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闇に堕ちた勇者、魔王になる  作者: ゆずれもん
1/11

プロローグ〜勇者、闇に堕ちる〜

ダークファンタジー?に挑戦してみました。

闇に堕ちた勇者が魔王となり、はちゃめちゃな事をしでかしていくコメディとなっております。

非常にゆるい気持ちで読んでいただけると。主人公自体がかなりゆるいですので。


プロローグはシリアス多めですが、次回からはコメディ要素が強くなります。

勇者と言う存在は魔王がいなくなるとどうなるのだろうか?故郷に凱旋し、最高の名誉を与えられ、姫と結婚し、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


 


「で、終わったら…いや、それはそれでめんどくさいな…」


 


世界はそんなに甘くはなかった。勇者と言う存在は魔王が居ない世界では…。


 


「ただの厄介者だったなぁ」


 


そう独り言ちる青年…彼の名はフォール。元勇者である。


 


「魔王様。お食事の準備が整いました」


「はーい。たくさん食べてもっと強くなりまーす。あ、俺のことはフォールでいいよー」


 


そして…今は魔王と呼ばれる存在である。


 


………


 


彼が16歳の時、彼は世界を脅かす魔王と死闘の末、これを制した。手には勇者のみが扱うことができる光の剣。体には魔族のあらゆる魔法や術を弾く神秘の鎧。これが彼を勇者たらしめた。


 


「グアアアアアアア!!!!!」


「これで貴様も終わりだ、魔王!!!」


 


魔王の心臓を光の剣が貫いた。極限まで磨き上げた神速の技をもって。フォールも血塗れだった。死闘を物語る。仲間も全員重傷で意識が虚ろだ。


 


「クク、クククハハハハ!!」


「何がおかしい!」


 


「ククク、いや何…見事だ、勇者よ。貴様こそ、儂が生きてきた数百年の中で真の勇者に相応しい。しかしだ勇者よ…」


 


「何だ」


「勇者と言う存在は魔王と呼ばれるモノがいるからこそ輝くのだ。こうして儂が死にゆく今、貴様は何になるのだろうな?」


 


「何をふざけたことを。俺は俺だ」


「クックックッ…そうかそうか…」


 


「今際の際に呪いでも残すつもりか」


「馬鹿なことを。貴様はすでに呪われておるわ」


 


「な…に?」


「魔王を倒した貴様に光ある未来などないぞ。貴様にあるのは…闇と…絶望だ。フハッ…ゴフッ!」


 


「フン。そんな世迷い言、誰が信じるか。俺たちの未来は希望に満ちている!」


 


魔王の戯言と一蹴した。しかし、その本心は言いようのない不安があった。ひどい不快感だ。飢えて仕方なく毒芋虫の肉を食べてしまったときのような。


 


「フフフ。嘘だと思うのなら…それでも構わぬ…だが…そうだ、な…もし…世界に絶望…した、なら…ここへ…来るが、よ、い。フフフ…待って…おる、ぞ」


 


「ここへ来ることは二度とない。断言してやろう」


「言うでは…ない、か…待って、おる、ぞ…フハハハハ…フハーハハハハハ!!!!」


 


「魔王、貴様!!!クッ!」


 


魔王は弾け飛び、その爆発に巻き込まれて壁へ吹き飛んだ。最後まで…往生際の悪い奴め。


 


「フォール!!!ま、魔王は!?」


「ウィンザー…勝ったよ」


 


聖騎士ウィンザー。フォールの生まれた国、アーデルハイド王国の聖騎士の中でも剣技に長けた猛者。フォールが安心して背中を預けられた男だ。


 


「フォール様…ついに…ついに成し遂げたのですね…!」


 


聖職者カトリーヌ。彼女がこのパーティーの命を預かっていたと言ってもいい。法術で皆の体の傷を癒し、毒を解き、実体を持たぬ悪霊などを浄化した縁の下のチカラ持ち。


 


「……やった…やったのね、フォール!やっと…やっと家に帰れるのね!」


 


魔導士リディ。その大魔法は多くの敵を一瞬で焼き尽くし、凍てつかせ、爆砕した。絶体絶命のピンチを幾度となく救った。


 


