結婚式を三日後に控え、新郎は戯れる。花嫁の望みは・・・?
楽しんでいただけたら嬉しいです。
10/17 小さな修正を入れました。
五年の婚約期間の末、三日後、第一王子のアーロン殿下とリエッタ・スツルスとの婚姻が結ばれることに決まりました。
十二歳で婚約して、この五年の間、本当に、本当に色々なことがありました・・・。
わたくしのこの五年は王妃教育と、アーロン殿下の尻拭いに追われていました。
アーロン殿下は物事を深く考えられない人で、些細な失態から、どう対処していいのか頭を抱えてしまう程の失態まで多種多様に失態を重ねています。
それを必死で側近や婚約者である私達が誤魔化して、隠してきました。
本当にちょっとした思いつきの気まぐれでした。
結婚がいよいよ眼の前に迫ってきた殿下が今、何をしているのか気になって、殿下の部屋を訪れてみようと思いました。
頭の中で色々なパターンを想像します。
わたくしにとって一番最悪のパターンから、一番最良のパターンまで。
ありえないとは思いますが、一番最悪なパターンだけはないことを祈りつつ、アーロン殿下の部屋へと、心が逸ってしまいます。
一番最悪の場合はそっと扉を閉めるか、ほんの少し話をして、また明日、確かめてみればいいだけです。
さぁ、アーロン殿下の部屋の前です。
愚かなアーロン殿下は不寝番をも遠ざけてしまっているようです。
まるでわたくしがここに来ることを誰かが望んでいるかのようだと思ってしまいました。
一番最良の場合、どうすればいいかしら?
ふっふっ。
無表情を装えず、笑みがこぼれてしまいます。
想像するだけで嬉しくなってしまって、私の取るべき態度を決めかねてしまいます。
聞こえるか聞こえないかという、ささやかなノックを三回して、返答を待たずに扉を細くそっと開きます。
女性のあられもない嬌声が聞こえます。
どうやらわたくしはわたくしの為の最良を引いたみたいです。
わたくしはアーロン殿下達に気付かれないよう細心の注意を払って大きく扉を開き、大きく息を吸い込んで、なるべく多くの人を集めるために、あらん限りの声で叫びました。
「きゃぁああああああああああっ!!!」
ベッドの上にいる二人はビクッと震え、わたくしの方に振り向きます。
アーロン殿下は下腹部を隠してベッドから飛び降ります。
叫び声を聞いた人達が「どうされましたか?!」と走り寄ってくる。
わたくしは震える指でベッドの方を指差しました。
走り寄ってきた沢山の人達が、アーロン殿下の情けない姿とベッドの上で裸を晒している女性を見て、声を上げないためなのか口元を押さえています。
少し遅れてスレヴァン王弟殿下が「何事か?!」と言ってアーロン殿下の部屋の中を見ます。
スレヴァン王弟殿下が目を見開いて、アーロン殿下に詰め寄ります。
「何をしているんだっ!!」
スレヴァン王弟殿下がアーロン殿下を怒鳴りつけ、私の存在に気がついてわたくしがアーロン殿下を見なくていいように視界を遮って立ちふさがってくださいます。
シーツで胸元を隠している女性はこの半年ほど殿下に纏わりついていたピンクブロンド髪の男爵令嬢、アイリス様です。
愚かにも、秘事を見られたことを喜んでいるようです。
私を見て勝ち誇ったような、嫌な笑みを浮かべます。
アーロン殿下の側近達がその笑顔を見てしまい、男爵令嬢を訝しんだのは、わたくしの気のせいでしょうか?
