貴族の作法やダンスであったり、市民間のフランクなやり取りを含めた言葉遣いや歩き方といった多少体を動かす勉強があった。
その中でも特徴的だったのは魔法学という科目で、まだ勉強したことはないけど前世で言う理科の代わりっぽい学問じゃないかとのセリーナ談。魔法があることで科学が発達しなかったので、数学に関しても算数レベルのものであった。
「出来た!1回きゅうけ」
「よくできたのう。そしたらこっちはどうかのう」
簡単だからといって許されるものではなく、こんな様子で1つ問題が終わればまた次の問題が際限なく湧いてくる状況が勉強時間の間は延々と続く。
1日の内勉強が8時間を占めており、自由時間が3時間あれど前世から勉強嫌いなセリーナにとっては地獄そのものであり、現在も続いていた。
「はぁ…そろそろ戻らないと」
セリーナは肩を落としてとぼとぼと家に戻っていくのであった。
「ギリギリ戻ってきたのう。そしたら王国貴族の勉強を始めるのじゃ」
部屋に戻ると積まれていた書物は本棚に戻されていて、新たに一冊の本と紙とペンが置かれていた。
「言い忘れておったが、あと少しで王国関係については終わるからのう。そしたら公国の歴史と貴族周り、市民の服装諸々を始めるんじゃ」
「…うん」
セリーナは俯いて小さく返事をするだけだった。それでもアルセーヌは続けて言った。
「公国は先にやった帝国と王国の半分ぐらいの量じゃからな。それが終われば歴史に関しては終了じゃ」
「うん」
「そしたら次はいよいよ実践に移っていくからの」
「…ほんと?」
「本当じゃよ」
「信じられない!やったー!」
「お主は身体能力だけじゃなく、吸収力も尋常じゃないようじゃのう…。正直ワシの方が信じられんわ」
算数については元のことがあるにしても、この1年の間で700年分に及ぶ歴史について2か国分を学びきろうとしている。また各国の貴族の家系から果てはスラムに近いレベルの市民の間での文化や独特の話し方についてまでインプットしていた。つまり現時点の世界の大部分を占める大国2か国についての知識を1年で吸収したのだ。
作法やダンスについては以外にもこの勉学より早く身につけていた。野生児であった背景からアルセーヌは多少覚悟していたが、1つ1つの動作を見て模倣するという観察眼と身体能力の高さを見せて3か月後には大陸主要国の作法をマスターしていたのだ。
ポテンシャルの一言では済まされない程のナニカを今回も感じたアルセーヌは、驚きながらも決意を新たにするのだった。
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