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「……はよ、」
「あっ、来た!」
あのチビとあんなやり取りをした次の日。
いつものように怠そうに教室に入る俺に食いついてくる奴なんて、アイツしかいないと思っていた。
……だが、話しかけて来たのはアイツ……では無い。名前も知らない女子生徒だった。多分、クラスメイトだとは思うが。
「……?どないしたんや、俺に何か用か」
「ヴィルくん!アリスくんが何処行ったか、知らない?」
アイツ……アリスはクラスメイト全員から好かれており、皆からあだ名である《アリス》と呼ばれていた。勿論、女子からもだった。
そしてアイツがヴィルと呼ぶせいか、俺も周りからヴィルと呼ばれているのだ。
いや、そんなことはどうでもいい。というか、アイツが今何処にいるかなんて、今登校してきたばかりの俺が知る訳が無い。
「はあ?知る訳ないやろ。俺かて今学校に来たとこやぞ」
怠そうに返事をしてやると、女子生徒はぶんぶんと首を振る。
「そうじゃなくって!昨日一緒に帰ったよね!?」
「……ああ。まあ、せやけど」
俺がアイツと一緒に帰ったことの何が問題なのだろうか。質問の意図が見えなくて、段々腹が立ってくる。
「アリス、昨日から家に帰ってないらしいぞ」
俺の疑問には、側にいた男子生徒が答えてくれた。
「……はあ?」
「お前、間違いなくアリスと一緒に帰ったんだよな?アリスが何処に行ったかとか、知らないか?」
……知らん。
だって、アイツの家はもう少し先のアパートで、俺の家の方が先に着くからそこで別れた。
その後は、普通……そのまま家に帰ってるって思うやろ。せやから、何も連絡せんかった。
だって、だって。今までそれが普通やったし……。
でも、帰ってへんとか、何で……。
「おい、ヴィル!」
「……!」
トリップしそうになり、男子生徒の声で慌てて現実に帰ってくる。
「あ……すまん」
「その様子じゃ、別れた後のことは知らないみたいだな」
「……おう。俺の家の前で別れて見送って、その後は知らん。普通に帰ったと思っとったけど……」
「てことは、アリスが居なくなったのはお前の家からアリスの家までの間ってことか」
普通に考えてそうなのだろうが、俺の家とアリスの家の距離はそこまで遠く無い。
つまり、アイツはそのたった短い距離の間で、行方不明になった。
でもそんなことが有り得るのだろうか。
アイツのことだ。友達の家にでも泊まりに行ったのでは無いだろうか。
……いや、家に連絡をしないなんて、有り得ない。そもそも今朝登校して来ていないのが有り得ないじゃないか。
アリスは小学校から今まで一度も学校を休まなかったし、遅刻すらせんかった男やぞ。
「……すまん。早退するわ」
「……!?ちょ、ヴィル……!?」
俺はいてもたってもいられなくなり、教室から飛び出した。