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1.坂井中佐の当惑~本当に兼務なのか?~

-昭和18年2月下旬 陸軍多摩飛行場-


「近く九州の日出に陸海軍合同で飛行戦隊が新設されることになった。「陸海軍合同独立日出飛行隊」というのが正式名称だが、坂井中佐と海軍の志賀少佐にはこれの指揮運用にあたってもらうことになった。一からの運用になるがよろしく頼む」


 陸軍航空審査部長、阪口中将からの呼び出しでニューギニアで鹵獲された戦闘機の地上調査を行っていた私が調査を中断し審査部の応接室に入室した。と、開口一番こう切り出された。

 なるほど。今月に入っていきなりの二階級昇進人事はこれの伏線か。航空機審査という裏方で万年大尉で軍歴が終わるものと半ば達観していた私にとって、この昇進は胡散臭さ満点だった。

 阪口中将は「陸海軍合同」と言った。要は海軍に舐められないよう、下駄を履かせたということだ。この場合立場を愛するべきなのかそれとも現実を愛するべきなのかは微妙だ。

 審査部応接室の一番広い部屋には、現在の私の階級より1階級下の海軍少佐(航空技術廠の志賀と名乗った。航空技術廠所属ということは私と同業らしい)と高級そうな背広姿の初老の紳士・・・褒めすぎた・・・こすい商売で小金を儲けている成金親父といった風体の男が案内されていた。特に機密保持に厳しい軍事施設民間人が訪れるのは珍しい。無論、海軍少佐の来訪など珍しいどころの話ではない。



「・・・何だ・・・これは・・・」



 手元に配られた「極秘」の印が押された資料を開いて見て思わず声が出た。陸軍の書式を完全に無視して作成されたらしい資料の最初のページ見開きには日出飛行隊で運用される機材の図版と三面図が掲載されていた。

 大空に憧れて陸軍飛行学校の門を叩いて以来、ありとあらゆる種類の航空機に乗ったと密かに自負している私にしても、そこに描かれている外観図と大雑把な三面図は今までに全く見たことのないものであった。

 どうやらここ(陸軍航空審査部)で初めて図面を見せられたらしい海軍の志賀少佐は私以上に驚いている様だ。というか表情に怒りさえ見える。阪口中将は・・・言うまでもなかろう。



「これは日出飛行隊で使用される機材。陸海軍と別府造船が共同開発した「重迎撃機」A10です」



 どう見ても航空関係の仕事をしているようには見えない背広の男(来島というらしい)が図面の航空機「らしきもの」を偉そうに説明した。陸軍のありとあらゆる機体の開発計画はここ(陸軍航空審査部)を通るはずだがこのA10の存在は初耳だ。というかこの機体では審査以前の問題になるだろう。断言できる!



「翼面積が少なすぎるのでは?飛ばないことはないだろうが、まともな戦闘機動は無理だ」



 志賀少佐は図面からおおよその翼面積を割り出して運動性能を予測し、戦闘機動を行う機体ではあり得ないという点を明確に指摘した。私も同意見だ。ここは同調しておこう。



「速度重視だとこれで1つの解かもしれません。が、運動性能は極端に制限されますよ?」



 言外に「素人はこれだから」と匂わせたが、来島氏は少佐と私の指摘をなぜか笑顔で受けると彼の考えるところの「重迎撃機」について語り始めた。

 


「そのとおり!さすがですね!ええ、ええ!コイツは極端な単機能機なんです!コイツの獲物は成層圏を飛ぶ爆撃機です。それ以外は一切考えていません。というか、考えてたらな~んもできなくなります。

 私は航空は素人ですが、本業の造船では「万能」とか「高汎用」というのは営業の口上としてよく使われますが、実際は(開発が)難しいんですよね。

 要求をテンコ盛りするんで結局どっちつかずの半端な性能になるんです。なので思いっきり単機能に振った。その結果です」



 なるほど。地上検査中の機体(キ84)も「万能機」を目指しているため問題が多い。「あっちを立てればこっちが立たず」というやつだ。資源の少ない我が国に物量戦は期待できないため自然、過剰な性能が開発の要件に盛り込まれる。「万能機」の開発が難しいという来島氏の考えはあながち間違ってはいない。



