22.「音速雷撃隊」爆誕!(2)
-大分海軍練兵場-
「これが2号艦攻だと?別物じゃないか!」
大分海軍練兵場で慣熟訓練をを行っている海上護衛総隊旗艦「扶桑」航空隊の艦上攻撃機、試製九七式2号改艦上攻撃機(三菱九七式2号改艦上攻撃機)を見た村田少佐は思わず声を上げた。
「志賀少佐。あなたも見てきたほうがいい」
との事で、業務を相川中尉に放り投げて大分練兵場にやってきたのだが、目の前のこれが九七式2号艦攻だとは思わなかった。(言い訳がましくなるが「変な機体があるなぁ」とは思っていたのだ)
記憶の中の2号艦攻と目の前の2号艦攻改とを重ね合わせてみたが、まず機首がおかしい。原型の2号艦攻も「金星」発動機搭載のため頭でっかちの感があったがこれが更に酷くなっている。
プロペラも4翔になっていて印象が全く違う。いやこのプロペラ・・・どっかで・・・追浜で見た記憶がある。
それと操縦席がかなり後方にある。従来の偵察員席に操縦士が、偵察員席が電信員席になっているようだ。電信員の乗る場所はないが、海上護衛総隊の任務は護衛任務なので航法を必要とする距離の飛行は行わない。電信員(航法員)は必要ないのかも知れない。
大きく異なるのは主翼だ。従来の固定脚から引き込み式に変更されており翼面積も小さい。速度向上が目的なのだろうが発動機の重量増と操縦席位置を考えると操縦性は期待できそうにない。
外観の一番の特徴は胴体下部から後方に開いた開口部だ。しっかりと奮進装置が突っ込まれていた。と、言うことは噴進装置を使用した訓練ということだろう。
いろいろと考えながら2号艦攻改を眺めていると、訓練に向かおうとする搭乗員(操縦員)を捕まえた村田少佐が質問攻めをしていた。
「発動機は「火星」です。電信員は偵察員が兼任するので2人乗りです。雷爆撃は操縦員と偵察員、どちらでもやれるようになっています。一見、別物に見えますがコイツは間違いなく2号艦攻です。エンジン交換で最高速度は480キロ。改造前よりも100キロ優速です。自分の機体は排気タービンが装着されていますので最高速は520キロは出ます。これに奮進ロケット点火で100キロ程上乗せできます」
彼の機体のエンジンカウルには赤地に白文字のステンシルが描かれていた。なるほど、特別仕様ということかか・・・先程の村田少佐の歓待ぶりといい、来島社長はずいぶんこれに入れ込んでいる様だ。
「時速620キロ・・・すごいな・・・」
「自重が増えたのと翼面積が小さくなったので操縦性は悪化してます。下方の視界も悪い。できれば軽空母への着艦はしたくないと思ってます。唯一の利点は速度だけなんですけど新型艦攻はこれより更に速いらしいですから早晩、お役御免になる機体です。航続距離も短いので護衛総隊専用機といったところですね。ご存知ですか?ウチ(扶桑)には同じ機種が4機以上ないんですよ」
「速度が速いのは良いことだ。生き残る確率が高くなる。で、その模擬弾?新型魚雷か?」
機体下部に懸架されたコンクリート製の模擬弾は九一式航空魚雷魚雷よりも1m近く寸詰まりに見える。また外径も一回り小さい。魚雷とは思えないのだが航空爆弾の様に弾体後部が絞り込まれている訳でもない。航空魚雷を切り詰めた様な形状だ。
「まだ「実物」を目にしてないので何とも言えないんですが、「魚雷」なのかもしれません。普通の航空魚雷は(高速投下に)耐えられなかったんです。以前、航空魚雷の投下試験をしたんですが、着水の瞬間ポッキリ、ほんと、ポッキリ折れました。来島のおっさんはアタマ抱えてましたけどね」
「・・・」
「で、これで水平爆撃するのか?」
「いえ、ウチの相手は小物ですんで爆弾で雷撃します」
「爆弾で雷撃・・・だと」
「ええ。装甲の薄いフネ相手なら十分です。とっかかりが難しいんですが速度と距離感は十分掴めましたし、投弾チャートもほぼ完成しました。もしかしたら雷撃よりも簡単かも知れません」
村田少佐の表情が変わった。
「おい!乗せろ!ぜひ見てみたい!」
「いや・・・普通の艦攻なら3座なんですがコイツは複座なんで・・・」
村田少佐がこちらを見た。うん。分かってる。自分も見てみたい。
「二式練習戦闘機があります。操縦は自分がやります」
「頼む。おい!訓練はしばらく待ってくれ!俺もついて行きたいんだ!」
「別に構いませんが、干潮時は訓練ができないので急いでくださいね」
かくして海上護衛総隊の訓練開始を連合艦隊第一航空艦隊飛行隊長と日出独立航空隊副長の連名で強引に遅らせ、「扶桑」航空隊4機と日出航空隊練習機1機が周防灘に飛び出した。
「志賀!もう少し速度は出んのか?置いてゆかれてる!」
伝声管から村田少佐の声が聞こえてくるが、こっちは目一杯。無理なものは無理だ。しかし・・・艦攻も速くなった。実際、あの速度で艦隊に突入されたら迎撃機も大変だろう。正に「速度は正義」だ。その正義を振りかざしているのが我が日出飛行隊なのだが・・・。
「艦攻の後方で距離を空けて追尾します!噴進装置点火時には後流をまともに受けるので揺さぶられます!注意してください!」
「了解した!」
伝声管に叫ぶと即座に返事が返ってきた。恐らく実戦でもこんな感じで指揮を執っているのだろう。戦闘機乗りは1人だが、艦爆、艦攻、偵察機は複数名が乗り込む。妙な安心感が湧いてくる。出力に余裕がある場合は複座型の戦闘機というのもありかも知れない。何せ「機上電探」なるものの開発も進んでいるらしい。そうなると操縦の片手間に電探の操作なぞできない。
そう考えながら日出航空隊専用周波数から両子山を呼び出す。
「両子山管制。志賀0番だ。周防灘飛行中の「扶桑」航空隊に伝言を頼む。内容「訓練ヲ開始サレタシ」だ」
「両子山管制了解」
即座に若い女性の声で返事が飛んでくる。そして十数秒後、「扶桑」航空隊は増速しながら高度を一気に下げ始めた。
「始まった!村田サン!行きますよ!」
赤地に白ヌキのステンシル貼付機は最初から考えてました。
今回のびっくりどっきりメカは九七式2号艦攻です。
既存機体の(魔)改修なので費用もあんまりかからないかも知れません。
排気タービンは海から拾ってきたヤツです。
会話の部分がしっくりこなかったのでちょっとだけ修正。




