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問答!怪盗紳士!

「1階にはないか…」


 相変わらず警備の数が多いので、後ろに張り付きながら移動を繰り返してしらみつぶしに探していく。応接間から階段下、調理場や玉座の間までだ。


「どこにあるんだろう」


 アルセーヌは首飾りが保管されている可能性の高い上層階から見ていく手筈になっていたが、まだ合図がないから見つからないのだろう。2階も探してみるが、相変わらず見つからずに焦りだけが募っていく。あまり時間をかけるのはそれだけ見つかるリスクも高くなるし避けたいところだ。既に潜入してから30分近くが経過している。屋敷が広いのもあるが、このままでは全て調べ終える頃には脱出する時間まで含めると夜明けに間に合わない。

 その時、合図である鳥笛がどこからか鳴り響いた。信号によって首飾りがあるのは、本館6階の東側の部屋ということが分かったセリーナは、監視の目を気にしながら背後を取って6階へと向かった。


「ここら辺の部屋のはず」


 6階に到着したセリーナは下の階に比べて護衛の数が少ないことに違和感を抱きながらも、付近に隠れているはずのアルセーヌの姿を探す。だが辺りに姿はなく、代わりに1つの部屋の中から何やら話し声が聞こえてきた。


「何だろう」


 ばれないように隣の部屋から壁越しに耳を澄ませて会話の盗み聞きをセリーナは試みた。


「…な!あ…は代々………秘宝……だ!」


「……のう。ワシ……だ……せを……た…じゃ」


 何やら言い争う声が聞こえてくるが、その片方はアルセーヌのようだ。扉の前に移動して音がしないように開けて隙間から覗き見る。その部屋ではアルセーヌが奥にいて、いかにも貴族といった装飾品を身に纏った中年の男が扉側からアルセーヌを見る形で相対していた。恐らくは公爵だろう。


「…どして金でもとる気か?私の前に姿を現すとは、この私を愚弄するかコソ泥風情が!」


「さっきから言っておろうに。ワシはただ過去の清算をしに来たにすぎんのじゃよ」


(あれは公爵…?おじさんはなんでわざわざ姿まで見せて話してるんだろ)


 セリーナに気が付いたのか、アルセーヌが一瞥すると思いついたかのように言葉を続けた。


「ワシは今更あの首飾りには興味がないんじゃ、一回失敗しておるし。それにこの歳だと階段がきつくてのう、最上階の更に上の屋根裏部屋まで取りに行く体力はないわい。無理はしたくないんじゃよ」


 そう言うと公爵は一度目を見開いてから、悔しそうに顔を歪めた。一方アルセーヌの意図を理解したセリーナはすぐさま行動を開始した。


「多少は名の知れたコソ泥なだけはあるといったところか。だが、舐めた真似をしたのが運の尽きよ。今頃異変に気が付いた警備兵がこちらに向かって来ているはずだ」


「そうじゃのう…確かに無理じゃ。だから来るまでの間に軽い世間話に付き合ってくれんかのう」


「無駄な足掻きを。だが良い、最期の願いを聞き入れるのも貴族としての寛容さゆえ」


「いやはや、貴族というのは随分高尚な生き物の様じゃな」


「はよ申してみよ」


 先程まで激高していたのが落ち着いたのか、部屋の最奥にある派手な装飾のついた椅子にどっかりと座り込んでアルセーヌに話を促した。


「老いというのは恐ろしいものだと最近実感しておってのう、自慢ではないがワシはこれまで盗みで失敗なんて殆どしてこなかったんじゃ。それも依頼者がいる仕事に限ればただの一度としてじゃ。だが、3年前から狂い始めてしまった。ある貴族に依頼された重要な仕事に失敗してしまったんじゃよ。依頼主はそれはもう怒っておったが、まだ1回の失敗と仕事への影響はそこまでなかったんじゃ。しかし大きな依頼が来なくなったんじゃ。そしてある日数年ぶりに久しぶりに大きな仕事が舞い込んでのう、見事に失敗してしまったんじゃよ」


