真剣に腹が立ったこの時がきっと、
その後は最悪だった。
その日のうちに最悪が更新され続けた。
どんよりとした城市さんの様子に、課長はもはや苛立ちを全く隠さず笑顔で嫌味を言う始末。
更にそのやり取りを見た課の人たちが、ヒソヒソと悲劇の主人公?あからさますぎない?などと嘲笑する。
「ちょ~っとぉ、私語は慎もうね~?」
「はあ~い」
「すみませ~ん」
堂領さんに注意された後輩たちは、空返事をしてクスクスと笑っている。最悪だ。クソが!!ガン飛ばしてやるわ!!
あー、あー最悪だ最悪だ最悪だ。
なにより、朝一番に城市さんを傷付けてしまった自分が一番最悪だ。いやあんな顔をさせる課長が最も最悪だけれど!!パワハラなんて絶対に許さん!!
「お~い小新、今日超イライラしてんな~大丈夫か?」
「まあ、アレだね、早くお隣さん辞めてくれるといいねーー!?」
ーーブチりと、もう、限界を迎えた昼。
「……え、な、なになに、どうした小新?!」
いつも愚痴を聞いてもらっている同期たちの顔すら見たくない。
ガタンと音を立てて席を立ち、社食を下げる。
ああ、残すなんて、もったいない。なにもかもが最悪だ。
足を踏み鳴らしながら仕事場へ戻る。
きっと昼休憩していないだろう城市さんが、今日も今日とて積み上がっている紙の山に黙々と向き合っている。
ああ、イライラが、止まらない。
「……城市さんッ!」
「ハッ!ハイッ!?」
バクバクと心音が鳴り響く。
「今日は、定時で帰ってください」
「……え、え…?」
「それが無理なら、今日は、今日こそは手伝わせてください。課長の業務。雑務でもなんでもいいので、指示してください」
「え、えっと、あの、それは……」
動揺しながらも言われたことを理解しようと努めている城市さんの反応に、なんだか分からないけれど、心臓がギュッとなる。
それから、昼ご飯はちゃんと食べた方がいいですよ!というか食べてください!と言い逃げした。
あの、城市さんに、こんな強気な発言をしているだなんて、数週間前の自分は絶対に信じないだろう。
ああ、なんだか変に、高揚している。
なんというかこれは、真剣に、真面目に、腹が立っている。のだと思う。
午後もピリピリしている自分に課の人たちが気を遣っているのも、隣の城市さんにもチラチラ横目に窺われているのも分かってはいても、この怒りは治まらなかった。
ああ、最悪だ。
でも、気分はそう、悪くないのだ。