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時戻しの悪魔 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


悪魔は出てきますが、人々には魔力は無い世界です。



「やり直してみない?」



全てを失い、絶望と後悔に取り残された娘に、真っ白なロープの人物はそう呟いた。


「ボクは時戻しの悪魔。君、後悔しているね?時を戻して、やり直したいね?」


様々な辛い過去が、次々と蘇ってくる。どうしてあの時、こう出来なかったのか。どうしてあの時、あぁなってしまったのか。


大切な人は死んだのだ、自分のせいで。もしも、それをやり直せるなら。


「代償は、君は悲惨な最期を迎えること。それさえ受け入れれば、君は時を戻せる。やり直せるチャンスが得られるよ。さぁ、どうする?」


涙でボロボロの娘は、息をするのも精一杯の口を動かし、枯れきった声を出す。



「カーヴェルを・・・大切な人を、殺したくない!!」



その叫びと共に、崩れていく視界。沈んでいく体。どこまでも、永遠に落ちていくような・・・そんな体感だった。





ハッと気付いたとき、娘は自らの体が幼くなっていたことに気付いた。隣には、テムポット公爵の再婚相手として挨拶する母。


(この場面は・・・私が10歳で、母と共にテムポット公爵家に来た日?)


「イザベラ、ご挨拶なさい」


母からの言葉を受け、ハッと我に返る。慌てて貴族の礼儀であるカーテシを、辿々しく行うのだった。


イザベラは伯爵家で産まれたが、数年前に当主である父が急逝。それを機に伯爵家はドンドン困窮に陥り、爵位の維持が難しくなってしまう。そこで母は縁あった貴族を周り、伯爵家の大半の権限を譲る代わりに、援助してくれる者を探していた。そこで片親だったテムポット公爵と出会い、互いの利害一致で再婚に至ったのだ。


「カーヴェル、今日から我が公爵家の家族だ。娘のイザベラはお前と年が近いから、仲良くするように」


そうして出来た義兄、彼こそがカーヴェル・テムポットだ。出会った頃の記憶通りの姿で、記憶通りの声をしている。本当に時が戻ったことに、驚きを隠せない。11歳の少年にしては落ち着きがあるカーヴェルは、緊張気味のイザベラに対して、優しく声をかけてくれる。


「僕は・・・カーヴェル。イザベラ、なのかい?」


「は、はい・・・よろしくお願い申し上げます」


「そう畏まるな、これから家族だろう」


こんなに緊張する自分を、こんなにも気にかけてくれるなんて。この時から彼は、格好よくて優しい人だった。1度目の彼女も、この時に一目惚れしたのだ。


緊張する挨拶を終えたイザベラが部屋に戻ると、見慣れぬ白いテディベアを見つける。こんな人形、実家から持ってきていない。誰かの贈り物かしら?と思った瞬間、テディベアは動き出した。


「やぁやぁ、やり直しの人生はどうだい?知っていることが起こるって、安心だよね」


目の前のテディベアが動いて喋ることに驚いたイザベラ。どうやら自分の願いを聞いてくれた時戻しの悪魔が、身近にいられる姿になったらしい。


「ここは、君とお義兄さんが最初に出会った7年前。当然、知っていることのまま起きるさ。君が行動を変えなければ、全てが同じになる。


カーヴェル・テムポットが、エミリー王女の婚約者になること。


カーヴェルに思いを寄せる君が、仲睦まじい王女様に嫉妬すること。


エミリー王女の婚約披露パーティーで君が彼女と言い合いになって、止めようとしたカーヴェルが誤って王女を階段から突き飛ばし、大怪我を負わせてしまうこと。


この事件からカーヴェルは婚約破棄されて、牢獄に入れられること。


カーヴェルは責任に耐えきれず、牢獄内で毒を飲んで自害すること。


彼の逮捕と死によって失望したテムポット公爵夫妻により、原因を作ってしまった君は勘当されて、路頭に迷うことになることもね」


ぞっと鳥肌が立った。悪魔はそこまで知っているのか・・・。


「まぁどう行動するかは君次第。ここからボクは見張るだけで、君のやり直しまでは手伝わない。


再度言っておくよ。君は17歳には、悲惨な最期を迎える。どんなことがあろうと、そこから逃れることは出来ないからね」


それでも良い、とイザベラは頷いた。元々は自分が罰を受け、自分が死ぬべきだったのだ。1度目の人生で、義兄を殺したといっても過言ではない。自分が死ぬことで義兄を救えるというのなら、どんなことでも受け入れてしまおう。そんな決意だった。