4人の冒険は過酷なものだった。それが今…ようやく終わったのだ。


 


「ああ…帰ろう。俺たちの国へ!家へ!」


 


天高く、白銀に輝く剣を掲げ、彼らは魔王城から転移魔法にて故郷へと帰った。


凱旋し、王から凄まじい褒章を得、世界に名を轟かせる真の勇者にフォールはなった。そして幸せに自分の村で農作業をして生活をする…はずだった。


 


/1年後


 


フォールが魔王を倒してから1年。フォールはと言うと故郷で農業を営むことさえままならず、正義のための剣を今度は戦のために振るうことになった。お前のチカラが必要だと王に迫られ、かつての仲間や故郷の人々を盾に脅され、やむなくその剣を振るうしかなかった。


 


大国「サウンズアスール」はフォールのチカラを駆使し、隣国を掌握しつつあった。陥落も目前。フォールのチカラは強すぎた。振るう剣は一個師団を潰し、魔物を炭に変えた雷は建物を焼いた。そこにかつての勇者としての姿はなく、民も隣国の王も恐れる殺人鬼と罵られ、殺戮と破壊の神とまで言われるほどであった。


 


女神から賜った水を弾き、光を放った光の剣は光を嫌うかのように漆黒の刀身になった。鏡のように美しかった神秘の鎧も返り血を浴びすぎ、血を啜って強くなる黒き鎧になった。そして、フォールの心も闇に染まっていった…。


 


「勇者って言うのは魔王が居てこその勇者なんだなぁ…」


 


焼け落ちる建物を背に、誰に言うわけでもなく独り言を吐く。剣からは血が滴り落ち、無数の死体が転がる。兵士も、老人も、幼子も。妊婦だろうと、無心で魔術師に操られるマリオネットのごとく剣を振るった。隣国ももう終わりかもな。いや、終わりだ。フォールはそう思う。しかし…彼は止まらない。仲間と故郷の人を守るために…戦うしかないのだ。


 


「正義って何だ?」


 


考えたってもうわからない。死んだような目で重い体を引きずって帰路についた。


 


/サウンズアスール城 玉座の間


 


「また1つフォールが街を落としたようですな」


「ククク、素晴らしい。これで我らが覇道に一歩前進じゃ」


 


深夜にも関わらず、この国の王と大臣が悪しき笑みを浮かべていた。この2人こそがフォールを殺人鬼に変えた張本人達。彼らは魔王が死した後、フォールのチカラを使い、周囲の国の覇権を物にしようとしていた。フォールを脅し、ろくな褒賞も与えずにただただ暴力をふるわせた。おかげでサウンズアスールは戦争に必要な費用、人員をほとんど減らさずに隣国を壊滅寸前までこの1年で持ち込んだ。それほどまでにフォールのチカラは凄まじかった。


 


その剣は一個師団を1人で潰し、振るう魔法は1人で街を破壊する。何千の兵士もいらない。すると兵糧や武器なども必要がなくなる。その費用は莫大である。仮にフォールが破れて死んだとしてもこちらは確かに戦力としては痛いが、弱った隣国などもはや相手ではない。隣国を滅ぼせば次の国をフォールが潰せばいい。そんな悪しき考えをこの2人は思いついてしまった。


 


「莫大な費用が浮いたわ。全てはフォールのおかげじゃ」


「左様で。しかし王もお人が悪い。この浮いた金で秘密の奴隷商とは…」


 


「フフフ、全ては国の繁栄のためじゃ」


「ホホホ…しかし、その奴隷をつまみ食いするのは…?」


 


「ワハハ、貴様こそ」


「いえいえ。そして隣国を滅ぼせば領土も拡大。敗残兵は全て死罪にし、残った美しき女は皆奴隷にし…いいこと尽くめですなぁ!」


 


ガハハハハ!と笑う2人は…人か?何なんだこいつらは。これが王と大臣の本性か。そして俺は…こんな醜い外道の欲を満たすためのこの1年間…人を殺め続けていたのか………!!!