「守備範囲も当面北九州と日出だけです。大神とか八幡がヤられちゃったら大変ですからね」



 大神・・・我田引水か。来島という名前に覚えがある。陸軍で儲けてる別府造船という会社が大神にあった。うん「こすい見た目」は間違ってない。

 来島氏の人物判断に自分が及第点を出したのを気付いてか気付かないでか、目の前の「こすい見た目の」親父は話を続けた。



「いやぁ~米軍の最新爆撃機がぼつぼつ前線に配備される頃なんじゃないかなぁ~と思うんですよ。それも数百機単位で。

 あっち(米国)は物量の国ですから。で、コイツを作ったんです。確かにコイツは格闘戦能力皆無ですし航続距離とかいう立派なものはありません。全く!これっぽっちも!ただぁ~し!海軍の零式や陸軍の一式が止まったハエに見えるほどの速度性能と、強力無比の米国製37ミリ機関砲を2門載せてる。重防御の爆撃機でも当たりさえすればお陀仏です。加えて!性能評価中の補助兵装もかなり期待できる。A10の攻撃を耐えようとするならば、戦車を空に飛ばすしかありません!」



 実業家の戦力予想と、それに対応する「重迎撃機」は私の予想を大きく上回っていた。米軍の爆撃機が百機単位で配備されるだと?それと今何と言った?米国製37ミリと聞こえたが?



「私は新型爆撃機の戦力化というか、本土爆撃の準備完了は少なくとも半年、いや8ヶ月くらい先だと考えてたんですが、ヒトラーが無責任におっ死んじゃったんでヨーロッパは戦争をやる理由がなくなっちまった。で、米国はヨーロッパのB-17乗りを引き抜いて新型爆撃機要員への機種転換をやってる最中じゃないかと思うんです。ええ、これはある程度根拠があるんです。

 これだと戦力化が前倒しになります。恐らく3~4ヶ月で数百機が戦力化される。攻撃目標はずばり!本土です。あっち(米国)「にも」戦争キ○ガイがいるでしょうし、基本、奴らは白人至上主義です。非戦闘員の黄色人種がいくら焼け死のうが気にすらしない。インディアン(ネイティブアメリカン)の虐殺なんかがその証拠です。ね?かなりまずいでしょ?ぶっちゃけ詰みなんですよ。

 A10がいくらあっても、いや本土の全戦闘機をかき集めても対処できません。でも大丈夫!米国はそこまで待たないし、待てない。そこに付け入る余地がある」


 ヨーロッパでは英米仏とソ連が表面上は同盟関係を維持しつつ、水面下では熾烈な陣取り合戦を行っている。「戦争」は終結し、同盟国間で新たな「戦争」が始まっている。

 当然余剰戦力は「終わってない」戦線に投入される。来島氏の読みは間違ってないだろう。「使えるものは使う」は当たり前だ。

 私の予想ではB-17を機体ごと太平洋方面に配置。基地となる場所(フィリピン、ニューギニア辺り?)を確保し帝国本土を爆撃半径に納めてからだと思っていたのだが、来島社長はB-17の乗員をまるごと新機種に転換すると読んでいる。貧乏性の帝国軍人では到底予想できない金満家の戦略だが、我々が相手をしているのはその金満家が山ほど存在するアメリカだ。一考するに値する。

 数百機の爆撃機が恒常的に飛来するとなれば確実に我が国は負ける。内地にはそれを迎撃するだけの戦闘機も搭乗員もいない。しかし来島氏は「米国はそこまで待たない」と言っている。なぜだ?



「米国はぜってぇ!十分でない戦力で本土攻撃を敢行します。数がすべての爆撃にとって戦略的には下策中の下策ですが間違いなく仕掛けてきます。

 米国の普通の爆撃機運用は頭数が最低でも数百機程度戦力化されるまで、「待て」なんです。数で押す!それば米国流です。そこらへんの常識は太平洋方面の司令官連中のアタマんなかにはあると思うんだけど、頭ん中に花が咲いている大西洋方面の司令官は日本何するものぞと「レッツラゴー」で攻勢を迫っているはずです。で、ルーズベルトは大西洋組に乗る。必ず乗ります。

 ルーズベルトは再選を狙ってます。狙わないと駄目なんです。米国は負けが込んでる。選挙に負けたらこれにありとあらゆる責任をおっ被せられる。世の中のありとあらゆる悪しき出来事は「ルーズベルトが悪い!」にされるんです。だから絶対落選できない。落選したら人生詰みます。よって見栄えのいい「戦果」がどうしても必要なんです。今すぐにでも!