スレヴァン王弟殿下は私の背をさすり「アーロンが本当に済まないことをした。リエッタ嬢にどのように詫びればいいのか解らない」と仰ってくださいます。
わたくしはこれを望んでいたので、気になさらないでください。そう心の中だけでスレヴァン王弟殿下に伝えます。
わたくしは必死で涙を集めて目を潤ませ、スレヴァン王弟殿下を見上げると同時に涙を一粒こぼします。
涙が流れてホッとしました。
スレヴァン王弟殿下は唇を噛み締め、アーロン殿下を見て「自分の行いの覚悟を決めなさい」とアーロン殿下に言い渡しました。
アーロン殿下は「結婚前のちょっとした戯れです」と慌ててスレヴァン王弟殿下へ言い訳をしていましたが、アーロン殿下の味方になる者は、この場には居ませんでした。
スレヴァン王弟殿下はわたくしを部屋まで送り届けてくださって「リエッタ嬢の望むままに対処しましょう。リエッタ嬢の望みを聞かせてもらえますか?」
「わたくしの望みを叶えてくださいますか?」
「なるべく叶えたいと思います」
「ならば、たった一つだけ望みがあります」
スレヴァン殿下は真摯にわたくしの話を聞いてくれます。
「何でしょう?」
「スレヴァン王弟殿下。わたくしごときがこんなお願いすることは恐れ多いことだと分かっております。ですが、わたくしのたった一つの願いを叶えてくださいませ」
わたくしはしっかりとスレヴァン殿下の目を見て訴えかけました。
「わたくしはスレヴァン王弟殿下の立太子を望みます」
スレヴァン王弟殿下は目を見開いてわたくしを見下ろします。
わたくしの背を支えてくれていた手がわたくしから離れてしまったことに名残惜しさを感じてしまいます。
スレヴァン王弟殿下は陛下と十七歳年が離れた、第一位王位継承者なのですが、兄である国王の子が即位する方が軋轢がないだろうと言って、アーロン殿下に王位継承を譲られました。
ですが、陛下と王妃の間の子供はアーロン殿下しかおらず、アーロン殿下は王妃に溺愛されすぎてしまって、一番国王になってはいけない浅はかな人に育ってしまいました。
「わたくしはアーロン殿下が国王になるべきではない理由を十は挙げられます。アーロン殿下が立太子する前で良かったと思っております。スレヴァン王弟殿下、どうか、お願いです。次代の国王陛下になってくださいませ」
「リエッタ嬢の望みはアーロンではなく、私が次代の国王になることなのだな?」
わたくしはスレヴァン王弟殿下の目を見つめ「はい」と力強く頷きました。
「解った。陛下と話をしてくる。リエッタ嬢は一人で平気かい?」
「大丈夫です」
「ゆっくり休んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
スレヴァン王弟殿下の背を見送り、わたくしは部屋の中へと入りました。
わたくしはベッドに飛び乗り両手を天に向け、心の中で神に感謝します。
わたくし自身はアーロン殿下と一緒に幽閉か、遠く離れた領地を賜ることになるでしょう。
それでも、アーロン殿下が国王になることに比べたら望むところです。
我が家にはきっと温情が与えられるでしょう。
本当に良かった。アーロン殿下、あなたの浅慮な行いに、こんなに感謝する日が来るとは思いませんでした。
わたくしの興奮が少し落ち着いた頃、扉がノックされ、王宮のメイドが「陛下がお呼びです」と私に伝えた。
「ごめんなさい。少し気を荒らげてしまったので、身支度をお願いしてもいいかしら?」
「かしこまりました」
化粧を整え、髪を櫛付けられる。
衣装を整えてもらって、メイドとわたくしは鏡越しに頷きあって、陛下の下へと向かいました。
部屋には陛下とスレヴァン王弟殿下、宰相様の三人が居られました。
「リエッタ嬢、アーロンのことは本当に・・・」
「陛下、お言葉を遮ってしまったことを謝罪いたします。アーロン殿下が深慮遠謀できるようにお諌めすることができなかった、わたくしに責任があります。本当に申し訳ありませんでした」
「リエッタ嬢、謝罪などしないでくれ」
「陛下も決して・・・」
陛下は一度ギュッと目をつむり、目を開いた時には国王陛下として私を見ていた。
「リエッタ嬢が望んでも望まなくても、三日後には挙式してもらうことになる」
「承知いたしております」
「アーロンは立太子させないと約束しよう」
「ありがとうございます」
わたくしは感嘆の息を吐き出さないように気を引き締めました。
「リエッタ嬢の花嫁姿を楽しみにしているよ」
「最上の姿をお見せするとお約束いたします」
陛下の前から自分の身を隠せた瞬間、肩の力が抜けました。
メイドが気遣ってわたくしを見ますが、何も言わず私の前をゆっくりと歩いてくれました。
「ご入浴の用意ができております」
「ありがとう。丁度入りたいと思っていたの」
ゆっくりと湯に身を任せ、吐息が出ます。
全身洗われ、マッサージを受けます。
疲れが吹き飛ぶような気がします。
アーロン殿下との結婚は望んではいないけれど、わたくしが果たすべき義務なので、わたくしは喜んで受け入れなければなりません。