頭に、来た。フォールはその瞬間プツンと頭の中で何かが切れた。


 


フォールはいないだろうと思ったが隣国のある街を滅ぼした報告をしようと城にやって来た。


 


(ん?王の間から声がする…王はいるのか)


 


そうして入ろうと思った刹那にこの会話である。思わずフォールは間に入らず盗み聞きをしたのだ。フォールは聞いてはいけない会話を聞いてしまった。自分のこと。ただ己のくだらない欲を満たすためだけにこき使われていたこと。何の罪もない人々を殺す羽目になったこと。仲間や故郷の人を盾にしたこと。全てが許せなかった。


 


 


なんだ。俺よりもひどい悪党がここにいるんじゃないか。


 


 


なら、殺さなくっちゃならないな。だってお前らいつも言ってたじゃん。悪は滅ぼせって。だから俺はお前らを殺すわ。フォールは全てが吹っ切れた。スン…と言う音と共に重い玉座の間の扉が斬られた。並の剣では砕けてしまうほどの厚さと重さなのだが、黒き剣はそれを溶けたバターのように簡単に斬り伏せた。そしてドアを蹴飛ばし、凄まじい音が響き渡る。


 


「な、何事じゃ!」


「ひ、ひい!?賊か!?」


 


「自分の欲を満たすために村のみんなやウィンザー達を盾にして俺に随分なことをさせてきたな。悪を滅ぼせってお前らに言われてきたけど、真の悪はお前らじゃないか」


 


「フォール!?貴様、なぜここに!?」


「そんなことはどうだっていいよ。それよりもお前ら、生きてても仕方ないような事を言ってたから今から殺すわ」


 


「何だその喋り方は!陛下に向かって何と無礼な!」


「今そんなことを気にしてる場合か?俺はフォール。魔王を倒した元勇者です。一個師団を1人で潰した元勇者でーす。お前らが俺に勝てるのー?」


 


フォールは人格が変わっていた、ふざけた話し方をしているが、こうする事でこの数ヶ月は割と自我を保っていたように思う。もうこの話し方でなければ本当にバーサーカーになっているだろう。


 


「誰か!曲者だ!!!」


「陛下!!!貴様、フォール!!陛下と大臣に刃を向けるとは…!!何たる事!謀反を侵すつもりか!?」


 


「お、近衛騎士団が護衛かー。邪魔するなよ。俺はこいつらを悪とみなしたんだ。邪魔するならお前らも殺す」


「貴様…覚悟はできているのだろうな!?」


 


「引く気はない…か。しょうがない。先に王様の首、もらいうけーる」


「させるかァ!!!」


 


速い。生え抜きの精鋭部隊、サウンズアスール近衛騎士団。その剣や槍の実力はこの国で一番だ。戦に赴けば常勝。サウンズアスールの近衛騎士団ときけば、どこの国の兵士たちも恐れる猛者達。しかし、それは普通の人間だったらの話。元勇者、フォールは違う。


 


「おっと」


 


騎士はとらえた!と思った。彼らは知らないのだ。知らされていないのだ。フォールが秘密裏に隣国に攻め入っている事を。一個師団を1人で潰すほどの人など遥かに超えたチカラを持っていることに。魔王などこんなガキ相手にやられるような弱い者であると見下していた。違うのだ。彼は本当に、人知を超えた能力を持っている。だから、自分の眼前数ミリのところまで迫っていた騎士の剣をそこからかわしてしまうのだ。


 


「何っ!?」


「遅い。これならウィンザーの剣の方が圧倒的に速い。これ、避けれるか?」


 


スン


 


銀の筋が一閃。


 


「あ、ダメか」


 


そうフォールが言うと、フォールの頭を叩き斬ろうとした騎士は上半身と下半身が繋がりを失ってドシャリと言う音と共に分離。血の海ができた。他の騎士たちは何が起きたか理解できない。フォールはただ、剣を横に振っただけにすぎない。しかし、その剣筋は常人では捉えることは不可能だった。


 


「次。死にたい奴だけ来い。邪魔をしないなら攻撃はしない」


 


凍てつくようなフォールの殺気が間を支配する。武人ならばわかるはずだ。太刀打ちできるモノではないと。しかし、彼らは王を守るために存在する。ここで逃げようものなら。助けないと言うのなら。おそらくは一族郎党死罪になる。王と言うも者は彼らにとって絶対であり、恐怖によって支配される側となっている。


