受験生編7
期末テストも終わり、もう少しで夏休みという頃まであおいは図書館に通っていた。
「本当に皆勤賞だね。夏休みもここに来るの?」
あおいはたくろーに何気なく聞いてみた。
「夏くらいは予備校に行こうと思って――夏休みに入ると、小、中学生も宿題やりに来るから、集中できないしね」
たくろーは長くここに通っていたから、図書館のことをよく知っていた。
「そっか」
あおいはいつかたくろーが見ていたチラシのことを思い出し、もう一度見直してみたが、両親に相談する雰囲気ではなかった。
あおいのおじは三年前に突然亡くなり、それを追うかのようにおばが蒸発した。残されたいとこは居場所がなくなり、ウチに転がり込んできた。それからというものの、姉弟と変わらない生活を送っていた。あおいは弟が一人増えたくらいで何ともなかったが、いとこと同学年に当たる弟とは毎日のようにケンカしていた。ケンカと言っても、弟の方が強くて、本当の兄弟でもないのに、一緒に暮らしているのがワケありと見られて、嫌なのだとかでいとこは学校にも行けない状態になった。そんな弟達も中学三年生になり、少しは落ち着いたが、彼らも受験生なのだ。
「オレは絶対私立行くから、瑞樹は働けばいいんだよ」
二人とも私立にやるのはお金がかかるから、公立にしなさいと両親が言っても、弟はやりたいことがあるらしく、譲らない。いとこのみずきは不登校気味の期間があって、公立高校に進学するのは無理があった。それでも進学したいので、たくろーのように頑張って勉強をしていた。少しでも力になれないかと勉強を教えてあげると、「なんでみずきだけ――」と弟が僻んだ。
そもそもあおいも受験生なわけで二人に勉強を教えている暇なんかなく、なるべくなら、二人のことに関わりたくなくて、図書館で勉強していた。図書館なら、お金もかからないし、両親も何も言わないが、予備校となると、話が違った。
たくろーのウチはお金持ちなのだろうか――だったら、最初から予備校に行くはずだ。たくろーは母子家庭だと聞いていた。たくろーは初めて会った時にア行しか話さなかったのと何か関係があるように思っていた。その頃とは別人のように何でも話してくれるようになったが、あおいは自分のことを話す気にはなれなかった。たくろーは女には関心がなく、聞き流されるのが嫌だった。もっと親身に話を聞いてくれる人に話したかった。
「あおい、予備校に行きたいんじゃないの?」
あおいの部屋でチラシを見つけた母がこっそり聞いてきた。
「夏期講習だけ――でも、そんなお金ないんでしょ?」
「おばさんがお金送ってくれたのよ。お金まで受け取るとみずき君も出ていきづらくなるからって思ってたけど、お父さんも居場所も分からず、どうやって返すだとしか言わないし、みずき君はみずき君でウチから公立高校に通いたいって言うしね」
あおいも予備校に行けるようになった。