 ヨーロッパの「勝利」は棚ぼた勝利なんで国民受けが悪い。美味しいところはアピール上手なチャーチルとかドゴールに持ってゆかれてる。勝った勝ったと騒いでいるのは米国だけじゃない。そう!ルーズベルトは「米国だけの勝利」を喉から出るほど欲しがっている。だから不十分でも本土攻撃を敢行せざるを得ないんです」



 来島氏の戦況分析が本当なら、せっかく勝利を収めたのに選挙のためにだけに極東に異動させられ我が国の爆撃任務に就かされる米軍の爆撃機乗りが大量にいることになる。少々哀れに思えてきた。



「米軍は比較的小規模・・・そうですね・・・まずは様子見で50機程度で渡洋爆撃を敢行してくる。理由?爆撃機基地の基盤整備に時間がかかるからです。ヨーロッパから機体と搭乗員、整備員やら予備部品やらその他いろいろをまるごとこっち(極東)に持って来なきゃだめですからね。この大所帯を収容する場所が必要になります。

 私は中国奥地、重慶あたりが爆撃機の基地になると見ています。飛んでくる前にこっちからの攻撃すりゃいいんでしょうけど、場所が場所だけに難しい。重慶爆撃はアメリカとドンパチやる前から華々しくやってますが一向に効果がない。爆撃は数揃えないと効果がないというのはコイツ(重慶爆撃)が教訓ですわ。

 結局こっちに飛んで来たヤツ(爆撃機)を叩き墜とすしか方法がないんです。

 この様子見部隊をを全部叩き落とす。これは必須条件です。

 初撃が失敗に終われば米国は原因追求のため爆撃の継続を一時中断します。奴らは慎重ですからね。全部叩き墜とせば調査の材料、すなわち操縦士の証言が得られなくなりますから調査は更に遅れます。

それと爆撃機が1墜落すると、おおよそ10人がおっ死にます。10機撃墜すれば100人です。初撃が50機だとすると500人の損害です。

 人間は機械と違って量産できない。それなりに使えるようになるまでには最低十数年かかる。操縦士だとそれから最低でも1年以上はかかる。そんなわけでひたすら飛んでくる爆撃機を叩き墜とし、ヨーロッパから引っ張ってきた爆撃機乗りの在庫が枯渇すれば結果として爆撃機を飛ばすことができなくなります。

 で、爆撃機を墜とす都度こっちは、ベテランの爆撃機乗りがルーズベルトの無謀な命令で多数死ぬことになったとに宣伝してやります。そうすれば更に時間稼ぎができます。

 なにせ米国民の中では「戦争は終わった」と思われてる。

 こっち(太平洋)でも大規模戦闘はこの2月から行われていません。極東の小島との戦争なんてとうに意識の外です。で、そんな中「ヨーロッパから戦争終結で帰国するはずの爆撃機乗り」が戻ってこなかったら、国の家族はどう思うでしょうか?そう、米国は本土爆撃を躊躇するようになります。

 向こうは定数が揃うまで、こっちは戦争資源がなくなるか?あっちの大統領が落選するかという我慢比べです。こっち(日本)にはいささか分の悪い勝負ですけどね」



 理にはかなっている・・・様な気がする。世論に負ける形で準備が整う前の攻撃というのも何となく理解できる。世論に押される形で全世界を敵に回して戦争を始めた国を私は知っているからだ。となると、勝利とまではいかなくても「少しはマシになる」には来島氏が言う「ルーズベルトの再選阻止」しかない。



「本土爆撃を敢行するには少なくとも本土の半径1500キロ圏内に橋頭堡を築くことが必須だが、現在の戦況は我が軍が圧倒的に有利だ。来島さんは爆撃機の発進基地が重慶だと言っているが、距離的に不可能ではないのか?それとも航続距離の長い爆撃機が米軍にあると?」



 阪口中将が疑問を呈した。この親父。何か軍の知らない情報を握っているのかも知れない。「こすい見た目の親父」の見た目は本当に正しいのか? 