すると、コンコンと部屋の扉を叩く音がする。悪魔はスッと一瞬で、物言わぬぬいぐるみになった。


「イザベラお嬢様、失礼します」


そう言って入ってきたのは、若いメイドだ。黒縁眼鏡をかけた、短い茶髪の女性。


「お初にお目にかかります。本日よりイザベラお嬢様の専属メイドになる、リコッタ・フォルムンと申します。以後お見知りおきを」


「あ、ありがとうございます。こちらこそ、宜しくお願いします」


専属メイド?イザベラの記憶の中では、見覚えのない人物だ。いや、公爵家の使用人は人数が多くて入れ替わりも多い。流石に全員の顔と名前までは覚えられていない。それに7年も前となると、記憶が欠落しているのもあるか。


とりあえず気にすることでは無いだろう、と結論づけておくことにした。



イザベラは人生をやり直す上で、どうするべきか必死に考えた。


1度目の人生でイザベラは、とにかくカーヴェルを愛してしまう。大人になったら結婚して公爵家を継ぐと、信じて疑わなかった。だからカーヴェルがエミリー王女との婚約が決まった際、全く喜べなかった。事あるごとにエミリー王女に嫌がらせを繰り返す、とんでもないワガママ娘になるほどに。


彼は国や公爵家のために王族と婚約したのだ、無理にねじ曲げることもしてはいけない。公爵家の跡継ぎは、婿養子でも迎えれば良いとも言っていたではないか。


自分のワガママが義兄を殺し、自らも破滅させたのだ。まずはこの性格を抑えなければ。自分が嫉妬心から行動しなければ、それだけで何事も無く済む。


最悪な結末を回避するために、カーヴェルとは少し距離があった方が良い。彼女は甘えてばかりだった振る舞いをやめ、適度な距離を保とうと努める。


その言い訳に、勉強はうってつけだ。屋敷外から先生が来ることもあったが、大半は専属メイドのリコッタが担当してくれた。リコッタはとても厳格で、知識ある女性でもあるようで。イザベラのことを厳しく指導してくれる。


文字書きから様々な学問、そして貴族間の礼儀作法まで。彼女が教えてくれたことは、全て身に着けようと努力した。1度目の人生では考えられないほど、勉強してきたのではないか?と思うほどだ。


「イザベラお嬢様。このところ、とても頑張っていらっしゃいますね」


「えぇ、もう私は12歳ですもの。それに義兄(にい)様も・・・エミリー王女様との婚約が決まったでしょう?婚約者の妹が不出来なんて言われたら、見せる顔がありませんから」


カーヴェルがエミリー王女との婚約が決まったのは、つい先日のこと。この時は、家族全員で喜ぶことが出来た。彼が18歳になった時、正式に婚約が発表される。そう、あのパーティーで。


「お嬢様は本当に、お義兄様思いなのですね」


「いえ、それほどでも・・・」


その思いが強すぎた故に歪み、義兄を殺してしまったとは皮肉だ。絶対に今度は間違えない、そう心に決めて勉学に励む。勉強を終えて自室に戻っていると、カーヴェルとすれ違う。


「お義兄様、お疲れ様です」


以前だったらもっと関わろうと、アレコレ気にせず誘っていたモノだ。だが自身も勉強の大変さを知っている今、それは義兄の負担だと分かるようになった。今は自分から無理に誘わないようにしている。


「あぁイザベラ、お疲れ様」


ふと見ると、エミリー王女からもらったらしき花束を抱えている。彼はきっと順調に、王女との友好を深めているのだろう。そう思うとふと、心の奥底から悔しさと悲しさがにじみ出てしまう。


その思いに気付き、すぐに自室へと急ぐ。たくさん話してしまえば、またカーヴェルへの思いを募らせてしまうから。そしてこの感情が溢れ出せば、また義兄を不幸にしてしまうから。そもそも、自分は17歳で死ぬのだ。こんな感情持つのが間違っている。自身の心に鞭を打ちつつ、イザベラは自室に戻る。


「大丈夫?何だか顔色が悪いよ」


ずっと部屋で見張る悪魔が、珍しく話しかけてくる。


「平気よ。少し、昔の自分が顔を出しただけ」


「そっかぁ、それは危険だったね。まぁ頑張れとしか言い様がないけど」


悪魔に励まされるのも不思議な気分だ。とはいえそれが正しいことに、今更不思議な気分になるイザベラだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中」は明日夜に投稿する予定です。

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