強敵エンカウント!怪盗美少女!
前回の話のセリーナ視点です。
少し時を遡り、アルセーヌの指示でセリーナは首飾りに向けて走り出していた。
「私が盗れってことでいいんだよね、アルセーヌ」
階段を駆け上がるが、徐々に石階段できつくなっていく。部屋前にも兵がいることは確実だからと、途中で窓から外に出てよじ登ることで上を目指した。
「身体操術:木登り~」
セリーナの使う魔法による身体強化は、基本的に森の動物たちがしていることに則したことしか現時点では出来ない。木ではないが垂直な塔の僅かな窪みに手足をかけて登っていく。
「やっぱり警備兵が見張ってる…」
窓からバレないように覗き見ると、警備兵が入り口を見張っていた。セリーナは気にせず天井裏に直接侵入することにして、屋根まで一気によじ登る。
「なるほどねぇ、これは難しいかも」
予想していたことではあったが、屋根には窓はなく強化魔法によって並大抵の攻撃じゃ傷1つ付けられない程に硬化していた。
「ふん!っっいったあああい!」
試しに殴ってみるが、こちらの拳が痛いだけで効果はなかった。涙目のセリーナは拳にフーフーと息を吹きかけながらプランBに出ることにした。
「おりゃあ!」
「ぐはっ…」
「なにや…つ……」
バタッ
プランB。それすなわち単純明快な暴力である。セリーナからすればぶっつけ本番もいい所なわけで、屋根側から侵入できないのなら正面突破しかありえないのだ。
ギギギ
少し古く建付けの悪い木製の扉を開ける。6階からここまでが地上から6階までと同等かそれ以上の高さであるから、やはり普段使いはしていないのだろう。
「失礼しまーす…」
遠慮がちにセリーナが入ると、中は一般的な家庭の一部屋と大差ない大きさで、少し埃が積もっている箇所もあった。
セリーナが部屋に足を踏み入れたその瞬間
(危ないの~!)
(危ないよ!)
潜入以来隠れていた妖精ちゃん達が突然セリーナに警告をしてきた。
バッ
「あの老怪盗ではないのか」
「え」
私は突然フードをめくられて顔をグイッと寄せられた。こちらを見てくる顔はフードを深く被っているせいで全く見えない。野生の感が強いはずの私が、この人物がいつからいたのか全く気が付かなかった。全身黒いローブに包まれており、姿を確認できない。それに顎を掴まれて動かせない。
だがそんなことよりももっと不味いことがある。
髪と顔を見られたのだ。
「っく!」
パーン!!
咄嗟に身体強化を使って手を払うと、フードを深く被りなおす。不味い不味い、正体がバレるかもしれない。そうじゃなくても泥棒としてあるまじき失態だ。黒ローブの人物を消すことも頭をよぎったが、無理だ。倒せるビジョンが見えないし、本能レベルで警鐘がなっている。
セリーナが警戒しているのに対して、当の本人は弾かれた手をじっと見つめていた。
「なるほど…奴も考えたな」
(時間がない、一か八かやるしか)
「行くがいい。若き才能よ」
「…!いいの…?」
何を言われたのか一瞬理解できなかったセリーナは頭をフル回転させて言葉を紡ぐ。
「私に与えられた仕事は”アルセーヌから首飾りを守ること”。それ以外については契約外だ」
互いに正対して数秒の沈黙が場を支配した。圧倒的なプレッシャーを感じて冷汗が止まらない。
「…後からやっぱりとか駄目だからね?」
「二言はない」
「…ありがとう」
屋根裏にジャンプで木製の天井を蹴って跳び上がる。埃じょ充満した部屋の中で探していると、いかにも最近置いたと分かる宝箱を見つけた。宝箱を開けると真ん中に巨大な深緑色の宝石が埋め込まれた美しい首飾りが入っていた。
「これが探し求めていた首飾り…」
ゴクリ
慎重に取り出してマントの中にしまう。先ほどの部屋に戻ると、既にあのローブの人物はいなくなっていた。
「とにかく戻らないと」
こうしてピンチはあったものの、無事に首飾りを盗み出すことに成功した。そしてアルセーヌ達の元へ急いで戻ると未だに会話をしている最中であった。
(ええ!アルセーヌ引退するつもりなの!?)
(継承って私に?)
そこからは前回の通り。
2人の会話を聞いていて、あのアルセーヌがという思いも幼き頃の憧れを思い出す一因であったのはここだけの話である。
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