メイドたちに感謝を告げ「今日はもう休みます」と言って一人にしてもらった。
陛下からアーロン殿下の立太子をしないと聞かされた喜びがまた湧き上がってきます。
声がもれないように枕に顔を押し付けて喜びと感謝を口にしました。
「お父様、お母様、親不孝を許してくださいませ」
目をつむると、直ぐに眠りが訪れ、とてもいい夢を見て清々しい朝を迎えた。
アーロン殿下から面会の依頼が来たけれど、傷心のためお会いしたくないとお断りしてもらいました。
昨夜のことは王宮内を駆け巡り、知らぬ者は居ない程に広がっていると、メイドが教えてくれました。
しつこくアーロン殿下から面会依頼はあるらしいけれど、メイド達が断ってくれています。
アーロン殿下ならそろそろ我慢が利かなくなって、押しかけてくるでしょうね。
部屋の前でメイド達が不法者を咎める声が聞こえます。
わたくしは想像通りに動くアーロン殿下にため息一つ吐いて「入っていただいてかまわないわ」とメイドに伝えました。
廃嫡になると分かっていても、まだ殿下ですものね。
この王宮でアーロン殿下を止められる者など、ほんの一握りしか居ないのです。
「アーロン殿下、わたくしは面会したくないとお答えしたはずなのですが」
「それどころではないだろう!!」
「ご自分のなさったことでしょう?仕方ありません」
「だが立太子しないと言われたのだぞ!!」
「わたくしに謝罪もなしですか」
アーロン殿下は一瞬気まずい顔をしたけれど、謝罪はしませんでした。
「ちょっとした戯れだ!」
「そのちょっとしたことで、大変なことになると何度も言ってきましたでしょう?」
「たかが戯れだぞ!こんな大事になることか?!」
「許されない戯れでした。結婚後に愛妾にでもなっていただいて、それからお楽しみになればよかったのです。それに残念ながら今回のことだけが問題になったのではないと思います」
「お前が大騒ぎするから父上がお怒りになったのだっ!!お前から私を立太子するように父上に謝罪しろ!!」
「わたくしが謝罪する理由が思い当たりませんし、その気もありません。そろそろアーロン殿下の相手をするのは疲れてきましたし、アーロン殿下はこれ以上失態を重ねないほうがよろしいのではないですか?ご退室をお願いいたします」
アーロン殿下はまだわたくしに色々言っていますが、聞くべきことは何もありません。
本当にアーロン殿下が鬱陶しくなってきた頃に「騒がしいですぞ!!」そう言って入ってきてくれたのは宰相様でした。
「アーロン殿下、あなたが今、リエッタ嬢の部屋に押し入ることすら失態になると誰も忠告しなかったのですか?」
宰相様はアーロン殿下の側近たちを睨みつけます。
「私が、私の婚約者に会う事が失態になるわけ無いだろう!!」
「リエッタ嬢が嫌がられてる以上、失態になりますよ。いい加減子供のようなことをなさいますな」
アーロン殿下は騎士団に周りを囲まれてわたくしの部屋から出ていきました。
「宰相様、ありがとうございます」
「アーロン殿下の行動は予測しやすいですな」
「本当に・・・」
宰相様と二人、見合って微笑み合いました。
「大丈夫ですか?」
「勿論です。慣れていますからご心配なく」
「嫌な慣れですな」
宰相様は苦笑といっていい笑いを浮かべ、退室していき、部屋の中は静かになりました。
結婚式当日、朝早く起こされ、全身を磨かれていきます。
この国一番の幸せ者として今日結婚式を挙げなければいけません。
けれど、心の中は、自分のお葬式に参列するような気分です。
たっぷりとしたレースが重ねられた美しい真っ白なウエディングドレス。
仕立てるときから思っていましたが、まるで死に装束だと思ってしまいます。
心から喜んでいるというような表情を顔に貼り付けると、メイドたちに「お美しいです」と褒めてもらって、必死で気分を盛り上げていきます。
お父様が私を迎えに来て、お父様の肘に手を添えます。
「お父様、色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「娘が嫁に行くのに、謝罪されるとは思わなかったよ」
お父様のしょぼくれた姿に涙がこぼれてしまいそうです。
「アーロン殿下を上手く導けなくて、お父様にご迷惑をかけた事だけがわたくしの心残りになってしまいました」
「私が取り結んだ婚約だ。リエッタは何も悪くない」
「ありがとうございます。わたくしはわたくしなりに幸せになります。どうか、心配しないでくださいませ」
「ああ。幸せになりなさい」
お父様もわたくしも、幸せになどなれないことは解っています。
いわゆる予定調和というものですね。
閉ざされた扉の前で立ち止まり、扉が開くのを待つ。
私は世界で一番幸せな女。
何度も自分に言い聞かせて、笑顔を貼り付けます。
扉が開き、先に待つアーロン殿下を見たくなくて、伏し目がちに一歩一歩ゆっくりと歩きます。
お父様の体に力が入ります。
なにかしら?