 阪口中将の問いに来島氏は偉そうな顔で答えた。



「私は爆撃機に一番必要なものは航続距離だと考えています。B-24は片道1600キロの航続能力があります。米軍はこれを超える機体を開発していると見做すべきです。阪口中将は審査部の長を務めていらっしゃる。坂井中佐、志賀少佐も新型機開発に携わっていらっしゃいますよね?

 陸海軍から要求される「後継」「新型」ってぇのは以前の機種をあらゆる面で上回ることを要求されてるんじゃないですか?だから米軍も「長距離攻撃ができる爆撃機を開発して戦線に投入する」と考えざるを得ない。

 「Z機」。帝国が血眼になって開発しているあれに匹敵する性能の爆撃機。すなわち地球を半周するだけの航続力を持つ爆撃機の開発に成功していると考えていい」

「・・・なるほど、それに対抗するのがこの・・・A10ということか?」

「ええ、そうです。だが、なんでもできる万能機は手間がかかる。だから性能要件を極端に絞り込みました。それとA10は既存技術を可能な限り流用してます。名目上別府造船製とはなってますが、ウチ(別府造船)は航空機の製造なんて経験はないですからありとあらゆるところに外注してます。

 ウチが行うのは最終組み立て程度です。加えて製造単価や量産性も考慮した設計になってます。A10は零戦のような「美術品」じゃない。「道具」なんです。新規開発はエンジンくらい。これだって普通のエンジンから比べれば単純この上ない構造で、馬鹿みたいに安い。機体の費用も格安です。

 軍人さんは戦闘機の機体価格なんぞ興味はないかもしれないけど、海軍の零戦の価格はおおよそ15万7000円。それに対して、A10は7万円を切ります。零戦1機の価格で、A10なら2機調達できる。ね?格安でしょ?零戦1機の価格は海軍中佐の給料おおよそ4年分ですが、A10は2年分。無理すれば分割払いでA10を購入することができますからねぇ」



 海軍中佐の俸給で換算してきやがった。志賀少佐の表情が変わった。もしかして購入する気なのか?

 まぁ、この親父が自分たちとは違った視線で戦争を考えているということはよくわかった。



「こんな単機能の尖った機体にフツーの戦闘機搭乗員なんぞ乗せちゃぁ駄目です。まず間違いなく死にます。そこで、部隊編成にあたってはお二人に要員、特に搭乗員の人選に気を遣って欲しいのです。可能であれば空中指揮者は爆撃機とドンパチやったことがある人間を引っ張ってきてください。

 あとは戦闘機乗りでない搭乗員。艦攻、艦爆乗りや輸送、偵察機乗りあたり。戦艦、巡洋艦の水偵搭乗員なんかは特にいい!

 零戦や隼のような軽戦闘機乗りは絶対駄目です。あいつらを(A10に)乗せたら無茶やって墜落する危険性がある。いくら止めても絶対に最高速域で戦闘機動を取る。戦闘機動が身体に染み付いてるんですよ。アタマがそう思わなくても身体が反応しちまう。で、その結果が墜落。いくらA10が安いと言っても、佐官の年収2年分ですから庶民からしたら決して安い金額じゃない。あと、搭乗員を一から養成するにはおおよそ3万円かかる。機体代金7万円と合わせて墜落1機でキリよく10万円の損失。ね?大赤字でしょ?「転ばぬ先の杖」と言うじゃないですか。そういうことで経験者はなしで!ああ、あと飛行隊の業務は異例ですが現在の業務と兼務ということになっています。それとついでにA10の評価をお願いします。基本設計をした渡邊鉄工によると要求性能は全て満たしているし、一応「飛ぶ」そうですから」



「え?これ(A10)って本当に飛ぶのか?」



 志賀少佐。的確な質問だ。いや、そっちじゃない!私は少佐に続いた。


 

