お買い物!怪盗美少女!
本日2話目
ガラガラガラ、ガタン
馬車が段差を超えた衝撃で目が覚めた。周りを見ると慣れているのか、おじさん含めて皆目を閉じて寝ている。その様子を見て、セリーナもまた深い眠りにつくのだった。乗合馬車に揺られて公国まであと少しである。
少し遡って、馬車を奪ったあとに戻る。
盗んだ馬車に揺られて2日程で、小規模な町に差し掛かった。町に入る前に馬車の中にあったフードの付いたマントを羽織らされた。おじさん曰く
「セリーナよ、お主の髪は良くも悪くも目立つ。隠しておくに越したことはない」
だそうだ。
セリーナがしっかりとフードを被ったのを確認してから町に入ると、そこには強奪された馬車を所有していた商家の人間がいた。アルセーヌはその商人に交渉を持ちかけて、載せていた製品含めて馬車丸ごとを価格の半分の値で買い取ってもらった。
「盗んだものを持ち主に売りつけるなんておじさんも中々の悪だね~」
おじさんが交渉を終えて戻ってきたタイミングでちゃかしたところ
「本来返ってこなくて新しく揃えるはずだったものが半額で手に入るんじゃ。ほら、相手も喜んでおるじゃろうに」
と言われてしまった。確かに喜んでいるけど、世の中そんなものなのか。マントは可愛いからそのままくれるそうだ。ラッキー。
まあ、結局は足が出来た途端になくなってしまった訳だけど、商家の人が公国へ向かう乗合馬車が出ている町まで輸送ついでに送って行ってくれるとのことだ。
馬車を手に入れた時から、元々公国に入る際には乗合馬車で行く予定だったからありがたい。なんせおじさんは1回仕事を失敗しているから顔が割れている。変装は勿論出来るけど、商家の馬車で行くと色々と面倒くさい。歩きで行っても貧乏人と思われて、余計に取り調べを受けることになってしまう。
なるほど、まさにウィンウィンな取引だったわけだ。
商家の人が出発するまでの時間に、先程手に入れた現金で食料調達や洋服を買い揃える。時間が余ったので、おじさんと同業者が利用するお店に連れて行ってもらうことになった。
「ねぇ、本当にこんな場所にあるの?」
「次来た時のためにしっかり覚えておくんじゃぞ」
商店街から裏に入ってくねくねした狭い道を何回も曲がりながら進んでいく。裏に入った辺りから人がめっきり減って、私とおじさん以外の人の気配がしない。5分程して、おじさんが突然口を開いた。
「そろそろ着くから警戒するんじゃ」
「?警戒?」
すると、目の前から徐々に人の気配がするようになって、何回か人とすれ違った。
なるほど、確かにこれは警戒する必要があるかも。
セリーナは全員からすれ違いざまにポケットにある財布をすられそうになった。なんとまぁここですれ違う人は基本的におじさんと同業者ってことか。スリ師と怪盗を同類にしているをばれたら怒られそうだけどね。
すれ違うたびにそんなやり取りをしていたら、あっという間に目的の店に到着した。店は所謂道具屋で、薄暗い店内には盗みや強盗で使える品物が合法非合法一切関係なく売られていた。
おじさんが商品を吟味している間に私も店の中を見て回る。その間も警戒は欠かせないよ。一通り見て回るが特にめぼしいものはなく、店の端の方に大雑把に置いてあるコーナーに足を向けた。こういうところには意外と掘り出し物があったりするんだよね!