これ以上問題を起こされるのは流石に対応しきれないのだけれど・・・。
「神に感謝を・・・」
父が小さな声で神に感謝を伝えます。
本当にどうしたのかしら?
お父様の顔を盗み見ると、視線は新郎を凝視しています。
私もお父様の視線を辿って新郎の方に目を向けました。
どうして?!
新郎が立つべき場所に居たのは、アーロン殿下ではなく、スレヴァン王弟殿下でした。
お父様は誇らしそうに私の手をスレヴァン王弟殿下へと渡します。
「娘をどうか、よろしくお願いいたします」
「出来得る限りの努力をさせていただきます」
お父様と、スレヴァン殿下の会話を聞きながら、わたくしの頭の中はどうして?なぜ?がぐるぐると回ります。
「どうして?」
私はスレヴァン王弟殿下の手を取られて、スレヴァン王弟殿下だけに聞こえるように尋ねました。
「君が私を次代の王へと押し上げたんだ。責任を取って私と結婚してもらわないと」
「・・・信じられません・・・」
「信じて。どうか、私と結婚してください」
私は心から満面の笑顔で「はい」と答えました。
誓いの口づけをした時には涙がこぼれました。
宣誓書にサインをして、これは夢ではないんだと改めて思いました。
隣に立つのがスレヴァン王弟殿下なのだと何度も横を向いて確認してしまいます。
時折視線が合い、微笑み合います。
まるで夢のようです。
声を上げ、祝を述べてくれる民衆に心からの笑顔で手をふる。
歓声が大きくなり、皆が心から祝ってくれるのが分かりました。
急いで衣装を着替え、続いてスレヴァン王弟殿下の立太子の儀が行われます。
私はスレヴァン王弟殿下を誇らしく見つめます。
わたくしが望んだ最良の結果が目の前にあります。
全ての儀式を終え、二人きりになったのは夜半近くになってから。
「色々順番が違ってしまったけれど、私を幸せにしておくれ。リエッタが幸せで居られるように私も努力するから」
「はい」
手を繋がれ、恥ずかしくて視線が落ちる。
アーロン殿下に好きに扱われる覚悟はしていましたが、スレヴァン殿下と枕をともにすることは考えたこともありませんでした。
頬に手を当てられ、上向かされます。
「不束者ですが、よろしくお願いいたします」
目を閉じると唇に柔らかい何かが触れました。
口づけだと気がついたのは、唇が離れてから。
唇が離れたことが寂しくて、私は目を閉じてスレヴァン殿下に身を任せました。
その夜、私はスレヴァン殿下と一つになりました。
昨日の疲れもあってゆっくりとした朝を迎えて、身支度を整えます。
スレヴァン殿下に口づけられ、恥ずかしくて嬉しいです。
部屋に用意された朝食を二人で食べていると、覚えのある声が扉の向こうから聞こえ、メイド達が必死でとどめています。
スレヴァン殿下は一つため息を吐いて、扉を開けアーロン殿下に入室を許可しました。
「叔父上、私の花嫁をかすめ取るとはどういうつもりですか?!」
アーロン殿下は結婚式から今まで貴族牢に閉じ込められていたのだと告げました。
「知らなかったのか?リエッタはこの国の王妃となると決まっているんだよ。廃嫡される其方とは結婚できないんだよ」
冷静なスレヴァン王弟殿下の冷静さと、アーロン殿下の激昂した姿が、アーロン殿下を一層惨めにさせてしまいます。
「なっ!」
「婚約時に交わされた書類に目を通してみるといい。控えを持っているだろう?用がそれだけなら立ち去ってくれないか?妻と最初の朝なんだ」
「リエッタ!お前は私を愛していただろう!!それをこんなに簡単に乗り換えるのかっ!!」
「申し訳ありません。わたくし、アーロン殿下を愛したことはございません。それにいつも乗り換えられていたのはアーロン殿下だったと記憶しております」
「嘘をつくなっ!!愛してもいないのにあれだけ私に・・・」
