受験生編8
「これはドイツ語」
たくろーが日記の正体を教えてくれた。
「道理で読めないわけね――でも、そんなのよく知ってるね」
「姉ちゃんが第二外国語でやってるのを少し教えてもらっただけ――ウチにある辞書を読んでたら、書けないかと思って」
「ふーん」
「オレの一人言のようなものだから、本当に通じるか分からないけど、大学に入ったら、もっと勉強したいし」
「志望校とか決まってるの?」
「とりあえず国立大に入って、母さんを安心させたいんだ――それに、バイトして、送金してくれてる姉ちゃんに金返さないと」
「そんなとこ、受かるの?」
「だから、予備校に来てるじゃないか」
たくろーの希望は高くて、あおいには無理だと思ったが、あおいも行けるものなら、国立大へ進学して、みずきに予備校のお金を返したかった。
夏休みも終わり、その成果が試される時が来た。この前の模試までは志望校が確定してなく、近くの女子大を第一志望校にして、「B」判定だったが、今回は国立大にしてみることにしていた。
結果が返ってきた日、あおいは図書館に来ても、勉強する気がしなかった。その結果を見直しても、やはり「E」だった。
「それでイーってことなんじゃない?」
たくろーは慰めのつもりで言っていたが、その言い方はどうでもいいとしか聞こえなかった。今年初めての模試は「D」判定だった。図書館で勉強するようになって、C、Bと上がっていき、今度は「A」になるはずだった。
「スランプじゃない? ダイエットでいうリバウンドみたいなものだよ」
スリムな体型しているたくろーが言っても、全然説得力なかった。
「そんな身体でダイエットしたことあるって言うの」
「ムシみたいって言われてたから、いっぱい食べて、大きくなろうとしてたけど、外に出ないと運動不足で逆に太っちゃって、ダイエットしてたら、コントロールできなくて、拒食症にもなって、病んだ」
たくろーは一つしか変わらないのに、色んなことを経験していた。その方が受験勉強なんかよりも実生活に役立つ気がして、関心を持っていた。
「無理に頑張ろうとしなくたって、やった分は必ず返ってくるから――無理してるとオレのように大切なものも失っちゃうしね」
たくろーにとって大切なものとは何だろう。自分自身をコントロールするようなもの――たくろーの人生にあおいは何の影響もすることはできない。本当に関心はないのだ。あおいがどんなに関心を持ってても、たくろーがあおいのことを聞いてくることはないのだから。
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