ガサゴソ
「んー、やっぱり私が気になるものはないなぁ」
そんな都合のいいことはないかとセリーナが引き返そうとすると、商品が詰められている箱からきらりとした光が目に入った。
「なんだろうこれ」
光源を探して木箱の中を漁ると、大きな深青色の宝石が埋め込まれた指輪で見つかった。それを取り出してみると、一度強く光って店内を明るく照らした。何事かと店主とアルセーヌが駆けつけた時には、既に光は収まっていた。
「無事か!セリーナ!」
「何が起きたんですか一体!」
「急に箱が光って、その、気になって見てみたらこの指輪が光ってたの」
そう言って指輪を摘まんで見せると、年若い青年の店主が目を見開いて指輪を確認してから、ゆっくりとセリーナの顔に視線を移した。
「まさか、箱ってあそこに置いてある箱のことですか…?」
「そ、そうです」
やばい、まずいことをしてしまったのかもしれない。
「流石はセリーナというべきかのう…よく生きておったわ」
「あれは訳アリ商品の中でも、特に魔法具で呪いに転じたものを入れておくために特殊な木で作られた箱なんです」
「あわわわわ」
「見たところ影響も特になさそうですし問題はないでしょう。それに、どうやらお客様はその道具に選ばれたようですね」
怖いよう、まさかそんなに危ないだなんて普通は思わないよ!裏社会は商品にまで気を付けないといけないなんて。
「聞いておるのか。この魔法具はお主を選んだようじゃ。こんなことは滅多にないがどうする」
「この魔法具の効果って何ですか」
「その魔法具は既に呪具に転じています。実際に装備するまでは効果が誰にも分からないんです」
呪具!?明らかにやばいよねそれ。なんでそんなもの置いてるの!
「呪具ってなんか怖いのでやめておきます」
店主に返そうと手を伸ばすとあからさまに嫌がられて、引きつった笑みを浮かべながら口早に説明をされた。
「呪具は一般的にはそうですけど、例外もあるんです。呪具が極稀に使用者を選ぶことがあります。その場合は普通の魔法具よりも絶大な効果を持っているんです。お客様もそれだと思われますから他人である私が持ちますと、最悪の場合死んでしまうかもしれません」
これ私が買うしかなくなってないか?そう考えておじさんの方を見ると、ただ微笑んで我関せずといった態度であった。参ったなぁ。
「…分かりました。買います。買いますけど、もし何かあったら貴方を呪いますからね」
「ご、ご購入ありがとうございます。早速ですが、お値段の方が」
「なんじゃこの値段は!ぼったぐりではないか!ジャンク品ならもっと安くても良かろうに!」
「そちらは既に効果を有する呪具でございますので、こちらとしてもこの値段で行かせていただきたいのです」
ほほーん、最初からこれが狙いだったのか。見たところ馬車を売り払って手に入れた金額の半分くらいの値段である。本来の価格の100倍近くの値段を吹っ掛けてきている。
「分からないけど、これで足りる?」
ジャラジャラジャラジャラ
「お主なんでそんなにお金を持っているんじゃ…」
「悪党からは盗っていいんだよね?」
「あやつらから盗ったのか」
セリーナはこの店に来るまでの間にあったスリから逆にお金を頂いていたのだ。それも最初の1回でスリ同士で盗る手口を覚えて、それ以降のスリ師全てから奪い取っている。
この店に来ているという時点で、町にいるチンピラとは一線を画す本職の者達だ。工夫を凝らして作り上げてきたその手口を、セリーナは1度見ただけで模倣した。
その洞察力と再現能力、そして本職を相手にして守るだけではなく逆に盗るという大胆さと技術。
紛れもない才能の原石である。
1人の少女の実力を感じ取った店主はニッコリと微笑んだ。
「これでは足りませんが、こちらで大丈夫です。これからも是非御贔屓にしてください」
「寄った時はまた来るね!」
「またのお越しをお待ちしております」
買い物を終えて店を後にした2人は、商家の馬車に乗り込んで次の町を目指すのだった。
(ワシはとんでもないことをしてしまったのかもしれんな)
アルセーヌは一連の出来事からその才能に期待すると共に、それを野に放ってしまった事に対して少しばかりの恐怖心を抱くのであった。
なんとか2話目書けました。このまま頑張ります。
次は17時ぐらいに投稿予定です。
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