1-7
「……ヴィル?」
すると、目の前から俺のよく知った声が聞こえて来たのだ。
それは間違いなく目の前のゾンビから発された声で、そしてその声は間違いなくアリスのものだった。
「アリス……!?」
「え……俺、こんなとこで、お前押し倒して、何してんだぁ!?」
目の前のゾンビは慌てて俺から退き、キョロキョロと辺りを見回している。
「えっと、ここ何処か分かるか?」
「そ、それよりお前……自分の状況分かってるん……?」
「あー……何かココ最近の記憶が無いんだよなあ。気がついたらお前のこと押し倒してたみたいだし、すげー焦ったんだけど」
……改めて目の前のゾンビ……いや、アリスを確認すると肌は病的なくらい真っ白なままだったが、濁っていた目はいつものように生気のある綺麗な青い瞳に戻っていた。
とりあえずコイツは自分がゾンビみたいになってしまったことに気づいていないようだった。
「とりあえず夜も遅いみたいだし?家連れてってくんねえ?俺ここ知らなくてさ」
「気づいたら知らん場所に居たとかだいぶやばいやろお前……」
……なので、俺もそのことについては隠すことにした。
正直、先程のコイツの姿は夢だったんじゃないかと思う程、今のコイツは普段通りに接してきているのだ。
「……ヴィル?」
「……ああ。何や。送って欲しいんやっけ」
「おうよ。俺サマを送らせてやるから光栄に思いやがれ」
「何言ってんねんお前……」
……いや、冷静に考えて、このままコイツを家に送り届けてもいいのだろうか。
また、先程の状態になってしまったら……?
今度は家族を襲ってしまったら……?
「……アリス」
「おう!どーした?」
「とりあえず今日はホテルに泊まろか」
「え!?何で!?」
幸いうちの家は裕福で、俺の小遣いも決して少なくはない。ホテルに泊まることも可能だろう。
しかし今は深夜だ。この時間に空いているホテルと言えば……まあそういう場所になってしまう訳だが。別に男同士やし。そういうことする訳やないし。
「行方不明になっとる間の話聞きたいねん。行くで」
「えっ、いや俺記憶無かったんだって。ちょ、マジで行くの!?ええっ!?」
ギャーギャー煩いアリスを無理矢理引きずって、俺はそういうホテルへと向かうのであった……。
第二話に続く……