 


「か、かかれええええええ!!!」


 


騎士の1人がそう言うや、弾かれたように騎士たちがフォールに飛びかかる。


 


「大勢だと剣じゃ面倒だ。だからお前たちは黒焦げになれー」


 


抑揚のない声で手をかざすと、何本もの赤黒い雷光が騎士たちを焼く。雷の魔法は勇者だけが習得できる魔法である。どんな大魔導師もこればかりは長きに渡って。世代を超えて研究を行おうが決して習得できない魔法。奇跡の魔法。フォールだけが使える最高位の魔法。魔王でさえその身を焼く裁きの雷。かつては闇を照らす青白い雷光であったが、戦争に身をやつしてからは赤黒くなってしまった。剣や鎧と同じだ。赤黒い雷を初めて見た時は「あれ?」と気の抜ける事を言った。


 


哀れ鎧を纏った騎士たちは鎧まで黒焦げとなり、辺りを不快な肉と金属が焼ける匂いが充満する、そして、王と大臣を守る者は、もういない。


 


「ひ、ひいいいいひいい!!!」


「誰か!!!誰かあああああ!!!」


 


「もう終わりらしいよー」


 


呑気に言うフォールであるが、王達はそうではない。精鋭の騎士たちがまるで最弱のスライムのように全員殺されてしまった。もう守る者は誰もいない。


 


「助けてくれフォール殿ぉ!!私は王に従うしかなかったのだ!!!」


 


「何だと貴様ァ!!貴様から持ちかけてきたのではないか!!!!」


 


「違う!!!お願いだぁ……たすけグボッ!!!」


「お前醜いからすぐ殺すわ」


 


大臣の胸に剣を突き刺した。心臓を貫く。醜い。自分は悪くないと責任を押し付け合う姿があまりにも醜かった。だから殺した。もう何人殺したかわからないから。罪のない人を殺すより、こいつらを殺すことに何のためらいもなかった。


 


ベシャリと剣を引き抜くと倒れた大臣はしばらく魚のように口をパクパクしていたがやがて動かなくなった。


 


「う、うわああああああ!?!?!?ブッ!!」


 


うるさいから顔に蹴りをくれてやった。鼻と歯が何本か折れた。静かになったので髪を引き抜く勢いで掴み、臭い息を吐いていたが1cmの所まで顔を近づける。


 


「臭い息だなぁ。殺すぞお前〜」


「や、やめ……」


 


「お前さ、何で俺をお前らの下らない欲望のために戦争の道具にしたの?」


 


「ひ、ひいい…」


「はっきり喋れ。殺すぞ」


 


「あなたひゃまのチカラがあれば…世界を…手中にできると…思って…」


 


「女を奴隷にしようとしたのはなんで?」


「しょ、それは…」


 


剣をカチリと鳴らすとひっ!と臭い息をかけられた。ムカついたので頭突きをしておいた。王の額が割れた。


 


「美しい女を…いくらでも抱きたい…!そ、しょれは男の夢だろう!?お前もそうだろう!?」


 


「ないわー。ぜんっぜんないわー。俺、そんなもんの為に人殺しさせたんだー」


 


「たしゅけてくだひゃい…この国もあげまひゅ…女も…お金も…」


 


「そうか」


 


髪から手を離した。王は許されたのかと思ったようで、ありがとうございます…と情けなく頭を下げた。


 


「結局この戦は隣国じゃなくてお前が真の悪党だったんだねぇ!!!お前死んでいいねぇ!!!!」


 


「は!?」


 


「大戦犯は地獄行きいいいいい!!!!首置いてけえええええ!!!!」


 


そうフォールが叫ぶとまたしても剣がスンと音を立てた。え?と王が言葉を漏らした直後、首から上が胴から落ちた。


 


「汚い欲望のためにどれだけ血が流れたか反省しろよ」


 


王は驚愕の表情のままで転がった。


 


終わった。俺の無駄な戦いは終わったんだ…。俺の夢は…脆く儚くも終わっちゃったなぁ。でもまあ、これで俺は無駄な殺しはしなくていいし、命を脅かされていた村の人たちも。俺の仲間も救われた。これでいい。俺は血を吸いすぎた。