「婚約という成約でしたので、貴族の義務として、できうることはいたしました。ですがアーロン殿下では国が乱れると確信しました。なのでアーロン殿下の廃嫡を望んだのはわたくしでございます」
「うそだ・・・私は信じないぞ!父上と叔父上に強要されているんだろう?」
先程までの激昂が嘘のように、わたくしにすがるような目を向けてきます。
「スレヴァン殿下と結婚できてわたくしは幸せでございます」
「ほら、解っただろう。いい加減出て行ってくれ。其方は其方の準備が必要だろう?」
「リエッタ!私を捨てないでくれっ!!」
「申し訳ありません。アーロン殿下のご希望は叶えかねます」
今回もアーロン殿下は騎士団に囲まれて部屋から出されていきました。
アーロン殿下は廃嫡され、王都から一番遠い辺境の地を開拓することを任されることになりました。
随伴するのはアーロン殿下を諌められなかった僅かな側近達と犯罪者として囚われていた人達。それと同衾していたアイリスとその一族郎党。
アイリスは今もあの時に浮かべた、勝ち誇った笑顔を浮かべているのかしら?
一族郎党を犠牲にして・・・。
「アーロンの恨みは私達に向いているから、アーロン達が出立するまでは、リエッタも決して護衛を離さないようにね」
「わかりました。スレヴァン様もお気をつけて」
何事もなくアーロン殿下達が出立する日が明日、だという日、スレヴァン殿下がアーロン殿下とアーロン殿下の側近に襲撃されました。
アーロン殿下達が手にしていたのは鍬や屶だと聞かされました。
スレヴァン様は護衛達のお陰で怪我もなく無事でしたけれど、陛下は「愚かなことを」と言ってアーロン殿下とその側近たちに、子ができなくなる毒を与え、その毒で苦しんでいるのにも関わらず、粗末な馬車に乗せ、辺境の地へと送り出しました。
陛下のお心を思うとわたくしの心も痛みます。
すべての責任はわたくしにあるのです。
浅慮な考えしかできなかったアーロン殿下を諌められなかったわたくしに・・・。
陛下はアーロン様達の行いの責任を取ってスレヴァン殿下に王位を譲ることになりました。
一年後を目処に準備がされています。
陛下はその後も暫くはスレヴァン殿下の後見をしてくれるそうです。
陛下には感謝しかありません。
王妃はアーロン様が辺境に押しやられたことでスレヴァン様に毒を盛ろうとして、陛下に貴族牢に入れられました。
反省が見られるようなら、陛下とご一緒に王都から一番遠い離宮に逼塞するそうです。
反省が見られない場合は毒杯をいただくことになってしまうそうです。
スレヴァン様は慣れない公務を頑張っていらっしゃいます。
勿論私も出来得る限りの手助けをさせていただいています。
スレヴァン王弟殿下は、よい国王として後世に名を残されるとわたくしは信じております。
わたくしは姫を一人と王子を二人産みました。
四人目を授かったと、今、医師から聞いたばかりです。
スレヴァン陛下にはそろそろ側妃を娶っていただきたいと思っていますが、こればかりは聞き入れられないと拒否されています。
わたくしは我が子を愚かな子供にしないよう細心の注意を払っていますが、その子の素質もあるでしょう。
まだ幼い子供達は可愛くて仕方ありません。
アーロン様が亡くなったと知らせが来たのは四人目の子供を産んで直ぐの頃でした。
辺境へと一緒に行ったアイリスとその親族に、屶で頭を潰されてしまったそうです。
アーロン様にとっては楽になれてホッとしているかもしれません。
辺境の地の開拓は一向に進んでいないと報告が上がってきています。
監視者を送らなければならないと先日、決まったところでの犯行でした。
王妃は反省することはなく、スレヴァン陛下を殺害すると言い続け、前国王陛下が毒杯を与えました。
この世界ではない場所でアーロン様を可愛がっていることでしょう。
次回、アーロンの巻き戻り人生が始まります。
全五話予定です。
ここまで長いのはこの話だけです。
日曜日の二十一時更新予定です。