「ここ(関東)と九州とで兼務なぞ無理でしょう。移動だけで丸一日以上かかります」

「その点は全く問題ありません。ここ(陸軍多摩飛行場)と追浜(海軍航空技術廠)にそれぞれ二式練習戦闘機を飛行隊専用機として配置するよう根回し済みです。海軍の宇佐航空基地か大分練兵場に降りてもらうことになるんですが、2時間かからんと思います。陸路より数段マシです。操縦士付きにしますんで大丈夫です。ああ、操縦士は候補生が担当しますんで、彼らの教練もお願いします。あとは運用ですが、哨戒・迎撃網との連携についてはA10の初期完熟訓練終了までになんとか整えます。お二方はA10操縦のコツを掴んで隊員に教授できるよう努力願います」


 

 専用機まで用意している・・・そして移動も訓練に使う気か・・・実業家というのは恐ろしい。



「とんでもない事になりましたね。坂井中佐」



 志賀少佐(後で聞くと空母加賀で戦闘機に乗っていたらしい。所謂「硝煙の匂いを嗅いだ男」と言うやつだが戦場帰り特有の尖った物腰は見られない)が困った様子で私に話かけてきた。実際困った。相手は専用機まで用意してここ(多摩)と九州との間で兼務をさせようとしている。移動時間は数時間とはいえ、晴天の日ばかりではない。おまけに「運転手」が嘴の黄色いヒヨッコときている。先日の「思いもよらぬ昇進」とこれから舞い込んでくるだろう厄介事を想像すると気が重くなる。もちろん、A10などというキワモノ飛行機という最大級の厄介事は含まれないのはいうまでもない。



「まったくだ。搭乗員養成費用や機体運営費の具体的数字とか真面目に聞いたことなかった。「当然、そこにあるもの」と思ってたからね。しかし、戦争というものは金がかかるな。数万円という身の丈に合った数字ではじめて飛行機の価値ってのがわかったな」

「俸給換算でやってきましたからね。妙に納得してしまいました。しかし大変だ。自分は先月海軍航空技術廠に着任したばかりなんですよ」

「俺も同じだ。先月まで陸軍大尉だったんだ。たぶん、これを見越しての昇進だと思う。専用機まで準備するくらいだからまったく本気なんだろうな。もっとも半人前操縦士の教育も俺達がやらにゃならんようだが・・・」

「問題はA10です。自分は正直乗りたくない。素性が怪しすぎる」

「同感だ。でも乗るしかない」


 そこまで言って、私はこの状況とこれから先に胸を躍らせていることに気がついた。「今までの前例が全くない」航空機は私の中の子供心を大きく動かすものだったようだ。


 

「陸海軍合同独立日出飛行隊かぁ」



 つぶやきは他人事の様に響いた。


坂井中佐

1909年(明治42年)生の日本陸海軍でも最古参に分類される生え抜きの搭乗員で、北支、ノモンハンを戦い抜いた歴戦の勇士でもある。

「乗っていない飛行機はない」

と言われるほどありとあらゆる機体に精通している。(搭乗した航空機は50種を超える)

戦隊長の傍ら、陸軍航空審査部のテストパイロットを兼務しているため、部隊専用機が海軍大分基地に駐機されており、明野と大神を忙しく往復している。

昭和18年現在三式戦に空冷発動機を載せた改良型戦闘機の試験に従事している。

A10が「使える」機体になっているのは坂井と副長の志賀少佐の尽力によるものが大きい。


志賀少佐

1914年生。海兵62期。海軍少佐

母艦搭乗員を経て海軍航空技術廠のテストパイロット兼務という形で部隊の運用補佐と、A10の改良に携わっている。

陸海軍混成部の日出特殊飛行隊が、大手を振って宇佐、大分の海軍飛行場を使用できるのも、志賀少佐によるものが大きい。


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― 新着の感想 ―
[一言] > 陸軍航空審査部長、阪口中将からの呼び出しでニューギニアで鹵獲された戦闘機の地上調査を行っていた私は調査を中断し審査部の応接室に入室した私は、開口一番こう切り出された。 ここの文が誤字報告…
[一言] 間違ってない?   昭和18年2月下旬は既に3期目じゃないか❗ 4選目の間違いでは?
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