 


剣も鎧も黒くなるほど。人格がねじ曲がるほど。俺は汚れちゃったけど。みんなが助かるならいいか。さて、これから俺はどうしようかなぁ。王だったモノを無表情に見つめながら考えた。


 


「王!!王!!!!なっ!?貴様…!!!」


「ん?」


 


血相を変えて飛び込んできた男が1人。女が2人。それは最も見覚えのある顔だった。


 


「フォール…様?」


「あんた、なにやって…」


 


「お前らか。お前らの命の危機は去ったぞ、喜べー」


「何を言っている!?フォール…勇者ともあろう貴様が…我らが王を…!!」


 


「こいつは王様なんかじゃないよ。俺を使って世界征服を企んで、世界中の女を手にしようとした腐れ外道だぁ」


 


「嘘をつくな!!!!貴様…何だそれは…なぜ…!!」


「フォール様…まさか魔族に操られておられるのですか!?」


 


「俺は俺だ。隣国では人を殺しすぎて殺人鬼って呼ばれた元勇者の外道だ」


 


「は、は?」


 


魔導師リディは訳が分からなかった。操られているわけではない…?なのに…殺人鬼…ましてや自分の国の王を…殺した…?


 


「貴様は道を踏み外した…ならば…友として…この国の騎士として!!貴様を…斬る!!!」


 


「迷いは捨てろよウィンザー。じゃないと死ぬぞ」


「カァッ!!!!」


 


限界まで引き絞られた弓から放たれた矢の如く、聖騎士ウィンザーはフォールへと飛んで行った。近衛騎士団と並ぶ王国最強の騎士団。その中でも勇者と共に戦った歴戦の猛者、団長ウィンザー。その強さは王国一。そして親友フォールと剣で競い合い、99勝99敗99引分と言う実績を持つ。


 


せめてもの情けだ!一刀のもとで苦しまず逝け!!


 


ウィンザーの剣がフォールに迫る。しかし…


 


ガキィイィン!!!


 


金属同士が激しくぶつかり合う音。耳を塞ぎたくなるような大音量。フォールは寸分の狂いもなく、ウィンザーの剣を無気力な表情で受け止めてしまった。


 


「グ、グウウウウ!!!(動かん…!何だこのチカラは!?)」


 


「ウィンザー、お前弱くなったんじゃないか?チカラは弱いしめちゃくちゃ遅かったぞ?」


 


「馬鹿を言うな…勝負は!これからだああああああ!!!!」


「それじゃあ俺は止められない。記念すべき100勝は俺がもらったああああああ!!!」


 


パキン…と折れる音がした。ウィンザーは咄嗟に後ろへ飛んだ。遅かった。


 


「ぐああああああああ!!!!!」


「ウィンザー様!!!!」


 


フォールはウィンザーを。友をためらいもなく真っ二つにしようとした。ウィンザーは速かった。避けられた。しかし、左目はもらった。


 


「これで俺の勝ちだぁ。俺の勝ち逃げだぁ」


「ウィンザー様!!今治癒を!」


 


「カトリーヌ…今は不要だ…今は眼前の敵を倒さねば…」


 


「もう剣も折れちゃったし、目も潰れた。お前に勝ち目はないと思うよー」


 


「黙れ!!!もはや貴様は不倶戴天の敵…!貴様は王の仇だ!!!」


 


この腐れ外道の真相を聞いたら仇も何も無いと思うなぁ。


 


「そっかぁ。じゃあ殺すわ…」


 


「フォール様…貴方様はそのようにすぐ殺すと口に出されるお方ではありませんでした…なぜ、なぜそのようになってしまったのですか!?」


 


「そんなの俺が知りたいよ!!!!!!!」


 


フォールがここで初めて感情をあらわにした。


 


「俺だって知りたいよ…魔王を倒したら平和になるんじゃなかったのかよ…平和になったと思ったら…村のみんなとお前らの命と引き換えに戦に駆り出されて…結局俺1人で全部殺して…壊して…その結果がこの腐れ外道共の世界征服と女を抱きたいって言う欲望のためだった!!!!!俺はもう人じゃなくなった!!!!人の心は捨てたよ!!!!!!!!」


