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「ヴィル!俺とコンビ組まねえ!?」
「だが断る。しつこいねんお前」
コイツからの誘いはもう何回目だろうか。
そして、俺がその誘いを断るのも。
俺は寺本輝薇瑠。ごく普通の高校一年生。
いきなり読めないような漢字出してくるなって?……アホ。それは俺も言いたいわ。
苗字である寺本は普通に読めるとして、問題は名前。《輝薇瑠》と書いて、《でびる》と読む。
子供につけるにしては何とふざけた名前だろうかと親を小一時間程問い詰めたい。母親の産後ハイのせいでこうなってしまったらしいが。
この名前と関西弁のせいで幼少期は随分虐められたものだ。
幼稚園や小学校ではデ〇ルマンと呼ばれたり、親や親戚からはデビちゃんと呼ばれた。可愛ないねんボケ。
「うー……今回もダメか。だがしかし!俺は諦めねえ!だって俺サマだから!」
このサラサラの金髪のアホは有栖川璃輝。リキではない。リデルなのだ。
身長150cmのチビ野郎。あだ名は小学生、俺の中では。
困った人を見過ごせない根っからのお人好しで、高校に入学してすぐにクラスの中心人物だった。
何でそんな奴が俺みたいな陰キャに構うかというと、腐れ縁というか、まあ……幼稚園から一緒の幼馴染というやつで。
俺はコイツを避けているつもりだったのだが、この小学生は俺にどれだけ避けられようとずっと俺に付き纏ってきた。
「……いいと思うんだけどなあ。デビルリデル」
「おい待て。そのふざけた名前をコンビ名にするつもりちゃうやろな」
「ふざけてねーよ!お前の名前を先にしてやってるじゃん!」
「そういう問題ちゃうわ!つーか、漫才とかやらんし!」
このチビ小学生は俺の名前と俺の関西弁に目をつけて、事ある毎にコンビを組もう組もうと付き纏ってくるようになったのだ。
つーかこのアホ、関西人なら誰でもおもろいとか思ってるんやろうな。ンな訳あるかい。
「つーかお前……金髪にしたん……?」
「おう!高校デビュー!」
「高校デビューなら、入学する前にやらな意味無いやろ。今、5月やし」
元々地毛が茶髪で目立つような奴だったが、金髪にすることによってコイツは更に目立っていた。
「普通と違うのが俺サマ、アリスサマだぜ!……てなワケで、俺とコンビ組まねえ!?」
「……だが断る」
同じ日に2回誘われたのは初めてだったが、俺はお決まりの言葉でコイツの誘いを断るのだった。