「ふん、結局は自分語りか。聞いて損したわ」


 公爵は警備を呼ぶために声を上げようとしたが、アルセーヌは宥めるように話を続けた。


「まあまあ、ここからじゃよ話の味噌は」


「…」


「裏社会で大きな仕事を2回も連続で失敗した者の末路は分かるじゃろう、死あるのみじゃ。じゃから何としても成功させようと再びこの地に戻ろうとしたんじゃよ。同時に限界を痛感してのう、この仕事を終えたらもう引退しようとも決めたんじゃ。しかしのう、主らに追われた時に傷を負って逃げこんだ先で運命の出会いをしたんじゃよ。ワシを越えて…いや、この世界で最も偉大な怪盗になれる才能の原石に」


「…何が言いたい?」


 公爵は怪訝そうな目でアルセーヌを見つめるが、当の本人は既に公爵を眼中に入れていなかった。その()()()()()()に向けて語り掛けるように話し続けた。


「人の生というのは短いからのう、1人の人間に成し遂げられることには限界があるんじゃよ。その成したこともいずれ時間と共に忘れ去られる。しかしのう、技術や志というのは次の世代に継承されることでより鍛錬して高い次元に引き上げることが出来るんじゃ。老いに勝てなくなってきた今、ワシらはどうやって継承をしていくべきか、貴族様の意見を聞いてみたくなったんじゃよ」


「くだらん。後継は亡くなった後に私が成したことから学べばよいのだ。もう良いわ」


 そう言うと、執務机についているボタンを押した。


「最初から隣の部屋に兵士を待機させていたのだよ。卑怯とは言うまい。悪く思うな……ん?」


 警備兵が出てこないことに気が付いた公爵は何回もボタンを押して首をかしげる。


(隣の部屋にいた警備兵、盗み聞きの時に倒しちゃった…)


 そう、盗み聞きをするために隣の部屋に忍び込んだセリーナは、ばったり鉢合わせてしまったので仕方がなく全員気絶させたのだった。そんなことは露知らない公爵が躍起になってボタンを押している間に、アルセーヌは窓に向かって勢い良く走り出した。


 パリン


「なっ!」


 そして、そのまま窓を突き破って外へと脱出した。驚く公爵の方を振り返ると、公爵の回答に対する自分の回答を返した。


「ワシは実践の中で学ぶのが良いと思ったんじゃ。可愛い子には旅をさせよというしのう」


「まさか首飾りは!」


()()()無理と言ったじゃろう。()()()


 アルセーヌの言葉を聞いたセリーナはおもむろにマントの中から首飾りを取り出して公爵に見せつけた。それを見た公爵は顔を真っ赤にして騒ぎ始めた。


「泥棒だ!早く首飾りを取り返せー!」


「鬼ごっこの始まりじゃあ!」


 いきなり上司である公爵の叫び声で指示が聞こえてきた警備兵たちは、そもそも侵入されたことにも気が付いていなかったからか、現場は混乱を極めた。ようやく怪盗2人の姿を視界に捉えた時には、既にハンググライダーで公爵城から飛び立っており、見送ることしか出来なかった。


「やっほー!大成功ー!」


「はっはっは、よくやったセリーナよ!本当に最高じゃあ!」


 公爵領の町並みを下に見ながら、2人は爽快感から思いっきり叫んだ。


「セリーナもあの顔を見たじゃろう?真っ赤っかで失神しそうだったじゃろ!」


 そう言うアルセーヌは子どものような笑みを浮かべて笑い続けていた。





 そうだった、思い出したよ。私は()()になりたかったんだ。


 幼い頃本の虫だった私は小説を読み漁っていた。冒険ものから恋愛小説、探偵ものからサスペンスまで。その中で私が憧れたのはアルセーヌ、貴方だった。私は貴方のような冒険やワクワクに溢れた生き方をしてみたかったんだ。でも、現実的ではないって勝手に決めつけて諦めて、やりたくない仕事をしていた。


 だから私は


「私決めたー!」


「何を決めたんじゃ?」


「私、怪盗になる!」


 ハンググライダーのバランスが崩れて落ちそうになる。上を見ると、アルセーヌが驚いた顔をしていた。


「公爵には勢いで言ってしもうたが、本当に怪盗になるのか?」


 半信半疑な様子のアルセーヌを見てセリーナは頬を膨らます。


「なるっていったらなる!世界一の怪盗になってアルセーヌを超えるんだー!!」


「は、はは!そうか!ならワシも負けないように頑張らんとな!」


「ふふっ、ははは!」


 夜が明け始めて、太陽が照らし始めた空に2人の笑い声が永遠と響き渡っていた。


次回にセリーナサイド書きます。


ブクマと高評価よろしくお願いします。

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