 


フォールの慟哭。悲鳴だ。真実なのかはわからない。この男の戯言なのかもしれない。しかし、この3人は…何も答えられない。


 


「ウィンザー、カトリーヌ、リディ…教えてくれよ…勇者って何だ?戦争の道具なのか?教えてくれよ!!!!!なあ!!!!!!」


 


リディは腰を抜かしてへたりこんだ。ウィンザーは血を流し…動けない。カトリーヌは涙を流してフォールを見るしかできない。


 


「俺ももうわかんないや。なあウィンザー…」


 


カラン…と剣を放り投げた。泣きながらフォールは絞り出すように言う。


 


「殺してくれよ」


 


「フォール様!?」


 


「もう疲れたよ。このまま俺は戦争の道具にされて…自分の意志で生きていけないなら…もういいや。殺してくれよ。なあ、早く殺してくれよ!!!!!!」


 


いつから彼はこのような苦悩を。それも魔王を倒すということよりも重く辛い苦悩を抱えていたのだろうか。なぜわたくしたちは、このお方の…親友の…少し恋心も抱いた方の苦悩を見つけてあげられなかったのだろう。呑気に神に祈りを捧げている間、彼は大きな闇を抱えてしまっていた。


 


「なんだよ、殺せないのかよ」


 


剣を拾い上げ、鞘に収める。そして動けないままでいるウィンザー達を背にして立ち去ろうとする。


 


「どこへ…行くの…?」


「お前には関係ない。殺してくれないなら死に場所を求めて旅に出るだけだ」


 


「だめ!!行っちゃ…だめ!!」


「リディ、俺は多くの罪もない人を殺した大戦犯だ。友達だって傷つけた。俺はここにいちゃいけないんだ」


 


「じゃあ!あたしも一緒に!!!」


「ダメだ。お前も殺される」


 


「いや、いやだよぉ…置いていかないで…フォール…!」


「カトリーヌが治療したらウィンザーの目も治るだろ。ごめんな。カトリーヌ、頼むよ」


 


「フォール…待て!」


「フォール様!!」


 


「ん?」


「陛下に危機だ!!!急げ!!!」


 


「おおっと増援だー。フォールは逃げ出したー。じゃ、バイバーイ!!!」


 


フォールは風のように去っていってしまった。聖騎士団長ウィンザーも敗れた漆黒の騎士。ウィンザー達はそう言ってフォールだとは言わなかった。たとえこれがバレて自分たちの命がなくなろうとも、彼を疑って刃を向けたせめてもの償いだった。


 


その後、フォールが言っていたことは真実であり、フォールは操られていたと語られた。彼に恋焦がれていたリディは泣き崩れ、カトリーヌは寝込み、ウィンザーは謝罪を繰り返す毎日だったと言う。


 


………


 


「俺にあるのは絶望と闇か。魔王が言った通りになっちゃったなー」


 


魔王の言葉が蘇る。勇者は魔王がいてこその勇者。その通りだった。そのチカラは強大すぎた。過ぎたチカラを利用する人間がいることなど考えもしなかった。


 


一番醜いのは人間だった。


 


人間に絶望した。信じていた仲間たちだって信じてくれなかった。もう疲れた。きっと王国の騎士が世界中に俺を探しに来るだろう。安寧の地はもうないのだろう…。


 


「あっ」


 


思い出した。魔王の言葉。世界に絶望したのならここへ来るが良い。魔王城。どうせ行くアテはない。なら行くか。少なくとも雨風は凌げるだろう。あ、朽ち果ててたらどうしよう…。


 


………


 


「着いたー。ちゃんときれいに残ってるじゃんか」


 


数ヶ月の旅を経て魔王城へと辿り着いた。城は魔王を倒した時と変わっていない。崩落していないどころか長らく放置されていたはずなのに苔やツタなども生えていない。しかし、まだ中に魔物がいるかもしれない。まあ、襲われたら襲われたで…いいか。そんな投げやりになり、死さえ厭わないフォールはスタスタと城の中へと入っていった。


 


 


「寒くもないしどこも傷んでない。すごいぞ魔王〜、もう一回殺すぞー」


 


