14.燃える商魂~来島無双!~
「米軍が来たって!で、どーなってる!」
A10射出が続く中、九州に覇を唱える別府造船グループ総裁来島義男別府造船社長は迎撃管制室に飛び込んで来ると同時にそう叫び、迎撃管制を執っている志賀少佐に詰め寄った。
さすがに自分の手がけた部隊が気になるのだろう。ここは安心させるべきだ。志賀少佐は落ち着いた態度で来島社長に現況を簡潔に述べる。
「A10を射出中です。あとは彼等に期待しましょう」
これで安心するかと思われたのだが来島から戻ってきた言葉は予想外だった。
「馬鹿もん!あまい!米軍の機体が手に入る絶好の機会だとなんで考えないの!こ~ゆ~時はさっさと動かにゃならんのだ!これだから軍人は・・・」
とまで言って気がついたのか来島は志賀少佐への態度を改める。
「・・・あ~志賀少佐。こ~ゆ~火事場泥棒みたいな事には慣れておられんでしょうが今回はこの来島に協力していただけんでしょうか?少佐には対外的に色々圧力やら要請を上げてもらわんといかんのです」
「しかし迎撃の指揮は・・・」
「迎撃?成功するに決まってるでしょ~!今やらにゃならんのは敵爆撃機の回収と解体ショ・・・分析です。少佐は敵爆撃機の墜落状況、特に墜落位置の情報を「対策本部」に報告して下さい。今ウチ(別府造船)の中に臨時に立ち上げてます。
対策本部の対策ですか?そりゃ機体回収に決まってます!本館大会議室に設置してますんでよろしく!あと多摩の坂井中佐と追浜の海軍航空技術廠に爆撃機と発動機に詳しい人間を即刻派遣するよう要請してください。「躊躇してると別府造船に全部かっさらわれるぞ!」と発破かけてください!こっち(日出)へは空路がいいでしょうから宇佐と大分の滑走路を使えるよう海軍に根回しをお願いします。
あと、海上護衛総隊へ対潜哨戒機の出動を依頼しますので、少佐からも口添えをお願いします。ここ(迎撃管制室)には専用電話と交換手を寄越しますので!んじゃ!」
時間にしてわずか1分足らず。嵐のように現れた来島は志賀少佐に厄介事を押し付け嵐のように去っていった。
-別府造船大会議室-
何本もの電話線が引き込まれた会議室中央にはかねてより用意されていたらしい九州北部朝鮮半島までが描かれた大地図が鎮座。周囲の事務員も全身から緊張をみなぎらせている。そう、あの「土佐丸命名騒動」以来の別府造船事務部門の総力戦が始まろうとしていた。
ここには日出航空隊及び迎撃に向った各地の飛行部隊からの情報が逐一内線電話で送られて来ている。地図の上には既に墜落した爆撃機を意味する赤いコマが既にいくつか置かれていた。
その会議室の隅で来島社長がハイテンションで受話器に怒鳴りつけていた。
「もしもーし!別府(造船)の来島だ!今空いてる艀はいくつ?4隻?よっしゃ!全部出してくれ!費用はこっち(別府造船)持ちだ。米軍の爆撃機がドコドカ落っこちる事になってんだ。そいつ(の回収)だよ。墜落場所?わかり次第連絡する。無電はあるよな?急いでくれ。ああ、1mでも近い方がいいだろ?陸海軍に高値で売りつけてるからウハウハだぞ!おう、フネの詳細をこっちに連絡してくれ」
電話を切った来島は秘書に新たな指示を出す。
「博多湾近辺の手すきの艀は全部出させた。各社から詳細が入るから会社名と出港地、艀の大きさを記録しといてくれ。軍からふんだくったカネの配分やる際に重要になるからきっちりやってくれよ。それと「十勝2」は出た?よろしい!経理部長に文句言われながらも係留しといてよかったぁ!」
「ケチ以外の何者でもない」と称される経理部長の「無駄だからさっさと(陸海軍に)貸与しろ」の文句に耐え続けて、大神工廠沖に係留されていた特殊浚渫船「十勝2」。「おおが」級戦時輸送船の船体を延長して2隻をつなぎ合わせた双胴船は普通の輸送船の倍の維持費が必要だ。
いつもは経理部長の言いなりの来島だったが「十勝2」の係留には異様にこだわった。その結果が実を結ぼうとしていた。来島には「商機を強引にたぐり寄せる才能がある」と称される所以だ。
普通なら、「石橋を叩いて、叩いて、叩いて!結局渡らない」慎重居士というか臆病な経営者なのだが・・・。
「中島さんに繋がんないの?「緊急事態だ」って何が何でも呼び出して!あと三菱は?本社代表でかまわんから「米軍の軍機が手に入る。下手してると中島(飛行機)に全部持って行かれるぞ」と脅せ!。あと高畑さんとこに(敵爆撃機の)按分作成を依頼してくれ」
軍隊より先に企業への利益配分を怠らないところは流石だ。
「宇佐飛行場にクルマは回した?坂井中佐は陸軍なんで海軍の連中はそこまで面倒みないだろ?え?海軍がクルマ用意してるって?へぇ~アタマ回るヤツいんのね・・・」
「新聞屋は呼んだか?記者が不在?「帝国の秘匿兵器の独占取材させてやる。記者がいなけりゃ社長が来い」と言ってやれ!嘘?あいつらもその程度織り込み済みだ!今時大嘘書いてない新聞が世界のどこにあんだよ!」
「福岡の支社から博多湾近辺の漁業会に人を走らせろ!対馬は電報でも電話でも使え!人手が足りなきゃ博多の系列会社を駆り出せ!漁師に爆撃機の墜落位置特定と米兵の拿捕を依頼するんだ!日出と大神の漁船は大抵ウチの魚探乗せてるから「是非に!」と懇願しろ!それと米兵は丁寧に扱え!
・・・あ・・・ヤベ・・・漁師じゃ英語だめだよな・・・あ~「むよれこ丸」に造船所警備の陸軍サンと英語のできる造船所事務員を乗っけて全速で向かわせろ!陸さんは武装させろ!米兵とドンパチやる可能性もあるから憲兵より陸さんの方が頼もしい。陸軍サンには米兵向けの簡単な英語を教えとけ!何がいいって?「ざ、じゃぱにーずあーみーはずのっとらてふぁいどぢゅねーぶこんべんしょん(The Japanese Army has not ratified the Geneva Convention)」だ!」
「社長!中島社長です」
「よっしゃ!よこせ!中島さん!来島だ!米軍の爆撃機がやってきたんで叩き落とすぞ!30機くらいだ。おう!部品取り放題だ!こっちに技術者を回してくれ!これでZ機の排気タービンの問題が解決するかもしれん」
~来島のたたかいはこれからだ~
「ターボ!ターボ!うひゃひゃひゃ・・・全部回収できれば200個以上だ!「あれ」の開発ネックが解消されるぞぉ~」
「・・・相変わらずセコいですね。派手にやるとまた軍から文句が来ますよ?」
「言わせときゃーいい。アイツら拾いたくても拾えないんだろ?んじゃ拾ったモン勝ちだ。米軍が返せといえば返してやるけど、それでも2割はもらう。経理部長に文句言われながら「十勝2」を大神に係留しててホントよかったよ。早速引き上げてエンジン回収だぁ!あ、軍が寄越せと言ったときの経費計算だけどさ、営業部長に盛大に盛っておいてくれと連絡しといて!ぼったくるのは今しかないということで。あと爆撃照準器が無傷で手に入ればいいんだけどなぁ~」




