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俺は半ば八つ当たりのようにアリスに怒鳴りつけた。でも、ゾンビになってしまっているアリスに怒鳴りつけたって反応する訳が……。
「……ヴィル?」
……反応、しよった。
「また俺記憶飛んでたっぽいんだけど。え、またヴィルに何かしちゃったのか?」
「……まあ、疲れてたみたいでいきなりこっちに倒れてきよったんや」
「うわ、マジごめん!」
アリスは慌てて俺から飛び退く。何やこれ、見たことある展開やな……。
「……ええよ。お前が無事なら、それで」
俺は埃を払って立ち上がる。
「え、すげー優しいじゃん。神かよ」
「残念ながら人間や」
コイツは反応がいちいち大袈裟だな、とため息をつく。
「ほら。お前もめっちゃ疲れてるみたいやし、さっさと向かうで」
「おう!別荘楽しみだなー!」
アリスが鼻歌を歌いながら俺の後ろをついてくる中、俺はあることを考えていた。
やはり、アリスはゾンビになってしまうらしい。
いや、今も間違いなくゾンビなのだが、あの言葉が通じず見境なく襲ってくる状態のことだ。ややこしいのであの状態のアリスのことは《ゾンビモード》と呼ぶことにする。
そのゾンビモードに切り替わるタイミングや条件が全く分からない。これを特定しない限り、俺はいつやってくるか分からないゾンビモードに怯える日々を過ごすことになる。
……いや、それよりも大事なのはゾンビモードから通常のアリスへ戻す方法だ。
戻る条件は……恐らく俺の言葉に反応しているとは思うが、全ての言葉に反応している訳では無さそうだ。
俺の言葉で元に戻るのならば、名前を呼んだ時点で戻っている筈。
つまり、何か特定の言葉に反応しているのだと思うが……それが分からない。
俺だって襲われている時はいっぱいいっぱいで、何の言葉を発したかなんていちいち覚えていられる訳が無い。
ただ、ゾンビモードになる条件よりも、ゾンビモードから元に戻す条件を探す方が手っ取り早そうだ。
とりあえず、何とか昨日と今日の俺の言葉を思い出してみないと────────
「……ヴィル!ヴィルってば!!」
「……!何や。呼んでたんか」
「何度も呼んでるっつーの!お前、考え込むと自分の世界に入り込んじまうとこ、あるよな!」
……そうだったのか。あまり自覚は無かった。
「悪いな。……で、何やねん」
「家!着いたぞ、って!」
「……ああ、さよか」
俺は考え込み過ぎて、思わず家を通り過ぎるところだったらしい。それでアリスが慌てて引き止めてくれた、ということだ。
「……デカいな、家」
「おうよ。俺さ、何回も住所確認したもん」
次期当主サマは相当気合を入れて別荘を選んでくれたらしく、俺達が住む家は俺の想像していた2倍以上の大きさだった。