とんでもない事を言うが、それでもどこか楽しそうに進んでいくフォール。手痛いダメージを喰らうバリアもない。毒の沼はあったが鎧の効果は生きている?毒のダメージはなかった。隠し階段も頭に入っている。だって、これを見つけられなくてどれだけアークドラゴンに襲われたと思ってるんだ。闇を照らす魔法も、魔王が放つ闇の瘴気がないせいか必要なく、明るい。なんて快適なダンジョンなんだ。ずっとこれだったら闇討ちで毒攻撃を全員もらって全滅しかけるくらいな事態も起きなかったのに。


 


城には魔物はいない。もぬけの殻。剣を手に探索をしたが遭遇は一回もない。ヒョオオ…と言う風の音が魔物の咆哮かと思って剣を構えたが…いない。そしてフォールは玉座の間へと辿り着いた。


 


「オッス魔王、殺しに来たぞ。俺ともう一回戦えー」


 


旧友に会いに来たかのような気さくな挨拶をするが、やっぱり誰もいなかった。おいおい、ここに来いって言ったくせにいないとはどう言うことだ。殺すぞ魔王。結局、ここでも俺は死ぬことも許されないわけか。自殺するのはなんか怖いし、よその魔物や人間は俺を殺せそうもないし、困ったなぁ。


 


「魔王。俺はどうすればいいんだ?」


 


答える相手はいない。虚しく自分の声だけが間に響く。よいしょ、と大層なでかい玉座に腰掛ける。あ、座り心地いいな、これ。いい物に座りやがって、殺すぞお前ー。


 


「ふう…疲れたな…いろいろと…」


 


故郷を捨て、仲間も家族も捨て、人間性でさえも捨てた。残っている俺は何なんだろう?考えても答えは出ない。頭は空腹と疲れで回らないし、そうだ、とりあえず寝よう。魔物も人の気配もない。盗賊なんかが来ても簡単に殺せるだろうし、とりあえず寝る。この椅子座り心地柔らかくて気持ちいいし。そうして彼は眠りについた。眠りについてしばらくして、玉座が怪しく光り、魔法陣が現れたことなどフォールは熟睡して気がつくはずもなかった。


 


………


 


カツン


 


「ん?」


 


足音のような物音で目が覚めた。不思議だ。今まで微睡と覚醒しか繰り返すことができずに毎日寝不足と疲れでゲンナリしていたここ1年。今はベッドで朝までグッスリ眠ったような体の軽さだった。チカラがみなぎる。雷撃魔法でこの城も吹っ飛ばせるくらいみなぎっていた。


 


カツン


 


誰だ、気持ちよく寝てたのに。俺の安眠を妨げた奴は殺す。絶対殺す。漆黒の剣を手に取り、その相手を待つ。現れたのは…


 


「おはようございます。よくお眠りになられましたでしょうか?」


 


長く、地面に着くんじゃないかと言う漆黒の髪。金色の瞳に紅の魔獣のような瞳孔。人間なら白目の部分もこれまた紅く、人ではないことは容易くわかった。白く陶磁器のような美しい肌を隠すような質素なボロい黒い布。気品はあるのにどこか痛々しい。敵意はないらしい。フォールはなぜか剣を下ろした。うん、よく寝た。ほんとに気持ちよく寝た。で、君は?と言おうと思ったら女性は朝の挨拶の後に言葉を続けた。


 


「魔王様」と。


 


「うん…うん?」


「……?魔王?どこに魔王がいるんだ?ちょっと出してくれ。殺すから」


 


「いえ、あの…」


「おーい魔王。早く出てこーい。じゃないと殺すー。出て来ても殺すー」


 


「いえ…貴方様が、魔王様ですよ。『魔王』フォール様」


「はい?」


 


闇に堕ちた勇者が魔王となった瞬間だった。

登場人物紹介


フォール

元勇者で魔王になっちゃった青年。20歳くらい。あまりの強さに魔王討伐後、戦争の道具として使われたことで人格が破綻してしまった。語尾に何かあると「殺すぞ」とつけることが多い。

誰もいなくなった魔王城に人目を忍んで生活を始めたら魔王になった。とにかく強い。人間は誰も勝てないと思う。悪い人が大嫌い。

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